125.ミストの武具錬成相談

「おう、ミスト。おはようさん」


「おはようございます、ティショウ様。……また、豪華な武器をお作りになったようで」


 どうやら、昨日一日かけてティショウ様は武具錬成を行っていただいたようですが……豪華な作りですわ。


 派手すぎず、威厳と風格を持った武器ですわね。


「そうだろう。昨日深夜までかけて作った渾身の一作よ!」


「深夜までですの? それはまたどうして?」


「いやな、最初にスヴェインとアリアにイメージ画を描いてもらったんだが、なかなかその通りに作れなくてな……結局、その作業だけで五時間かかっちまった」


「……スヴェイン様たち、待たされたでしょうね」


「そうでもないぞ? アリアの嬢ちゃんは待っているだけだったが、スヴェインは魔宝石を作るのに三時間くらいかけてやがった。おそらく俺のオーダーが相当難しいもんだったんだろうな」


「オーダーですか? 一体なにをお頼みに?」


「ん、ああ。それは……」


 ティショウ様から聞かされた魔法とエンチャントは驚愕に値するものでした。


 なんというか、国宝なんて次元の武器ではないですよ!?


「なぜそんな武器をお作りに……」


「いや、スヴェインが作れるっていうもんだから、つい調子に乗っちまって……」


「調子に乗って国宝以上の装備を作るのですか?」


「あいつらの腕が良すぎるんだよ……」


 困りましたわね、これでは私が頼もうとしていた武器が見劣りしてしまいます。


 これと並ぶにふさわしい依頼を考えないと……。


「ちなみにおいくらだったのですか?」


「ああ、白金貨五百枚を置いてきた」


「え、白金貨五百枚ですか?」


「スヴェインのやつ、最初は白金貨百三十枚って言い出しやがったんだぜ? これでも白金貨五百枚を納得させるのが精一杯だったんだよ」


「……白金貨五百枚どころかその十倍出しても欲しがる方は山ほどいますわよ」


「アイツも人を見てから売るかどうか、性能上限をどうするか決めていると言っていた。他人にこれだけ強い武器を与えるんだ。本人たちはこれよりも遙かに強い武器を持ってるんだろう」


「どうしましょう。私が想定していた武器がオモチャのように感じて参りました」


「お前、今日行って武器を作ってもらってこい。ああ、白金貨は……」


「五百枚以上持っていきますわよ。ああ、どうしましょう……」


「……それと、すまないがポーション発注の件も伝えてきてもらえるか? 武器作りが楽しすぎて昨日伝え忘れちまった」


「仕方がありませんわね。きちんと伝えて参ります」


「ああ、ギルドの方は任せておけ」


「そうさせていただきます。それでは」


 ……さて、仕様の方はどうしましょう。


 コウ様のお屋敷に着いてから、アリア様と相談して決めましょうか?



********************



「おはようございます、ミストさん」


「おはようございます」


 コウ様のお屋敷に着き、応接間でふたりをお待ちしているとさほど経たないうちにおふたりは来てくださいました。


 本当に素早い方々です。


「おはようございます、スヴェイン様、アリア様。昨日はティショウがご迷惑をおかけしたみたいで……」


「そんなことないですよ。いただいたお金に見合った装備を作れたかが心配ですが……」


「いえ、あれは白金貨五百枚どころの逸品ではありませんわ。あれを使いこなせなかったら、それはティショウの責任です」


 ええ、あれほどの武器を使いこなせないのでしたら発注側のミスでしょう。


 それほど価値のある品です。


「そうですか? とりあえず、今日はなにから始めましょう。昨日できなかったポーションの納品数を決めますか?」


「はい、そうですわね。今週の売れ行きを見ていますと、週に二万本では足りなさそうです。倍の四万本を納めていただくことは可能ですか?」


「可能ですよ。ですが、あればあるだけ使うでしょう? 念のため六万本ほど用意いたします。マジックポーション系列も今週の三倍ずつ用意いたしますよ」


「……助かりますわ。それから、これは別の案件なのですが、昨日のギルド評議会で医療ギルドからもポーションを卸していただけないか相談を受けております。追加でお願いできますか?」


「可能ですよ。どれくらい必要ですか?」


「一万本ほどあれば一年は困らないとのことです。医療ギルドは私どもとは違うポーションの使い方ですので」


「わかりました。そちらも来週の納品時にお渡しいたします」


「本当に助かります。本当は商業ギルドでも取り扱いたいそうなのですが……」


「そっちまでは手が回りませんね。正直、商業ギルド相手となるとどれくらい作ればいいか見当もつかないので」


「わかっております。商業ギルドからの依頼はお断りしてきました」


「助かります。では、来週の納品時には一般品ポーションを七万本、一般品マジックポーションを四万五千本、低級品マジックポーションを一万五千本と言うことでよろしいですか?」


「はい。よろしくお願いします」


「承知しました。ほかになにか相談事はあるでしょうか?」


「相談事ですか……カーバンクル印の生産はどうなっていますか?」


「極めて順調としか言えませんね。ふたりともやる気に満ちあふれていますし、素材も揃っています。納品数も相応の数になりますのでご期待ください」


「ありがたいですわ。カーバンクル印もユニコーン印もペガサス印も、どれもまさに飛ぶように売れていますので」


「はは……それで、一般の錬金術師に影響が出ないか心配です」


「影響は当然出ますわ。しかし、今まで切磋琢磨してこなかったツケが回ってきたようなもの。シュベルトマン侯爵の施策も順調にいけば路頭に迷うことにはなりません」


「だといいのですが……ちょっとやり過ぎてしまっているのではないかと不安で」


「やり過ぎぐらいがちょうどよろしいのです。この国の錬金術を変えて行くにはいい薬ですわ」


「そうですか。ここまで関わってしまった以上、可能な範囲でお手伝いはいたします。それで、ほかにはなにかありますか?」


 ほかに……ほかに。


 今日のところはないですわね。


 武具錬成の方に入っていただきましょう。


「今日は大丈夫ですわ。武具錬成をお願いいたします」


「わかりました。まずは組み込みたい魔法を指定していただけますか?」


「ええ。『フェアリーウィンド』『フェアリーライト』『キュアオール』『ホーリーブレイズ』『ホーリーバーニング』ですが、問題はありますか?」


 私の依頼を聞いたおふたりは頭を抱え始めました。


 ティショウ様の依頼よりもこちらの方が難しかったでしょうか?


「うーん。ミストさん、回復魔法系はご自分に使うだけではありませんよね?」


「ええ。指揮をする際にほかの冒険者にかけるためのものですわ。……まずかったでしょうか?」


「いえ、目的がしっかりとしているのでしたらまずいという程では。ですが、命属性が三つに聖属性がふたつですか。これは土台を考える必要がありますね」


「土台……ですか?」


「はい。武具錬成ではインゴット以外でも様々な素材を土台として取り込めます。ミストさんの要望をかなえるとなると、金属製では非常に厳しいですね」


「理由を伺ってもよろしいですか?」


「はい。金属製だとエンチャント枠は大きく取れるのですが、魔法容量、つまり魔宝石を詰め込める容量が少なくなります。ティショウさんの依頼では刃としての使い方がメインですので、問題はありませんでした。ですが、魔法使い用のロッドやワンドとなるとあまり意味が無いのです」


「なるほど、確かにそうですわ。では、ほかにどのような土台がありますか?」


「ひとつは水晶系列です。こちらは頑丈さと魔法容量、双方を兼ね備えた武器になります。もうひとつは樹木系列。こちらの特徴は接近戦には不向きですが、とにかく魔法容量が大きくなります」


「ちなみに、おすすめはどちらですか?」


「個人的には水晶でしょうか。いい水晶が入荷しています」


「入荷……ちなみに具体的な素材名はなんですか?」


「んー……まあギルドのサブマスターなら教えても大丈夫でしょう。エレメントクォーツになります」


「エレメントクォーツ……精霊水晶!?」


 なんてものを使おうとしているんですか!?


 素材だけで伝説級ですわよ!?


「お待ちくださいませ。精霊水晶が入荷とおっしゃいましたが、鉱脈の場所をご存じですの?」


「エレメントクォーツは鉱脈で発掘できるものではないですよ。入手経路は伏せさせてもらいます。決して違法なものではないと断言させていただきますが」


「違法なものだとしても、精霊水晶などというものが存在しているだなんて誰も信じませんわ……」


 なるほど、これは疲れます。


 素材の時点でこれだけのものが出てくるとは誰も考えもしません。


「それで、土台はエレメントクォーツでよろしいですか? 樹木系になると使えるものがエンシェントトレントの素材になってしまうので非常に格が落ちてしまいます」


「……では、精霊水晶で」


「わかりました。ですが、エレメントクォーツとなると魔法容量がまだ余ります。ほかになにかほしいものはありますか?」


「そうですわね……治療系でいいものはありますか?」


「治療系ですか? 攻撃魔法は必要ではないのですか?」


「攻撃魔法は大体の属性を修めております。足りないのは聖属性ぐらいですので『ホーリーブレイズ』と『ホーリーバーニング』があれば足りますわ」


「うーん、治療系ですか。アリア、いい魔法はありますか?」


「そうですね……スヴェイン様、良質なアレキサンドライトの原石は在庫がありますか?」


「ちょっと待ってください……少量ですがあります。なにを組み込むのでしょう?」


「『エンジェルブレス』ですわ。これがあれば多少の劇毒や欠損程度治せますから!」


「え、『エンジェルブレス』!?」


「そうですね『エンジェルブレス』にしましょうか。『エンジェルブレス』をただ組み込むだけでは魔法容量が足りなくなります。なので、下位互換になる『フェアリーライト』を削りましょう」


「ちょ、ちょっと待ってください! そんな簡単にあんな伝説級魔法を組み込むなどと……」


「魔宝石を作るのに二時間くらいかかりますができますよ? しかしそうなってくると、今度は魔力消耗の方が心配になります」


「そこはエンチャントで補えばよろしいのです。ミスト様、エンチャントをこちらで決めてしまっても構いませんでしょうか?」


「は、はい。【魔力急速回復】くらいしかよいものが見つかりませんでしたので……」


「では、私が決めさせていただきます。【自己修復】と【エンチャント強化】は必須として、【魔力急速回復】【全属性魔力消費軽減】【全属性魔力消耗時回復】【回復属性魔力消費軽減】をつけましょう」


「……ふむ、エンチャント枠もそれでぴったりですね。ですが、計算上では魔法容量がもう少し余っています。前線で指揮を執る場合も考えて『ホーリーウォール』も仕込みましょう」


「いいですね! これで、守りと回復は完璧です!」


「さて、最後の方は僕たちが決めてしまいましたが、この仕様で構いませんか?」


「は、はい。こんな杖が作れるのでしたら」


「では決定ですね。お代の方は……」


「白金貨五百枚以上でお願いします」


「そうなりますよねぇ……これでも白金貨二百八十枚程度で構わないのですが」


「こちらが構います!」


「では白金貨五百枚でお願いします。お金と杖のデザインはアリアに相談してください。僕は庭に錬金台を置いて錬金炉を暖めるのと魔宝石を作製してきます」


「もう始めるのですか?」


「今回の依頼、魔宝石の難易度が少々高めなんですよ。万全を期すため、作製時間を九時間くらい見積もらないといけません。なので、申し訳ありませんが僕はこれで」


 そう言い残して応接間の外へ出ていってしまったスヴェイン様。


 私はアリア様に質問されながら杖のデザインを詰めていきます。


 デザインが終わったあとに庭へ出ると、すでにスヴェイン様は魔宝石を作り始めていました。


 私たちが出てきてから一個目の魔宝石が完成したとき、錬金台に精霊水晶を入れて杖作りも始まります。


 結局、私の杖も完成したのは日没後かなりの時間が経ってからでしたわ。



********************



「おはようございます、ティショウ様」


「おう、ミスト。お前も豪華な杖になったじゃねぇか」


「素材は精霊水晶ですのよ? 自分の持っている杖が恐ろしくて堪りませんわ」


「素材も別次元だな。それで、お前が着ているローブはどうしたんだ?」


「スヴェイン様からのだそうです。カラードラゴン五種の翼膜全種類を使った贅沢なローブがオマケとは恐れ入ります」


「エンチャントもかかってねぇか?」


「かかっていますわ。それから、ティショウ様用のマントもお預かりしていますのでどうぞ」


「ああ、あんがとよ。……しっかし、俺らはなにと戦おうとしてるんだろうな?」


「エンシェントドラゴンでは?」


「エンシェントドラゴン相手でも勝てる想像ができるのが怖いな」

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