691.英才教育機関受講者決定
「ふーん。そんじゃ、初日から親だけの申し込みは殺到かよ」
「すごいですね。親世代の熱気は」
「それだけ関心が高いと言うことだろう。無論、錬金術師ギルドはそのように甘くはないがな」
「その通りです。ギルドマスターの鍛え上げた『新生コンソール錬金術師ギルド』はそんなにやわじゃありません」
「そこまで厳しくしてましたかねえ……」
受講者申し込み期間も終了し、本日は錬金術師ギルドにてジェラルドさん、ティショウさん、フラビアさんがやってきて茶飲み話です。
話題はもちろん英才教育機関の昨日終了した受講申し込みについて。
結構波乱があったんですよね……。
「それで、どうなったのかね、申し込み状況は?」
「はい。子供たちが自発的に申し込みしてきたのは、年少組で二百八十八名、年中組で二百九十二名、年長組で三百十二名でした」
「それって親だけの申し込みはほぼ席がないですよね?」
「ありませんね。年長組に関してはあふれていますから席なんてありません」
「どうしてそこまで席が埋まった?」
「初日は出足が鈍かったんですよ。ただ、日を追うごとに子供たちからの申し込みが増えてきました。多分、子供同士のネットワークに乗ったんでしょう。さすがにコンソールでは錬金術師系統以外に教えるわけにいかないため、受付で断った子供たちも年少組だとかなり多かったようですが」
「ここでも『ウサギのお姉ちゃん』効果なんですね……」
「ええ、『ウサギのお姉ちゃん』効果みたいです。コンソールも親世代がかなり余裕が出てきましたため、子供に普通の錬金台を買い与えている家庭があるらしいのですが魔力水を作れずに不満を感じている子供たちが多いみたいです」
「そいつあ……どうなんだ、ミライの嬢ちゃん、行き過ぎじゃないのか?」
「うーん、子供たちに熱意があることはいいことなんですが……来年のことを考えるとどうなんでしょうね?」
「来年からはどの年代も子供たちからの申し込みだけで抽選が始まりそうです」
「対策はないのかね?」
「考えさせますが難しいでしょう。講師三名体制じゃ今以上の受け入れ人数にできませんし」
「難しいですね」
「難しいです」
子供たちの熱意とネットワークを少々甘く見ていましたかね。
椅子は魔力枯渇を起こして気持ち悪くなっても大丈夫なように背もたれや肘掛け付きの上物の椅子を用意してありますが、子供たちの熱意が心配です。
そこの加減もうまくやってくれるとありがたいのですが、最初は手探りからでしょう。
「それで、親からの申し込みは受け入れるのか?」
「そこが問題です。親からの申し込みは各年代五百件を超えているんですよ。年長組は全員はじくのは決定ですが年少組と年中組に入れていいものかどうか」
「そこも難しい問題だな。受け入れるにしても十名前後。空席でも大した問題はない。むしろ無理に受け入れて熱意の差が出た方が問題か」
「そうなんですよね。最初から自分の足で飛び込んできた者と無理矢理入れられた者、その差がどう出るのかがいろいろ心配です」
「だがよ、ひとりも親からの申し込みで受講者を出さないってのも問題じゃないか?」
「知りません。そこは錬金術師ギルドの基準です」
「知りませんって……いいんですか、ミライさん?」
「いいと考えています。先ほども言いましたが『新生コンソール錬金術師ギルド』はやわじゃありません」
「ふむ。そこまで口を挟むことではないか。そこは錬金術師ギルドに任せよう。それにしても三百人の定員がほぼ子供たち自らの名乗りで埋まるか。うらやましい」
「僕としても想定外でしたけどね。よくて百五十埋まればいいかなくらいでしたから」
「そんだけいまのコンソールで錬金術師は人気の職業ってことか。来年からは入門選考も厳しくしていくんだろう? 大丈夫かよ」
「まあ、大丈夫でしょう。支部の綱紀粛正も進んで来ましたし」
「綱紀粛正か。どれだけの破門者を出している?」
「今のところ七十名ちょっとです。ウエルナさんからの報告ではまだまだ増えると」
「本当に厳しく行くことにしたな『新生コンソール錬金術師ギルド』はよ」
「根腐れを起こしたくないので」
「そこは構わん。商業ギルドとの契約はどうなっておる?」
「はい。一般品質のポーションについては独占契約を解除してもらう算段がつきました。あとは時期が決まればギルドでの直接販売や冒険者ギルドへの販売ができます」
「つーことはペガサスブランドもいよいよ廃止か」
「いいかげんやめたいですからね。いつまでも僕の手に頼っていてはいけないでしょう?」
「だわな。そうなってくると、いずれ来るカーバンクルブランドの廃止も視野に入れなくちゃなんない時期か」
「そちらは『学園国家』樹立まで大丈夫です。でも、いまから検討しておいてください。特に、高品質ミドルポーションと高品質ミドルマジックポーションは手に入らなくなります」
「……『新生コンソール錬金術師ギルド』でも無理か?」
「おそらく今の代では。高品質ミドルポーションに手が届けば奇跡ですね」
「そうか。そうなると今後は『学園国家』からの輸入品になっちまうか」
「高く売りつけるつもりはありませんがそうなります。それもニーベちゃんとエリナちゃんが残っている間だけですね」
「そいつもそうか。あのふたりだっていつかは飛び出していくよな」
「僕とアリアの研究を受け継ぎたいと言い始めましたからいつになるかはわかりません。ただ、いずれは一度世界を見に行くでしょう。コンソールだけで満足していられるようなふたりじゃないですよ」
「そりゃそうだ。で、話を戻すが第一期の英才教育機関受け入れはどうするんだ?」
「講師の三人と話し合って決めます。僕としては今年の段階ではテストケースになるためにどちらでも構わないですから」
「投げやりだな」
「セティ師匠に直接指導されてきた三人を信じているだけですよ」
講師の三人と話し合った結果、今年は定員いっぱいの三百人まで受け入れることになりました。
無理矢理送り込もうとした親たちには申し訳ありませんが子供たちの意思を尊重しなかった罪と考え諦めてください。
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