690.英才教育機関受講申し込み受付開始
さて、今日から英才教育機関の受講者申し込み開始です。
あまりにも不安だったのでギルド本部から事務員を貸し出して申し込み受付を四名態勢にしました。
一名は子供たち専用の受付、残り三名が親たち専用の受付ですね。
受付開始はお昼過ぎから開始……なんですが、まあ。
「皆さん、気が早いこと早いこと……」
「それだけ皆必死なんですよ、ギルドマスター」
お昼前に英才教育機関までミライさんと様子を見に来れば、既に親とみられる大人たちの列がずらりと……。
衛兵まででる騒ぎになっていました。
とりあえず衛兵たちには一言ずつ謝ってから僕たちも英才教育機関内へ。
内部からも外の様子は伝わってきているようで、受付係は戦々恐々としています。
「皆さん、もう少しで開門時間、つまり受付開始時間ですが無理をしない範囲での対応をお願いします。番兵は出しておきますので」
「番兵……ですか?」
「番兵です。出てきてもいいですよ、ヒバナ」
僕が名前を呼べば受付の正面に巨大な火の粉をまき散らす熊が出現しました。
さすがに受付係もミライさんでさえ腰が引けてます。
「ギルドマスター、この聖獣様は?」
「フラッシュワークベアのヒバナです。しばらく、親たちが暴走しないように番兵として残して置きます」
「……ギルドマスター、こんな物騒な番兵いるんですか?」
「外の様子を見て必要がないとでも?」
「……出過ぎた口を」
「さて、そろそろ開門時間ですね。皆さん、覚悟を」
「……覚悟なんですね、ギルドマスター」
「はい。覚悟です」
「「「はい……」」」
そして、開門時間になるとやはり親たちが順番こそ守ってはいますがなだれ込んできました。
皆さん必死ですね、先着順ではなく抽選だと事前告知してあるのに。
受付係も大忙しです。
そんな中、母親を引き連れてかわいらしい女の子がやってきました。
見た限り五歳か六歳くらいでしょうか?
「おや、いらっしゃい」
「あれ、お兄ちゃん誰?」
「ああ、『ウサギのお姉ちゃん』の講習会にはもう行っていませんからね。錬金術師ギルドの一番偉い人のスヴェインですよ」
「そうなんだ。『えいさいきょういくきかん』ってどんなことをするの?」
「錬金術を一から教えるところですよ。『ウサギのお姉ちゃん』の講習みたいにいきなりポーションや傷薬は作れません」
「そっかー。でも、お勉強すればできるんだよね?」
「もちろん。最初は基礎の基礎から始めることになりますが、一年でポーション作りまで進む予定です」
「それってお家でも作れるようになる? 『れんきんだい』は買ってもらったけど青いお水も作れないの」
「作れるようになりますよ。さすがに薬草が手に入るかどうかが問題ですが、ここで作る分には傷薬だってポーションだって教えてあげます」
「じゃあ、ここで頑張りたい! どうすればいいの!?」
「そちらの空いている受付でお名前と住んでいるところを教えてあげてください。お母さん、この子のサポートをお願いします」
「は、はい。でも大丈夫でしょうか? この子が通いたいというので連れてきましたが……」
「大丈夫ですよ。先着順ではなく抽選になりますがやる気のある子供は歓迎です」
「ありがとうございます。ユリナ、お名前とお家の場所は伝え終わった?」
「お家の場所、正確に伝わらない……」
「じゃあ、お母さんが伝えてあげるわね。申し訳ありませんがこれで……」
「ええ。お子さんの手伝いをしてあげてください」
ユリナちゃんという子供はしっかりと名前と住所を伝え終わったあと、ヒバナと遊びたくなったらしくそちらも許可してあげました。
ヒバナはその名の通りは常に火花をまき散らしているのですが、本人の意思がなければ熱くもなんともなくただ綺麗なだけですからね。
ヒバナと遊び終わったユリナちゃんはお母さんと一緒に帰っていき、その間も大小様々な子供が子供用受付にやってきています。
ある程度年長の子供たちは自分の家の住所をしっかり言えるのですが、年少の子供たちは地図を見ても指し示すことができないことが多く、一度帰って親を連れて戻ってくることが多かったですね。
その時、親御さんたちは子供たちが自分から錬金術師ギルドの英才教育機関に飛び込んで行ったことを知らなかったらしく、目を白黒させる結果となっていました。
年長の子供たちはともかく、年少の子供たちにはヒバナの姿も大受けで皆遊んで帰っていきましたけどね。
やがて夕方となり受付時間も終了、閉門時間となったあとは申し込み者の集計です。
「さて、親御さんたちだけの申し込みはどれくらいになっていますか?」
「はい、ギルドマスター。既にどの世代も百人を超えています。明日以降も考えると間違いなくどの世代も五百から六百人は集まるかと」
「概ね予想通りですか。子供たちが自ら来たのは?」
「こちらは全部で四十二名。年少者が一番多く、年長者が今のところもっとも少ないです」
「あれ、四十二名も来ていましたか」
「はい。『ウサギのお姉ちゃん』の効果、かなり出ていますよ」
「できれば子供たちだけで来た部分は抽選になってもらいたくないものですね」
「そうですね。子供たちをがっかりさせたくありません」
「では、明日以降も受付をよろしくお願いします。子供だけで来た場合はなるべくサポートを」
「「「はい」」」
受付期間は合計二週間。
できれば子供たちの自発的な申し込みだけで可能な限り埋まってもらいたいものです。
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