きな臭い流れ
613.挿話-39 商業ギルドマスターからの情報
「商業ギルドマスター、あなたから僕をギルド評議会外会合に呼び出しなんて珍しいですね。それも『三人目』ふたりを両方連れてだなんて」
春が終わるという頃、商業ギルドマスターから商業ギルドへと僕にミライさん、アシャリさん、ハービーをの四人で来るようにお願いされました。
案内されたのは応接してではなく小会議室。
そこには冒険者ギルドのギルドマスターであるティショウさんにミストさん、ギルドマスター候補のフラビアさん。
医療ギルドマスターのジェラルドさんにサブマスターのアイーダさんまでそろっていました。
さらには商業ギルドマスターにサブマスターまで、嫌な予感なんてものじゃないです。
「ようこそ、錬金術師ギルドマスターご一行。とりあえず座ってください。会議室の椅子で申し訳ないのですが」
「いえ、構いませんが……今日は一体?」
「それについては……スヴェイン殿、ミライ様。カーバンクルによる部屋の隔離を」
「……わかりました。ミライさん」
「……はい」
僕とミライさんはすぐさまそれぞれのカーバンクルを使い完全結界で部屋を隔離します。
商業ギルドマスターがここまで秘密にしたい内容とは一体?
「……結界の展開は終わったようでございますな。我々以外の侵入者は?」
「誰ひとりとしていませんでした。そして、もう誰も部屋には入れません」
「ありがとうございます。今回の議題、評議会で話すにはあまりにも危険すぎる。評議会議長と同じ情報を持っているであろう冒険者ギルドマスター、そして『竜の帝』にのみお教えしたかったのです」
「僕に……ですか?」
ちなみに、『竜の帝』については『三人目』たちも極秘情報として知っています。
しかし、その僕に話したいこととはなんでしょう。
「今回の話題、前説抜きでまずは状況から。旧国家群のうち二国、トランジスとショートサーキッツが戦争を開始いたしました」
「……それはまことか? 商業ギルドマスター」
「はい、医療ギルドマスター。確認も取れております。確認された時点ではまだ小競り合いだけの模様でした。ですが、その情報から既にかなりの時間が経っております。既に本格的な戦争になっている可能性が高いかと」
「その話は冒険者ギルドにも流れてきている。あくまでも噂レベルだがな」
「やはり、国を越えた正確な情報となると商業ギルドに劣りますわ」
「今回はそのようですな。それらの国々では『職業優位論』による差別が特に酷かった。下位職の商人がトランジスやショートサーキッツに輸出に行けばすべての商品を奪い取ろうとする程度ですからな」
「……商売のルールもわきまえないとは」
「愚かを通り越えてますね」
「その時の商人さんは大丈夫だったんですか?」
「聖竜殿が助けてくださいました。結果として、その時商品を奪い取ろうとした商人やその連れ、行く手を遮ろうとした街の衛兵、国境を塞ごうとした国境警備員などが聖竜の炎で焼かれることになったそうです」
「『竜の帝』としてその報告は受けていたのかね?」
「受けていませんね。彼らにとっては些事なのでしょう。人に手を出したら報告するように命令を出しておくべきでしょうか?」
「その方がよいかも知れぬな。それで、その商人は無事帰ってくることができたのかね?」
「もちろん、護衛の冒険者を含め全員が帰りましたとも。ただ、その時には既に小競り合いをしているところを確認したらしく」
「なるほど……して、我々を呼び集めた理由は?」
「まずは情報の共有。私どもだけで抱えていていい情報ではありません」
「確かに。俺らも詳しい事情を知りたい話だ。ほかには?」
「今回の戦争で『コンソールブランド』が使われている可能性。どちらの国も竜宝国家コンソールが直接輸出はしていませんでした。直接はしていませんでしたが……」
「第三国を介して輸出されていた可能性はあると」
「そうなります。戦争で使われたところで一個人が多少強い武器を使っても大局に影響は及ぼさないでしょう。ですが……」
「イメージは毀損するな」
「そうなります。その上、どちらの国も小国。そんなことで国力を消費すれば周りの国々から攻め滅ぼしてくださいと言わんばかりのもの。それすらもわかっていないとは……」
「それだけ追い詰められていたのでございましょう。各商隊護衛について輸出入に行っている護衛の冒険者から話を聞けば、どの国もどんどん指導力を失いつつあるそうですので」
「ミスト様、それって大丈夫なんですか? また内乱状態に逆戻りじゃ……」
「ミライ様、その可能性がありえます。今回の戦争を火蓋に戦争の火種が各地で再拡大する可能性がありますわ」
「ひぇぇぇ……」
ミライさんは怯えていますが……ほかのギルドマスターやサブマスターはどっしり構えていますね。
ここは竜宝国家コンソール、竜の宝の国なんですから。
「それで、僕を呼んだ理由は?」
「『竜の帝』としてこの戦争に割って入ることはできないでしょうか?」
「不可能です。前回の内乱は竜の宝を間接的とは言え守るための行動でした。今回はそのような事情もない。聖竜たちも傍観しているだけでしょう? つまりはそういうことですよ」
「そうでございますか……。このふたつの国がお互い崩れることは問題ない、むしろ『職業優位論』による差別がもっとも激しかった国々なのでありがたいのでございます。ですが、戦乱の火種が広がる要因となってしまっては……」
「確かに。再び戦乱の世の中になってしまっては輸出入も滞るか」
「はい。各国で戦争用の備えに回すため、食料も買い込むことができなくなります。戦災難民もシュベルトマンだけではなくコンソールを目指す者が出てくるでしょう。そういった場合に備えなければ」
「難しい問題だな。農業ギルドができたとは言え稼働したばかり。本格的にコンソール内で自給できるようになるには今後十年以上を見通さねばならぬ。そうなってくると戦乱の火種はやはり早めに消してしまいたい。だが、コンソールが仕掛けたとわかれば厄介だ。コンソールはあくまでも武装防衛と聖獣様と竜殿たちの自発的防衛に守られているのだからな。侵略行為はよしとせぬ」
「それも今回は国境をいくつも越えた国だろう? さすがにシュベルトマンと隣接した国だってんなら大義名分も立つ。だが、今の段階から介入は無理がありすぎるぜ」
「左様ですな……。打つ手なしですか……」
弱りましたね……。
確かにこのままではコンソールが、そして学園国家が停滞します。
少しばかり手を貸しますか。
「打つ手、なくはないですが……両国とも滅びますよ?」
「本当でございますか?」
「どんな手段だよ……」
「具体的には?」
「『竜災害』を起こします。関係ない一般市民にまで多数の犠牲を出すことが忍びないのですが……」
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