340.内乱の終結

「すみません。起きるのが遅くなってしまい」


「本当に申し訳ありません。皆さん」


 僕とユイが起き出したのは夕暮れ時。


 もうすぐ夕食の時間でした。


 僕は何度か目を覚ましていたのですが……ユイが僕の腕にぎゅっとしがみついていたものですから。


「気にしていませんよ。むしろ夕食後くらいになると考えていました」


「アリア、僕をなんだと……」


「スヴェイン様ではありません。ユイの疲労度を考えてです。ユイ、本当によかったのですか? もう少し寝ていてもよいのですよ?」


「これ以上は……それと、アリア様にお願いが」


「なんでしょう。聞けるお願いと無理なお願いはありますが」


「プライベートの間だけスヴェイン様を『スヴェイン』と呼ぶことをお許しください! スヴェイン様には許可を取ってあります」


「……その程度ですか。プライベートではなく、外でもスヴェインと呼んで構いませんよ?」


「え、ですが、私は三番目……」


「私が『スヴェイン様』と呼ぶのは昔からの癖です。それに本当にふたりだけの時は私も呼び捨てにしています。スヴェイン様も構わないでしょう?」


「ええ、まあ。アリアが許可するのでしたら」


「スヴェイン様は夫なのです。第一夫人の許可などいちいち取らなくともよろしいですよ」


「だそうです。ユイ」


「ありがとうございます、アリア様。よろしくお願いします、スヴェイン」


「……うらやましいです」


「うらやましいと感じるなら、ミライ様も自己研鑽を怠らないよう」


「はい……」


 完全に形無しですね。


 そういえば……ふたりほど姿が見えませんが。


「弟子たちはどこに?」


「アトリエの使用許可を出しました。錬金術は危ないので魔法研磨でもやっているでしょう」


「そうですか。ところで戦況は?」


「『竜の帝』の座を返上いたします。それでご確認を」


「はい……なんですか、これ?」


「あまりにもコンソールへと集まりすぎるところだったので各地に散らしました。あとは、聖竜の名にふさわしく動いているでしょう」


「確かにふさわしいですが……聖竜が人の争いに加担するなどあっていいのですか?」


「間接的とは言え『竜の宝』を守るためです。それに彼らは彼らなりに原石を拾い集めているようですよ?」


「聖獣もですが……竜もよくわかりません」


「別種族……いえ、他人ですもの。スヴェイン様、私の考えも理解しきれないでしょう?」


「確かに」


 そう言われればその通りですね。


 人同士でも無理なのに、種族までこれほど違えば無理などというものではないでしょう。


「スヴェイン様、そろそろ夕飯です。アトリエにいるふたりを呼んできてください」


「わかりました。行ってきます」


 アトリエでは本当にふたりが魔法研磨をしていました。


 宝石の難易度も上がり始めていますし、いい調子ですね。


「ふたりとも夕食らしいですよ」


「あ、先生です」


はしてこなかったんですか?」


「……あまり耳年増は感心しません」


「「……はい」」


 とりあえず、そんな日々が一週間ほど続き、その間もギルド評議会は毎日開催されていたようです。


 なぜなら、カイザーが律儀に状況報告をしてくれますから。


 各地に散っていった竜たちの動きも活発化し始め、最初はシュベルトマン侯爵の領土内だったはずが、この国、いえ旧国家全体へと広まっていきました。


 本当になにを考えているのでしょう?


 そして、籠城生活が三週間目に入ろうとした頃、カイザーからいきなりな連絡が入りました。


『終わったぞ』


「終わった? なにがです?」


『この国……いや、旧国家か? ともかく内乱は終わった』


「終わったのですか? あまりにも早い」


『各地で聖竜どもが。手を出したのはわずかだが、それでも恐怖は伝わったらしい。くだらない王座を巡る争いや縄張りの奪い合いなどよりも、竜の飛び回る状況を打開することが先決であるとようやく気がついたようだ』


「それはよかった。弟子たちも、家の中に閉じこもる生活はそろそろ我慢できなくなりつつあったんですよ」


『お前もであろう?』


「ええ、まあ。ユイは『デザインのアイディアがない!』などと言ってうろうろしていますし、落ち着いているのはアリアとリリスくらいです」


『ふたり目の『竜の至宝』か。よほど気にかけているのだな』


「まったくです。アリア並みに気に入る相手がいるなど思いも寄らなかった」


『だが、それだけ大事なのだろう?』


「当然です。アリアですら過保護にしているほどですよ?」


『竜の帝の妻からも愛される『竜の至宝』か。これ以上ない誉れだな』


「彼女にそれを伝えても冗談だとしか考えてもらえないのが難点ですが」


『時を重ねて愛を育め。ギルド評議会という者たちには伝えておいた。近々動きもあるであろう』


「そうですね。もうすぐ秋ですし、それまでにはなんとかしてもらいたいです」


『秋、か。そういえばもう一年も研究をしていないのではないか?』


「ええ、まあ。それよりも弟子の育成が楽しくなってしまいましたから」


『笑えないぞ?』


「まったくです」


『では、伝えるべき話は伝えた。竜どもは勝手に帰るであろう。……この地が気に入って飛び回る者ども以外は』


「竜の帝として一度帰還させるべきでしょうか?」


『やめておけ。また人どもがくだらない争いを始める』


「では、先代の意見を尊重します。ありがとうございます、カイザー」


『……本来であれば竜たちが直接帝に伝えるべきなのだがな』


「そんな気もします」


 やれやれ、竜というのも気まぐれな。


 災害と呼ばれるだけあって危険度は最強クラス。


 更に聖竜は仲間意識が高く、一匹一匹の強さも段違いですからね。


 早いところ正常化してほしいものですよ。

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