本部錬金術師選抜試験

616.破門宣告と新規入門者受け入れ

 さて、夏になりました。


 今年の夏は初日からやることがたくさんです。


 そのため、初日朝から錬金術師ギルド幹部会議。


 ギルド本部からはギルドマスターである僕にサブマスターのミライさん、次期ギルドマスター代理のハービー、次期サブマスター候補筆頭のアシャリさん、ギルド支部からは支部長のイーダさんに支部長補佐のロルフさん、更にシュミット講師陣筆頭のウエルナさんまで全員勢揃いです。


 話し合う内容は今日これから講堂で行われる内容について。


 つまり、です。


「さて、破門者たちへの宣告まであまり時間もありませんし手短にいきましょう。時間はそのあとたっぷりあります」


「はい。今年の破門者は合計四十二名です。本来ならこの三倍はいたんすが……」


「各街に散ったんでしょう? いいことです。各街のポーション供給力も多少とは言え上がりますし」


「スヴェイン様にそう言っていただけると助かります。すみません、毎年大量の除名者を出しちまって」


「ウエルナさんたちシュミット講師陣が悪いわけではありませんよ。シュミットでも落ちこぼれる人は出るのでしょう?」


「ええ、まあ。さすがに俺たちはシュミットじゃ講師をやらないんで実際どの程度落ちこぼれているかわからないんですが」


「この夏、僕はシュミットに帰省します。その時に聞いてくるのも悪くないかも知れません。そうなると……一週間では滞在期間が足りないかも」


「ギルドマスター、十日間とか空けるのはやめてくださいね? 業務に支障が出ます」


「ミライさんがいれば大丈夫では?」


「……私、置いてけぼりですか?」


「冗談ですよ。ただ、本気で向こうに十泊する可能性も考慮しておいてください。申し訳ありませんが、その時はハービーかアシャリさんがギルド評議会で錬金術師ギルドの椅子に」


「それでは私が座ります、ギルドマスター様。ハービーさんはまだ経験不足でしょうし」


「お願いできますか、アシャリさん。さすがに、いまの俺じゃあの椅子は……」


「では、アシャリさんが座ってください。基本的に定例報告以外の議題は出ないようにしておきます。例外事象が発生しても一週間報告が遅れてもいい内容なら遅らせて構いません」


「いえ、ギルド評議会でご報告いたします。その程度の経験は積んできたつもりです」


 ……アシャリさんも立派になりました。


 これなら本当に一週間以上空けても大丈夫そうです。


「それで、ギルドマスター様。本日はこれから破門宣言ですよね。午後は新規入門者受け入れとなっていますが……選抜はいつの間に?」


「ああ、アシャリさん。それなら春の終わり頃に俺たちがすませてある。今年からは錬金術師ギルド本部採用からスタートってことで二百名予定を目安に採用を目指したんだが……」


「ウエルナ様?」


「すまねえ、スヴェイン様。百八十七名しか採用できなかった」


「原因は? 審査が厳しすぎた? それとも入門者希望者が甘すぎた?」


「どっちもです。熱意がある連中は故郷の街を目指しちまったんでしょう。今年採用できたのはコンソールに根を下ろして動けなくなった連中がほとんどです」


「審査が厳しいのは仕方がありません。入門希望者が甘いのは……今後のたるみが心配ですね。ミライさん、下級ポーションの買い取り価格値下げは行ったんでしょうね?」


「はい。一般品質のポーション、ディスポインズン、マジックポーション。以上の品の買い取り価格を下げました。また、納品数が一定数を下回らないように支部の第一位錬金術師まではこの夏から納品数のノルマも設定してあります。ポーションの在庫過剰が発生してくればノルマを減らしますがしばらくは様子見です」


「結構。第一支部の事務方からは?」


「今のところ問題は出ていません。ただ、検品体制と納品受付係を強化していただきたいです」


「検品体制と納品受付係の強化、ですか。回らなくなってきましたか?」


「いまの時点では回ります。ただ、ミライサブマスターの施策が回り始めると下級ポーションの買い取り数が一定数を下回らなくなるでしょう。そうなると納品受付と検品が怪しくなってきます。どうか検討を」


「……ミライさん、先を見据えてから行動を」


「……追い出されませんよね?」


「この程度では追い出しません。いつまで怯えているんですか、まったく。あなたの責任ですぐにでも納品受付係と検品体制の増強を。ギルドマスター決裁は通します。今日の予定が終わったらさっさと商業ギルドに行きなさい」


「はい!」


「ほかに懸念事項は?」


「今のところはありません。問題があるとすれば……ウエルナさんたちシュミットの方々とも相談しているのですが、下火になった第二位錬金術師の扱いですね。彼らは最上級品しか作っていないので貢献していると言えば貢献しているのですが……」


「そちらも問題ですよね。ウエルナさん、本部の第二位は結果を出しました。支部でも破門ラインを切ってよろしいでしょうか?」


「構わないと考えます。本部連中だってスヴェイン様たちの実演だけで二年ですからね。支部にいるからって怠けられていても困る」


「では、この夏より第二位錬金術師に上がってから五年以内に成果を、シュミット講師陣に製法を教わることなくミドルポーションを解明できなければ破門としましょう」


「五年ですか。厳しいですね」


「〝シュミットの賢者〟の錬金術学は与えてあるんです。ミドルポーションだってシュミット講師なら誰でも作れるでしょう? 実演だけ行ってもらい、五年で結果を出していただかないと支部に居座られても困りますよ」


「まあ、確かに。錬金術はスキルレベルで頭打ちはありますがそれってミドルマジックポーションっすからね」


「そうなります。ミドルポーションの製法を公開したらまた基準をあらためてもらいますが、錬金術師ギルドは今のところ高給取り。それに見合った成果も出していただきましょう」


「わかりました。明日、ギルドマスター命令として全錬金術師に伝えます」


「はい。同時に毎年の破門内容も明示して構いません。もう三年経過しましたし、噂レベルで不安がらせるよりも最初から結果を出さないといけないことを示してもらいましょう。イーダ支部長もロルフ支部長補佐も構いませんね?」


「「はい」」


「ではそろそろ破門宣告の時間ですので講堂に行きますよ、ミライさん、ハービー、アシャリさん。それが終わったらミライさんは即刻商業ギルドです」


「はいっ!」


 さて、破門宣告は毎年荷が重いですが錬金術師ギルドマスターをしている限りは背負わなければなりません。


 それから、午後は新規入門者の受け入れですが……今年は何人本部付き錬金術師になってくれるでしょうか?


 三階一部屋四十人はほしいのですが……。



********************



「……以上、あなた方百八十七名を採用し。本部にふさわしくないと判断された場合、即刻支部に送られますのでそれに従うように。従わない場合はギルドマスター命令としてギルドから除名です。いいですね?」


「「「はい!!」」」


「よろしい。それでは各自、先輩方の案内に従い各アトリエに移動するように。そのあとの内容は先輩方の判断に任せています。それに従いなさい」


 先輩たち……第二位錬金術師たちに案内されて講堂を出て行った


 さて、初日はローブを渡す前に自己紹介をすることにさせていますが……第二位錬金術師たちは甘くないでしょうね。


「ギルドマスター。、何人いますかね?」


「ハービー、そんなひとりもいてほしくないですが……第二位錬金術師たちのことです。それなりの支部送りが今日の時点で出るでしょう」


。この意味も理解しているとお考えですか?」


「最悪それも使えと指示しています。講師に立つ間は第二位錬金術師たちがですからね。それを理解できないようでは本部どころか『新生コンソール錬金術師ギルド』にふさわしくありませんよ」


「相変わらずお厳しい。その厳しさも引き継がなければなりませんね」


「風通しまでは悪くしないでくださいね? 根腐れと腐敗の原因になりえますから」


「承知しています。想像以上に舵取りが大変そうだ」


「本部は大丈夫ですよ。今年からは英才教育機関も動きます。それに来年からは『ウサギのお姉ちゃん』の教えを受けた子供たちも入門試験を受け始めますから」


「……それ、入門試験を請け負うウエルナさんたちが大変じゃないですか?」


「今度は絞り込みができないかも知れませんね」

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