第十七部 再び講義する錬金術師と輝く夏

615.四年目の夏、始まりの夜に

「スヴェイン、よ……」


「ユイが散々じらした上に誘惑してきたからです」


「でもぉ……」


「自業自得です。それにしたのはユイでしょう?」


「うん……」


 今日から夏が始まりました。


 春の間は本当に僕とアリア三人で常に寝ていたユイでしたが夏に季節が変わった途端、僕に『愛してほしい』とをしたのです。


 僕も……その、冬の終わりから春の間かわいい妻との添い寝をずっとしてきたのにずっとだったわけで……激しくしすぎてしまいました。


「……先に私でよかった。アリアも『愛してほしい』って言ってたんだよ? アリアが先だったら本当に壊れちゃってたかも」


「それを見越しての順番ですか?」


「えへへ……」


「まったく、この妻たちは」


「仲がいいのがうらやましい?」


「少しばかり」


「いいでしょ?」


「いいですね」


 本当に仲が良くてうらやましいところがあります。


 女性同士の間に割り込むつもりはありませんが……本当に少しばかりうらやましいかも。


「ねえ、スヴェイン。ちょっとだけ確認」


「なんですか?」


「……私が本気で子供がほしいって言いだしたら受け入れてくれる?」


「受け入れてあげますよ」


「ごめんなさい。いまのは忘れて」


「本気だったんですか?」


「少しだけ迷いがあったの。ほら、私たちアムリタを飲んじゃったじゃない」


「飲みましたね。神獣様からいただきましたから」


「それでね。リリスがかわいそうって感じちゃったの。ああ、これでリリスはもう一緒に歩めないんだって」


「リリスはついてくることができるところまではついてくるでしょう。ですが、永遠を望まなかった。それだけです」


「……うん。だからこそ、早く私と……ううん、スヴェインの子供を抱かせてあげたいなって考えちゃった」


「そんな哀れみのような感情で動いてもリリスは喜びませんよ?」


「……だよね」


「それに学園国家が動き始めているのです。リリスの前で先ほどのようなをはいたら本気ではたかれますからね?」


「……それもわかってる。でも、少しでもリリスの願いを叶えてあげたいなって」


「そう感じるのでしたら、少しでも立派な人間になりなさい。リリスが仕えていて誇れるような人間に」


「そうだよね。それが一番だよね」


「……怖いんですか? 僕やアリア、リリスから見放されるのが」


「……ほんの少しだけ怖いことがある。私のせいでスヴェインやアリアに傷をつけたらどうしようって」


「その程度でしたら僕もアリアも気にしませんよ。あなたが怖がっていることの方が気になります」


「……ありがとう」


「少し抱きしめてあげますか?」


「少しじゃなくぎゅって抱きしめてほしい。たくさん」


「わかりました。お姫様」


 僕はユイの体をそっと引き寄せ抱きしめると、ユイに軽く口づけをしてそのままにしてあげます。


 すると、ユイは震えながら泣き始めて……困りましたね。


 本当に女心ってわかりません。


「ユイ、大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ、スヴェイン。ああ、愛されているんだなって感じたらたまらなくなって……私、本当に愛されているんだなぁ」


「当然です。いつも言っているでしょう、僕もアリアもあなたのことを愛していますよ」


「うん、ありがとう」


「どういたしまして」


「……ねえ、今更だけど里帰りしてお父さんとお母さんに結婚の報告をしたいって言ったら怒るかな?」


「本当に今更ですね。前、聞いたときはあんなに拒んでいたのに」


「うん……アムリタを飲んだら世界観が全部変わっちゃった。いまのうちにお父さんとお母さんにもあいさつをすませておかないと二度と会えなくなっちゃうかもと考えたら、すぐにでも会いに行きたくなったの。愛するスヴェインとアリアも一緒に」


「構いませんよ。それに、それは僕たちからも提案する予定でしたから」


「スヴェインたちからも?」


「夏の間にシュミットに帰省します。お母様が去年来たときに約束いたしました。一週間ほど滞在する予定なので、その時にごあいさつしたかったのですよ」


「そっか。じゃあ、絶対にあいさつしなくちゃ」


「そうしましょう。ほかに望みは?」


「服飾師の皆とも会いたい。それこそ、皆と」


「つまり、服飾講師だけではなく講師になってない方々などもですね?」


「うん。私は早々に卒業しちゃったけど英才教育機関の頃から親交のあるお友達がいるし、各師匠を渡り歩いた時の兄弟子や姉弟子たちでつながりがある人もいるから。……ただの〝ユイ〟として見てもらえるか不安だけど」


「ユイなら大丈夫でしょう。お邪魔なら僕やアリアはご一緒しませんよ?」


「ううん、ふたりは絶対に一緒に来て。愛する旦那様と上の奥様を紹介しないわけにはいかないから」


「わかりました。ほかにご要望は?」


「ええと、スヴェインたちと一緒に食べ歩きとかをしたい。ほかにも……ああ、私、シュミットですら遊ぶ場所を知らない……」


「ユイらしい」


「スヴェインだって知らないでしょう?」


「知りませんね。僕はお忍びでアリアと一緒に街へと何回か出たことしかありませんから」


「そうだよね。服飾師仲間に相談してみようかな……」


「それもいいかもしれません。あとは?」


「うーん。服飾講師訓練所にも顔を出してみようかな? 私、まだまだ下位講師だったけれど」


「いいんじゃないですか。ニーベちゃんやエリナちゃんも錬金術講師訓練所には興味を示すでしょうし」


「あ、やっぱりあのふたりも連れて行くんだ」


「嫌なら夫婦三人だけでもいいですよ?」


「そんなことない。むしろ、家族全員で行きたい」


「それはサリナさんやミライも?」


「連れてっちゃダメ?」


「本人たちが望むのなら。いい勉強になるでしょう。特にサリナさんには」


「だよね。ああ、あと……」


 このあともユイはかわいらしいおねだりをいくつもしてくれて、話し疲れた頃には僕の胸の中で眠っていました。


 本当にかわいいお姫様です。

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