614.挿話-40 『竜災害』

「『竜災害』だあ!?」


「正気か! スヴェイン殿!?」


「そんなことをすれば本当に国が!?」


「滅びます。連れてくるのも後腐れがないように火竜族の下位竜数匹にとどめておきましょう。邪竜族や腐竜族、黒竜族などを連れてきては聖竜の炎で浄化しない限り百年単位で誰も立ち入れない不毛の大地になりますから」


『竜災害』とは、その名の通り『竜』によってもたらされる災害。


 わかりやすく言えば竜による国への侵攻です。


 そんなことを小国が、それも下位竜とはいえ数匹に襲われれば一日持たずに滅ぼされるでしょう。


「スヴェイン様、竜族の居場所をご存じで?」


「はい、ミストさん。すべてではないですが、カイザーで二日の範囲なら調べ尽くしているはずです。カイザーが殺されかけたのは邪竜族と黒竜族、両種族の連合部隊による不意打ちでしたから。ちなみに、殺してしまったのは黒竜族の『竜の帝』ですね」


「『竜の帝』、死ぬんじゃねえか」


「カイザーも死にかけていたので、心臓を貫くようにディストーションで切り裂けばいけるんじゃないかと試したらいけました。……黒竜族は『竜の帝』がいませんがどうなっているんでしょうね?」


「知るかよ。それで、火竜族の下位竜数匹と言ったがどこに住んでるんだ?」


「商業ギルドマスター、地図はありますか?」


「地図でわかる範囲でしょうか?」


「そんなところに知性の低い下位竜の群れがいたら国が存在しませんって。方角を指し示すだけです」


 商業ギルドマスターにこの周辺の国家地図を用意していただき、大体の位置を指し示しめしました。


 もちろん、地図に載っている範囲などではありません。


「火竜族の下位竜が……と言うか、いくつかの下位竜種がねぐらにしている陸地があるのはこの方向。下位竜がこちらの大陸に渡ってこようとしても数カ月は飛行を続けなければなりませんし、普通は途中で魔力枯渇を起こして海に落ち死にます」


「それで『竜災害』が滅多なことでは起こらないのか」


「下位竜のねぐらはほかにもありますから、が人里まで下りてくることがあります。それが下位竜による『竜災害』ですね」


「上位竜による『竜災害』は?」


「人がしつこく上位竜のねぐらを攻撃したり、上位竜の宝を奪ったり、『竜渡り』と呼ばれるねぐら移動の最中に上位竜へ不用意な手出しをしたときです」


「さすが『竜の帝』、話のスケールが違う」


「上位竜って知性が高いですから下手に怒らせない限りは温厚ですよ? 怒らせたら怖いですがね」


 そう言っても竜の宝や竜素材を狙った愚か者はあとを絶たないのでしょう。


 竜素材でしたら交渉次第で余り物を分けてくれるのに。


「それで、下位竜をどうやって連れてくるのかね? 下位竜の翼では数カ月かかる上に魔力枯渇で墜落するのだろう? それでは連れてこられないのでは」


を使います。あと、国を掃除したら責任を持って退治しますのでご安心を」


「ギルドマスターのって基本聖獣ですから安心できません。そして、ギルドマスターにとって下位竜数匹なんて取るに足らない相手なんですね……」


「『竜の帝』ですから」



********************



「さて、竜殿に頼みその背に乗せていただき透明化して国境まで連れてきていただいたが……スヴェイン殿が言っていたとおり下位竜は来るのであろうか……」


「ジェラルドさん、どうしてそんな余裕なんですかぁ……」


「ミライの嬢ちゃん、怖いんだったら聖竜に乗ってまでついてくんなよ」


「ギルドマスターのやることを見届けるのもサブマスターの務めですぅ……」


「そんなこと命令したのか?」


「……お役に立てないと夫人に戻れません」


「……こんなことしても『役に立った』って言えないだろ?」


「む? あれは……」


「なんだ? 黒い玉?」


「ずいぶんおっきいですね? ……ってドラゴンが飛び出してきた!?」


「下位竜が……十……十五……十八匹!?」


「なんだってんだ!? って最後は白い翼に黒いローブ……?」


「え、ギルド……マスター?」


「はい、お待たせしました。適切な数を送り込むのに時間がかかって」


「いや、適切な数って……下位竜があんなに飛んでっちまったんだぞ!? 本当に滅ぶぞ!?」


「滅ぼすためですから。……良心が痛みますが」


「いや、それよりもお主、その翼は? それに目も輝いているし、表皮も輝いているような……」


「ああ、これ。『竜の帝』の力を使っています。この力がなければ僕だって下位竜のねぐらまで数十分でいけませんし、下位竜を威圧して思い通りに動かせません。それに『ワープ』の魔法でここを指定するための魔力も足りませんからね」


「今回のはそれか……」


「はい。それよりも、ミライさんまでなんでついてきているんですか? 別にいなくてもいいでしょうに」


「お仕事だとよ」


「ここでこんなことを見届けるくらいならギルドで書類仕事をしていてください」


「そんなぁ……」


「それで、下位竜どもは本当に好き勝手暴れているが……どうすんだよ、これ?」


「『国』が滅ぶまではこのままです。僕が常に威圧していますからその範囲外には逃げ出せません。役目を終えたら申し訳ありませんがご退場願います」


「……よいのか?」


「こうでもしなければ戦火は拡大し続けるでしょう? えーと……」


「トランジスとショートサーキッツ」


「はい、その二国は隣の国に吸収されるでしょう。ですが、そのあとまではちょっと責任を持てません。できる限り善政を敷いてほしいですが……旧国家群の上、元が別国家です。無理な相談でしょうか」


「……いっそここで皆殺しの方が苦しまなくてすむかもな」


「……まことに残念です」


 下位竜たちは各王都を破壊し尽くし、戦争をしていた最前線を食い破り、主立った貴族が住んでいたであろう大都市を破壊したところで竜の爪を使いご退場願いました。


 このあと、この両国の国民に幸せが訪れるといいのですが……難しいのでしょうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る