34.違法密売組織
「それで、馭者は口を割ったのですか?」
違法奴隷に非合法な魔獣の卵、どちらも看過できません。
いまの捜査状況を騎士隊に確認します。
「いえ、なにも話しません。それで……」
『儂の出番じゃな』
「お願いできますか、ワイズ」
『まかせい。すぐに情報を引き出してこよう』
あちらは任せて大丈夫ですね。
ただの人間がワイズの幻惑魔術に抵抗出来はしませんから。
問題は、騎士たちの追っていた連中とやつらの『商品』ですか。
「逃亡した護衛を追っていた騎士たちは?」
「全員、無事帰還しております。逃亡者たちは途中から森の中に逃げ込んだらしく、追跡困難と判断して引き上げたと報告を受けております」
「結構。適切な判断です。問題はあの『商品』をどう扱うか、ですね……」
「はい。このまま街に連れ帰れば密売組織にすぐにばれます。可能であれば領都に巣くう組織だけでも叩き潰しておきたいことを考えると、すぐに連れ帰るというのも……」
「少なくとも、檻からは出して差し上げましょう。その上で、この場に留まっていただくよう交渉を」
「わかりました。それでは失礼いたします」
僕の命令を伝えにいった騎士隊長と入れ替わるように、ワイズが戻ってきます。
馭者の様子から察するに、情報をすべて幻惑の魔術で引き出したのでしょう。
『情報は抜き取り終わったぞ。思ったよりも大規模な組織じゃな』
「大規模、ですか?」
『領都だけでも3カ所の拠点を持っておる。おそらく儂の宝石を盗み出し、アズールとかいう商人に売ったのもこの組織じゃな』
「なるほど……」
3年前、アズールさんのお店にも調査が入りましたが、その結果は全部問題なしとのことでした。
ワイズマンズストーンもアズールさんは正規の手段で入手しており、その経路をたどっていくと途中でぷっつりと途絶えていたそうです。
「兄上。これは帰って父上の判断を仰ごうぜ」
「僕も賛成です。急ぎ戻って対策を講じねば」
「急ぎましょう、スヴェイン様」
「わかりました。騎士隊に周囲の警戒を頼み、食料を渡したらすぐに戻りましょう」
檻に囚われていた奴隷の皆さんを解放している騎士隊長に経緯を説明して、食料を渡しこの場を全力で去ります。
ディーンとオルドに与えられている馬は、シュミット辺境伯領で育った駿馬なので、スピードもスタミナもほかの馬とは段違いです。
ウィングとユニが地上を走る限りは、付いてくることができるのですから驚きですよ。
全速力で駆け抜け、馬を馬丁に預けたらすぐさまお父様の執務室で面談をいたします。
お父様も僕らの話した内容に耳を疑ったようですが、ワイズの話だと聞きそれが真実だと確証を得たようでした。
「違法な密売組織が領都にも巣くっていたとは……なんたる不覚」
『いまはそれどころでないぞ、アンドレイ。急ぎ対策を講じねば逃がしてしまう』
「そうですな。本来ならこのような危険な行為に子供たちを巻き込みたくはないのだが……」
「気にしないでください。僕たちもいまなら立派な戦力です」
「そうそう。無理はしないから大丈夫だって」
「4人一緒ならば大丈夫か。迅速な行動を要するが、騎士団が動き出すのを察知されるのもまずい。この場で作戦を組み立てたいと思います、ワイズ様」
『よかろう。儂も知恵を貸そう』
お父様とワイズの間で強襲作戦が立てられていきます。
内容としては、騎士団を囮兼逃亡防止として扱い、襲撃を行うのは父様、セティ様、僕たち4人の3組だけのようです。
僕たちのサポートとして冒険者【ライトオブマインド】の3名も来てくれるようですが、基本は4人だけでなんとかするようにとのことでした。
途中から話し合いに参加してくれた、セティ様も快諾してくれましたし、作戦はすぐさま実行に移ります。
**********
「……なんだか、今日は騎士団の数が多くないかい?」
「そうだねぇ。なんでも犯罪者の一斉検挙を行うんだとか」
「ああ、それで。でも、それって衛兵の仕事じゃないの?」
「なんでも大物が相手だそうよ。だから騎士団が動くんですって」
……どうやら、噂もいい感じに流れているみたいです。
僕たち4人が任されたのは、商業区の中程にある中堅程度の商家。
事前情報がなければ、違法な密売を行っているとは思えませんね。
「スヴェイン様、だめだ。店舗の様子を探ってきたが浮き足立ってる様子は一切ないよ」
「お役に立てそうにありませんわ」
「……私たちはサポートに徹する」
「お願いいたします。皆さん」
僕たちは有名なので、【リードオブマインド】の皆さんに店舗の様子を調べてもらいまいたが、まったく普段と変わらない様子だったとのことです。
さて、どうしましょうか。
「兄上、裏口から強行突入するのはどうだ?」
「却下です。実際に密売商品があるかわかりませんし、なければ家の信用に関わります。あったとしても人質を取られては厄介です」
「……それもそうだな」
「あの、スヴェイン様。リットなら透明化して気付かれずに相手のことを探れると思います。それから行動してはどうでしょう」
「それが現実的ですね。僕の聖獣たちも隠密行動には向いていませんし」
『そうじゃな。隠密行動に長けた聖獣がいると便利じゃが……こればかりはどうしようもない』
「では……リット。あの建物の中を探ってきてもらえる?」
『はーい。魔力検知器とかに引っかかっちゃだめなんだよね? 行ってきまーす』
「魔力検知器もありそうですよね」
「すっかり忘れてました……」
「リットが賢くて助かりましたね」
リットが出て行って待つこと30分ほど。
ようやく彼女が帰ってきました。
『お待たせー。中は結構ごちゃごちゃしてて調べるのが大変だったよ』
「それで結果はどうだったの?」
『うん。檻に繋がれた人やなにかの卵が保管されてたよ。あれをなんとかしたいんでしょ?』
「そうなります。ですが、どうやって押し入ったものか」
『力尽くでやる必要もなくない? スヴェインだったら錬金術で作ったアイテムにいいものがあるんじゃないかな?』
「錬金術……ああ、そういえば使いどころが見つからなくて、しまい込んでいたアイテムがありました」
僕はマジックバッグをあさると、いくつかの小袋を取り出します。
この小袋、結構な危険物なんですよね。
「スヴェイン様、これは?」
「アリアにも説明してませんでしたね。これは『ディープスリープパウダー』と言って、この粉をかけられた対象を深い眠りに誘う効果があるんです」
「兄上、こんな便利なものをなんで忘れてたんだよ?」
「作ったのが2年前でして……しかもこれ、自分が浴びる可能性もあるので使いにくいのですよ……」
「なるほど。スヴェイン様のご心配もよくわかります」
「しかし、今回は役に立ちそうですね。スヴェイン殿」
「ええ。リット。これをあの建物の中でばらまいてきてもらえますか?」
『檻の中の人たちも寝ちゃうけどいいの?』
「そこは仕方がないでしょう。余計なけが人を出さずにすむというだけで儲けものです」
『はーい。じゃあ、行ってくるね』
リットはその体から考えるとたくさんの小袋をぶら下げて再び建物の中に侵入していきました。
問題は、パウダーが足りるかどうかですが……足りなかったら、強行突破しかありませんね。
『お待たせー。邪魔な連中は全部眠らせてきたよ』
「パウダーは足りましたか?」
『うん、ギリギリ。最後の方はちょっと量が少なめだったから、効き目が薄いかも』
「スヴェイン殿、すぐにでも中に入らねばなりませんね」
「そうですね。ムノンさんは騎士団を呼んで、この建物を包囲させてください。僕たちは……」
『あ、あっちの中庭に地下最深部に通じる隠し通路があったよ』
「では、その隠し通路から侵入することにします。リット、案内を」
『まかせてー。こっちだよー』
『儂は上空から、逃げ出すものがいないか見張ろうかの』
『じゃあ僕たちもそうしようか』
『地上は問題なさそうだしね』
ワイズにウィングとユニは空から監視してくれるようです。
僕たちはリットが見つけてくれた隠し通路を進み、最深部という場所に向かいました。
そこでは、体格のいい冒険者よりも一回り以上大きな体をした大男が、仲間をたたき起こそうと躍起になっています。
どうやらあの男には薬が効かなかったみたいですね。
こちらは気付かれていないので、アリアに頼み雷魔法で気絶させて終了です。
そのあとは、ひとまず眠っているものたちを拘束具で抵抗できなくしながら入り口の方を目指しました。
用心棒なのか刺客なのかはわかりませんが、隠し部屋にいた連中もリットはお構いなく無力化しているので、スムーズにことが運びますね。
そして、1時間ほどかけて全員を拘束したあと、騎士団の方に突入してもらい拘束したものたちを回収してもらって終了です。
密売商品については魔獣の卵だけ僕が預かり、違法奴隷は騎士団預かりになると決めています。
そのため、魔獣の卵を回収しに行くと……10個ほどの卵が保存用ケースの中に保管されていますね。
僕はケースごと卵を回収していきますが、残り4つになったとき、異変が起きました。
卵たちがケースを壊して僕の周りを飛び回り始めたのです。
「スヴェイン様!」
「兄上! 一体なにが!?」
「僕にもわかりません! ですが攻撃してくる意思はなさそうです」
悪意があればカーバンクルのプレーリーがたたき落としてますからね。
「ともかく魔獣の卵の回収は終わりました。騎士団の皆さん、あとのことはお任せします」
「は、はい!」
僕は周りに4つの卵を浮かべたまま階段を上っていきました。
ワイズならなにか知っていると思うんですよね。
急いで合流しましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます