124.ティショウの武具錬成相談
「まことに有意義な時間を感謝するぞスヴェイン殿!」
「いえいえ、ご協力できることが少なく申し訳ない」
シュベルトマン侯爵との会談はお昼近くまでかかり、様々な内容が議題に上がりました。
ですが、そのほとんどに応えることができず、本当に申し訳なく感じます。
「いや、旅の錬金術師殿に協力をお願いしているのだ。これだけ協力いただけるだけでも十分な成果だ!」
「それはよかったです。シュベルトマン侯爵はこれからどうなさるのですか?」
「うむ、これからは本当に忙しくなるな。そなたの教本を持って王都まで参り、国王陛下に謁見できるよう取り図ってもらわねばならぬ。ああ、それと、我が領都でもこの教本を広めるように領主命令を出さねばなるまい。ああ、本当にやることが多そうだ!」
「ええと……大丈夫でしょうか?」
「もちろん大丈夫だとも! 今までの陰鬱な空気を一変させてもらえたのだ、これは改革に努めねばなるまい!」
「無理はするなよ、ビンセント」
「わかっている。それでは、私はこれで失礼させていただこう」
「あの、エントランスまでお見送りを……」
「いや、その必要もない。なにやらティショウたちと打ち合わせがあるのだろう? それを邪魔してもいかぬし、私は大急ぎで宿に戻り領都へ戻る支度をせねばならんのだ!」
「はい、わかりました。では、お気をつけてお帰りを」
「うむ。いろいろと世話になった!」
そう言うや否や、シュベルトマン侯爵は応接間から立ち去っていきました。
考えていたよりも行動力のある方ですね。
「……ったく、ビンセントのやつ。今頃になって昔の感覚を取り戻しやがって」
「ティショウさんは古いお知り合いなんですか?」
「ん? ああ。俺がまだ現役冒険者をやっていた頃からの知り合いだ。あれでも若い頃は勇敢な将軍として名を知らしめていたからな」
「なるほど。……そういえば、もうすぐお昼ですね。どうしましょうか?」
「ん? そういえばそうだな。ビンセントの相談事で大分時間を食っちまった」
「これはいけませんわね。ティショウ様、私は急ぎ冒険者ギルドに戻りますわ」
「ああ。任せたぜ、ミスト」
さすがに長い間ギルドマスターとサブマスターが同時にギルドに不在というのはまずいということで、ミストさんも大急ぎで帰っていきました。
そうなると、残ったのはティショウさんだけになります。
さて、昼食はどうしましょう。
「失礼いたします。……おや、シュベルトマン侯爵とミスト様はお帰りになられましたか?」
ドアをノックして入室してきたのは、コウさんの家の執事です。
なにかありましたかね?
「ああ。悪いな、ふたりとも急ぎで出て行っちまった」
「左様でございますか。ご昼食の用意ができましたが、食堂でお召し上がりになりますか? それとも、こちらにお運びいたしましょうか?」
「そうだな。スヴェインたちがいいならこっちに運んでもらいたい」
「僕はそれでも構いません。アリアは?」
「では、私もこちらで昼食を取ります」
「かしこまりました。今しばらくお待ちを」
どうやら昼食を用意してくれていたようです。
まさか、ここまで時間がかかるとは考えてもいなかったので助かります。
「悪いな、ふたりとも。俺はどうにも食堂とかで食うのは苦手でよ」
「お気になさらずに。僕たちだって野宿などの経験は豊富ですから」
「いつでも食堂で優雅なお食事とは参りませんものね」
「助かる。昼食を食べたら例のものの相談だな」
「わかりました。承りましょう」
そのあと、執事やメイドさんたちが運んできてくださった食事を取り、食後のお茶を軽く飲んだら例の相談です。
さて、ティショウさんの要求する仕様はどの程度のものになりますかね?
「それじゃあ、相談だ。魔法はレベル五十以下だったら大体のものはなんとかなるんだよな?」
「ええ、まあ。ただし、宝石として手持ちがないものはすぐにご用意出来ませんし、レベルが高いものほど高価になります。それはご容赦ください」
「わかっている。で、組み込んでもらいたい魔法は『フェアリーヒール』『フェアリーキュア』『フレアブラスター』『ライトニングスピード』『ホーリーウォール』の五つだ。できそうか?」
うーむ、この五つですか。
かなり魔法容量を食いますね。
「可能不可能でいえば可能です。ですが、どうあがいても添加物は必要です。万全を期すならばエンシェントドラゴンの爪あたりでしょうか」
「ずいぶん物騒なもんの名前がホイホイ出てくるもんだ。で、その添加物の値段は?」
「白金貨……二十五枚程度にオマケしておきます。ティショウさんならば悪用しないでしょう」
「助かるぜ。ギルドでエンシェントドラゴンの爪なんざ買い取ろうとしたら白金貨二百枚は必要だからよ」
「はい。それで、エンチャント枠は【自己修復】と【エンチャント強化】を除いて十二枠ほどあります。そちらはどうしますか?」
「そうだな。【金剛力】【斬影剣】【浄化】は必須。そのほかにおすすめは?」
「そうですね……作るのは爪でしたよね? でしたら腕のサイズが変わっても身につけられるように【自動サイズ調整】、魔力の消耗が激しいものばかりなので【魔力急速回復】、前線で戦うことを考慮するなら【負傷急速回復】と【生命力急速回復】。敵から生命力や魔力を奪うのでしたら【ブラッドイーター】や【マナイーター】などがおすすめですね」
「ふむ……全部つけることは叶うのか?」
「エンチャント枠十一個消費です。あと一個枠が余ります。【自動回収】をつけますか?」
「頼んだ。……で、こっからが相談なんだが、爪に伸縮可能なギミックってつけられねえかな? 普段は拳の間合いだけど、必要なときは槍の間合いになるとか」
「ええと……エンチャントを使えば可能です。【刃伸長】というエンチャントがあります。ただ、これをつけるにはエンチャント枠が三つ必要なんですよね……」
「三つか。お前のおすすめはどれも外しがたいしな。どうにかなんねぇか?」
どうにかする方法ですか。
あるにはあるのですが……更に高額になるんですよねぇ……。
「添加物をエンシェントドラゴンの爪から牙に変えれば可能です。ですが、添加物代が更に上がります」
「具体的には?」
「白金貨三十枚です。さすがにこれ以上の値下げはできません」
「そうか。魔法容量は増えるのか?」
「このふたつには大きな差がありません。ティショウさんの要望にあった魔法を込めるなら魔法を増やすことは無理です」
「そうか。そっちは仕方がないな。で、今のところ、概算見積もりはいくらになる?」
「概算見積もりですか? 少し待ってください」
ええと、基礎となるインゴット代が白金貨三十枚、添加物代が三十枚、魔宝石代とエンチャント代、それにエンチャントの触媒代もあわせて……。
「およそ白金貨百三十枚です。少し高すぎですかね?」
その金額を聞いたティショウさんは唖然としています。
うーん、やっぱり高すぎたでしょうか?
「ええと、さすがにこれ以上の値引きは厳しいんですよ。エンチャントの触媒にもかなり貴重なものを使いますし、魔宝石の素材もかなり貴重になってきます。なので……」
「ちがうわ、阿呆! 安すぎて驚いてんだよ!! なんでこんな国宝以上の武器を白金貨百三十枚程度で作れるんだ!?」
「素材をすべて自分で手に入れているからでしょうか? 宝石の原石は買ったりもしていますが、それ以外の素材は基本自分たちで手に入れてきたものなので……」
「ああ、もう! どーすりゃいいんだよ!! 俺はこの三倍以上の値段を覚悟してきたんだぞ!?」
「ええと、すみません?」
「……お前、この調子で誰にでも大安売りしてるんじゃないだろうな?」
「そんなことはしませんよ。売る相手はきちんと選んでいます。人物を見極めた上で、作るかどうか、性能の上限はどこまでか、それを決めています」
「そんなに信用してくれてありがとうよ。だが、さっきも言ったがあまりにも安すぎる。ミストも俺と同じような装備を望んでくるだろうが、もう少し値段設定はしっかりしろ」
「あはは……値引きをしなくても白金貨三百枚程度なんですが……」
「それでも安いわ、このド阿呆。お前への支払いは白金貨五百枚! それで決定だ!」
「……僕がお金を持ちすぎるというのもあまりよいことではないと感じるのですが」
「そう考えるならなにかに還元しろ。なんか買う予定のものとかないのかよ?」
「うーん、大抵のものは買うより作った方が性能も使い心地もいいもので……」
「だろうな。ともかく、支払いは白金貨五百枚! それで決定!」
「わかりました。それに応えられるよう全力で取り組みます。それで、作製は今日でよろしいですか?」
「そうだな……そう頻繁に仕事を抜け出すわけにもいかねぇ。今日、これから作れるか?」
「夜までならなんとかできると思います。では、最初に作る装備のイメージ画を作りましょう」
「おいおい、そっからかよ……」
「要求仕様を考えるに、ギルドマスターとしての威厳を保つための武器でしょう? 貧相な造形ではもったいないですよ」
「わかったよ。ただ、こういう感じと言ったイメージはないんだ。そこは大丈夫か?」
「ご心配いりませんわ。私とスヴェイン様で伺いながらイメージを繊細な部分まで詰めて参りますので」
「わかったよ。今日はとことん付き合うとするか」
さて、そんな感じで始まったティショウさんの武具錬成。
イメージ画を作るのに一時間、錬金炉に火を入れてインゴットと添加物を加えティショウさんが満足いく仕上がりの武器ができるまで五時間、そこから魔宝石を武器に融合させるのに一時間、研ぎに一時間、エンチャントに一時間と合計九時間もかかってしまい、すっかり真夜中になってしまいました。
あと二時間は早くできると考えていたのですが、見積もりが甘かったですね。
ですが、完成した武器には満足いただけたようですしよしとしましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます