星霊の儀式と終わる日常

33.そして3年後、星霊の儀式を半年後に控えて

「スヴェイン様、今日の討伐はオーガらしいですが大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ、リリス。オーガなら何回も戦っていますから」


「そうはおっしゃっても、心配なものは心配です」


「心配性ですね。アリアたちも待っていますし、これで行きますよ」


「ご武運を、スヴェイン様」


 ワイズを仲間にしてから3年と少しが経ちました。


 あれからというもの、魔法の修行をメインに明け暮れる日々が続いています。


 ノービスという職業の特性上、なかなかスキルレベルは上がって行きませんが、確かな手応えは感じています。


 また、僕が7歳になってからはモンスター討伐も許可されるようになりました。


 もちろん、ひとりで行くことは許されませんが、アリアも一緒ですし、聖獣たちも連れている僕はかなり強いと考えています。


 セティ様からは油断しないように厳命されていますので、常に周囲の気配には気を配っていますが。


「お、兄上。来たな」


「スヴェイン様、遅いですよ」


「スヴェイン殿、またリリスに捕まっていましたね?」


「すみません、みんな。待たせてしまって」


 今日のモンスター討伐にはディーンとオルドも参加します。


 彼らも7歳になるとモンスター討伐の許可が与えられ、僕たちとともに討伐にでるようになりました。


 ディーンもオルドもかなり強く、立派な戦力です。


「今日は盗賊どもと出くわさなきゃいいんだけどなぁ」


「盗賊との戦いは嫌です。人間同士の争いなんて……」


「アリア嬢は後ろでスヴェイン殿に守られていて大丈夫ですよ。僕とディーンで全員討伐します」


「盗賊、出くわさないのが一番なんですがね。最近増えているようでお父様も頭を抱えています」


 ここ最近の悩みは、辺境伯領にも盗賊が頻繁に出没することです。


 どうやら近隣の国家で内乱が起こっているらしく、そちらから流れてきた民の一部が盗賊や山賊になっていると報告を聞きました。


 僕たちもモンスター退治にでたときに襲撃を受けたことがあり、倒す事は容易だったのですが、人を殺したショックでアリアは数日寝込んでしまいました。


 騎士団なども警戒を強めてはいますが、何分人手が足りていないのが現状です。


「今日行くオーガ退治も、冒険者たちに依頼する前に倒そうって話になったやつだろう?」


「オーガどもの住処を騎士たちが偶然発見したようだな。それで、騎士団で倒す事になったらしい」


「それを私たちで倒しに行くんですね?」


「手柄を横取りするようで申し訳ないですね……」


「兄上はまたそういうことを言うな。騎士団からも感謝されてるんだぞ。俺たちが戦うことで、迅速かつ確実にモンスター退治ができるって」


「そうですね。騎士団はどちらかと言えば対人が専門ですから、モンスター退治は苦手なのでしょう」


「いずれにしても、モンスターによって被害が出る前に退治したいところですわ」


「それもそうです。騎士団と合流して現地へ向かうとしましょう」


 僕たちはそれぞれ聖獣や馬に騎乗し、騎士団の詰め所で護衛と案内役の騎士隊と合流します。


 そのあと、オーガの住処に移動しましたが……なにか争う音が聞こえてきますね。


 僕たちは移動速度を上げ、街道を駆け抜けます。


「おい、騎士団が来たぞ!」


「畜生が! オーガどもに襲われている間に!!」


「どうする、相手は騎馬だ。このまま『商品』を持ったままじゃ……」


「捨てていくしかねぇだろう! さっさと逃げるぞ!」


「おい、待て! 約束が違うぞ!!」


 荷馬車とその主である馭者を捨て去り、護衛をしていた男たちが街道の先へ駆け去って行きました。


 一体なんなのでしょう。


「スヴェイン様、ご指示を!」


「念のため、逃げた男たちを4名ほどで追ってください。ただし、見失った場合は速やかに戻ってくるよう。あとのものたちは、あの馬車を監視。僕らはあのオーガどもを倒します」


「了解しました、行くぞ!」


「はい!」


 僕の命令で、騎士たちが即座に行動を開始します。


 さて、僕たちもオーガを倒さなければ。


「オーガの数は5匹。兄上とアリア義姉さんのディストーションで2匹は倒せるから、俺とオルドで残り3匹を引きつけるか」


「そうだな。その上でスヴェイン殿とアリア嬢に数を減らしてもらおう」


「ってわけでよろしくな!」


「わかりました。ふたりとも気をつけて」


「無理はしないでくださいね!」


「わかっております。それでは!」


 護衛がいなくなったことで、荷馬車を襲おうとしていたオーガたちですが、先にディーンとオルドが襲いかかります。


 まずは浅く斬りつけて、オーガの注意を引きつけるようですね。


 ディーンたちの狙い通り、オーガはあちらの方を向きました。


 そこを狙い、僕とアリアの魔法が放たれます。


「「ディストーション!」」


 空間に入った亀裂がオーガの首をはね飛ばしました。


 僕の放ったディストーションは、余裕を持ってオーガを倒せます。


 でも、アリアはぎりぎりオーガを倒せるくらいの亀裂しか生み出せません。


 この3年間毎日努力しているのですが、アリアの時空魔法レベルは5までしか上がっていないのです。


 セティ様に言わせれば、魔法使い系の職業でレベル5になれたのはすごいことらしいのですが、アリアは満足していません。


「よっしゃ、数は減ったな!」


「ここからは僕たちの出番だ、後れは取るなよ、ディーン!」


「オルドこそ!」


 オルドもこの3年間で大きく成長しました。


 シュミット辺境伯家に来たばかりの頃は、剣のことしか考えられなかった彼ですが、いまでは魔法も駆使した多彩な戦術を使えるようになっています。


 ディーンは逆に剣しか扱えませんが、剛柔使い分ける鮮やかな剣術で相手を斬り倒します。


「スヴェイン様、残り1匹は私が引き受けます! 援護を!」


「わかりました、アリア。無理はしないように!」


「はい!」


『私が一緒なんだからオーガ程度に後れは取らないわよ?』


 ユニに騎乗したアリアは、ディーンたちが相手取っていない残り1匹の背後に回り込みました。


 そして、そこから一気に魔法をたたみかけます。


「エアブロウ! ウォータースプラッシュ! サンダーボルト! アースグレイブ!」


 エアブロウでオーガを吹き飛ばし、ウォータースプラッシュで天高く舞いあげます。


 そこをサンダーボルトで追撃し、地面に叩きつけられる寸前にアースグレイブで串刺しにしました。


 これによってオーガは完全に絶命したようですね。


 ディーンたちが相手にしていたオーガも、すでに倒されているようです。


「ひゅう、さすがアリア義姉さん。時空魔法以外だったら、兄上以上だな!」


「確かに。これで職業が『魔法使い』なのだから信じられない」


「いえ、私なんて師匠に恵まれただけですから……」


「それでも、これだけの力を身につけたのはアリアの努力ですよ。騎士隊、この場は任せて大丈夫ですか?」


「はっ! お任せください!」


「では、僕たちはオーガの住処に向かいます。ワイズ、案内をお願いします」


『了解じゃ。儂について参れ』


 ワイズの道案内で僕たちは森の奥へと進んでいきます。


 崖のそばにオーガの住処を発見しましたが、残っているオーガの数はそこそこ多いですね。


「兄上。さすがにこの数は危険だな」


「スヴェイン様、私の精霊で一気に倒しましょう」


「そうですね。安全を優先しましょう。アリア、お願いします」


「はい! 来てください、リット、ウォーター、フラン、サンダー、アーシー! オーガたちを倒してください!」


 アリアが契約している精霊たちを召喚してオーガへと向かわせます。


 この3年間の間にアリアは、リットとウォーター以外の五大属性すべての精霊と契約しました。


 リットもアリアと契約して1年ほどでなんと風の妖精から風の精霊まで進化したんです


 残りの精霊たちはすべて、ワイズが連れてきてくれたのですが……火と雷の精霊は力比べを要求してきたのではらはらしましたよ。


 そんな精霊たちを使った今回の攻撃ですが、完全に不意打ちになりましたし、五大属性の精霊が勢揃いですから……オーガでは抵抗できません。


 1分たたない間にうち漏らしもなくすべてのオーガを倒し、精霊たちは消えていきました。


「よし、お仕事完了だな」


「あとはオーガの魔石とドロップアイテムを回収してこの場を破壊、それから撤収だ」


「わかってるって。それにしてもどこから湧いてでたんだろうな、このオーガは」


「私もそれは不思議に思いました。モンスターが生息するにはそれなりの理由があるはずなのですが……」


『それは儂があとで調べてアンドレイに報告しておこう。もしや近場にモンスターの巣があるかも知れぬ』


「頼みましたよ、ワイズ。……うん、魔石とドロップアイテムの回収完了ですね」


 モンスターは倒すと魔石とドロップアイテムになる。


 不思議ですが、これがこの世界の法則なのです。


 巨大なオークを倒しても数キロの肉にしかならないのは、冒険者たちにとってかなり不満らしいですが……。


「……よし、退避も完了だ。オルド、ドカンとやってくれ」


「わかった。アリア嬢、もし延焼したら消火を」


「はい」


「では、エクスプロード!」


 爆破の魔法によりオーガの住処が破壊されます。


 今日は特に延焼や崖崩れを起こさなかったみたいですね。


「住処の破壊も確認です。帰投しましょう」


 森を抜けて荷馬車のあったところまで戻ると、なにか物々しい雰囲気になっています。


 これはどういうことでしょうか?


「お疲れ様です、スヴェイン様。報告したいことがございます」


「あの荷馬車のことですね。なにがあったのでしょうか?」


「あの荷馬車ですが、非合法な奴隷や魔獣の卵を運んでおりました。馭者は荷馬車の主でしたので捕縛してあります」


「非合法奴隷に魔獣の卵ですか……」


 また厄介な……。


 僕たち4人の心はそれで一致していたことでしょう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る