32.時空魔法と付与魔法

 セティ様より時空魔法を教えていただけるということになり、僕とアリアが集まりました。


 ついに時空魔法も覚えられるのですね。


「さて、時空魔法ですが大きく分けるとそんなに種類はありません」


「そうなのですか?」


「ええ。まずは時空魔法の基礎、ストレージ」


 セティ様がキーワードを唱えると、なにもないところからミスリル製と思われる青みがかった銀色の剣が現れました。


「ストレージは異空間にアイテムを収納する魔法です。非生物のみ収納可能、生物の場合は死んでいるときのみ収納できます」


「なるほど……ん? これってアイテムバッグに似ているような?」


「はい、よく気がつきましたね。アイテムバッグはストレージの魔法を錬金術と付与魔法を使い、道具袋などに定着させたものです」


「そうなのですね。じゃあ、僕にもいずれアイテムバッグが作れるようになるのでしょうか?」


「そうですね……可能かもしれません。あとで屋敷に戻り付与魔法も教えてあげましょう」


「はい! それで、ほかの時空魔法は?」


「そうでした。時空魔法による攻撃魔法、ディストーション」


 セティ様の唱えた魔法で裂け目が走ると、そこが大きな音を立てて破裂しました。


 これはなかなか強力な魔法ですね……。


「ディストーションは空間を歪ませて攻撃する魔法です。なので物理的防御手段に意味はなく、魔法的な防御でしか防げません」


「……恐ろしい魔法ですわ」


「はい。そこそこ扱いの難しい魔法ですがね」


「ですが切り札にはなりますね。次はなんでしょう?」


「次はワープです。見ていてくださいね」


 セティ様の足元に光が浮かび上がると、いきなりセティ様の姿が消えてしまいました。


 そして、後ろの方からセティ様の声がするため振り向くと、そちらにセティ様がいます。


 これがワープですか。


「ワープは移動魔法ですね。慣れてくれば移動距離も伸びますし、誰かを連れての移動もできます。崖の上り下りなども可能になりますよ」


「それは便利ですわね」


「ただ、この魔法はスキルレベルが高いのですよ。残念ですか魔法使い系の職業では扱えません」


「……そうですか」


「元気を出してください、アリア。僕が頑張って覚えますから!」


「はい。わかりました」


「さて、最後がタイムアクセスと呼ばれる魔法です。クイックやスロウといった、相手の時間を早めたり遅くしたりする魔法です」


「それの実演はしてくれないんですか?」


「うーん、一目見てわかるものでもないんですよ。これはいずれまた見せましょう」


「わかりました。時空魔法はいまの4系統からなるんですね?」


「はい。それでは基本のストレージから使ってみましょうか。魔法式はこの本の通りになります」


 見せていただいた本は……難解ですがなんとか読めます。


 アリアも解読できていますね。


「それでは、ストレージ!」


「ストレージ!」


 僕とアリアの前にチリチリと音を立てる黒い球体が現れます。


 ですが、すぐに消えてしまいました。


 これでは失敗ですね。


「ふむ、一回目でストレージの元になる球体を呼び出せますか。やはり筋がいい」


「あれでも筋がいい方なのですか?」


「ええ。とりあえず、成功するまで試してみましょうか」


「はい。ストレージ!」


「頑張ります。ストレージ!」


 何回も使っている間に黒い球体は段々大きくなり、やがて空間の穴になってくれました。


 僕が成功したのは10数回目、アリアは30回目程度でしょうか。


「ほほう、本当に初日でストレージが成功するとは。教え甲斐がありますね」


「そうなんですか?」


「いままでにも何名かに教えてきましたが、ストレージを覚えるだけでも十年以上かかることも少なくないですよ」


「……それは嬉しいです」


『賢者の果実を食べた結果じゃな。あれには魔法熟練度をあげやすくする効果もある』


「そうなのですね、ワイズ」


『うむ。なので、魔法を習う予定の家族がいるなら早めに食べさせるといい』


「わかりました。明日にでも妹に食べさせましょう」


「そうですね。シャルちゃんは魔術師志望ですものね」


「なるほど。スヴェインの妹さんですか。魔法使い系の職業に就いたら、指導するのも悪くないですね」


「本当ですか! 是非お願いいたします!」


「ええ。約束しますよ」


『時空魔法の講義は終わったか? ならば、付与魔法の講義じゃな』


「付与魔法は屋敷で行いましょう。あれは『魔法』と名前がついていますが、実際には生産系のスキルですので」


 生産スキルということらしいので、僕たちはおばあさまのアトリエへと向かいます。


 そこに着くまでの間に簡単なレクチャーも受けました。


 付与魔法というのは、宝石に魔力を込めることで特殊な力を与える技術のことだそうです。


 宝石限定なのは、宝石以外だと安定して魔力を込められないためだとか。


 武器や防具に特殊な魔力を込められるようになるのは、付与魔法の上位スキルである【付与魔術】が必須とのことです。


「ここがスヴェインのおばあさまが使っていたアトリエですか。錬金術だけではなく付与魔術の道具も揃っていますね」


「そうだったのですね。確かに使い方のわからない道具があるとは思っていましたが」


 おばあさまのアトリエを一通り確認し終えると、セティ様は一枚の板を取り出します。


 普通の木の板に比べると厚めで、金属製。


 それも、光沢から考えると総ミスリル製でしょう。


「これが付与魔法や付与魔術で使う付与板ですよ。試しに私が持っているルビーに火属性の力を込めてみましょうか」


「いいのですか?」


「その程度しか使い道のない小粒な石ですからね。宝石としての価値もありませんし、気にしないで試してみてください」


「わかりました。それでは試してみます」


 やり方についても先ほど説明を受けています。


 封じ込める魔法や付与したい属性の魔力を、ゆっくりと宝石に注げばいいらしいのですよ。


 ですが、意外と難しいですね。


 初めてですし、加減もよくわからないので、慎重に注ぎます。


 およそ5分ほどで、ルビーに魔力が注ぎ終わった気がました。


 魔力を注ぐのをやめると、ルビーが一瞬きらめき赤い光を帯びるようになりました。


「……これは驚いた。一回で成功とは」


「すごいです、スヴェイン様!」


「これで成功なんですね?」


「ええ。時間はかかっていますが最初は仕方がないでしょう。数をこなして加減を覚えれば早くなるはずです」


「では、これを繰り返せば……」


「はい。付与魔法も完璧ですよ」


「やりましたね! スヴェイン様!」


「ええ! これでできる範囲が増えます! ……ああ、でも、練習用に宝石を買わないといけませんね」


「それはご心配なく。辺境伯殿があなたのために資金を貯めておいてくれたようですよ?」


「僕のために?」


「ええ。将来なにかに使うだろうということで、ポーション販売の利益を貯めていたそうです。それを使って小粒の宝石を買い集めてもらえば練習には最適ですね」


「お父様にも感謝しないといけませんね」


「辺境伯殿はもう発注をかけているようです。あとでお礼を言いにいきましょう」


「はい!」


 そのあと、もう一度ストレージの練習をしてからお父様にお礼を言いにいきました。


 お父様はセティ様に話を聞いたときから、すぐに必要となるだろうと考えていたようです。


 なので、屋敷に戻ってすぐに手配をかけてくれていたようでした。


 最初の宝石は明後日には届くそうなので、それまでは時空魔法の練習です。


 頑張りましょう。

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