216.譲渡された土地についての説明会

「本日はギルド評議会に集まっていただきまことに感謝する」


 錬金術師ギルドマスター……としての肩書きを使うわけにも行かないので『スヴェイン』の名前で集まっていただいた今回のギルド評議会。


 各ギルドにはギルドマスターのみでよいと通知が行っているはずですが、ギルドマスター不在の錬金術師ギルドと商業ギルド以外はサブマスターも参加しています。


 そこまでだいそれた話にするつもりはないのですが。


「本日の議題は『スヴェイン』殿から持ち込まれた仮称『スヴェイン領』についての検討会だ」


 ああ、その仮称、まだ取れていなかったのですね。


 学園都市の名前だけでも早めに決めないと……。


「まず今回の議題について異論のあるものはいるか?」


 この質問に対しては無言の肯定が帰ってきます。


 それを確認した医療ギルドマスターは、僕へと資料の配付を求めました。


「スヴェイン殿、今回シュベルトマン侯爵よりいただいた土地の資料を配付していただけるか?」


「はい。……どうぞ、こちらになります」


 僕が配り回った資料、そこに記されている地域の広さにすべてのギルドが絶句いたしました。


 ですよねぇ……。


「スヴェイン殿。私もこの資料を初めて見るのだが……間違いはないのか?」


「シュベルトマン侯爵との契約書もご確認になりますか?」


「是非に」


「ではどうぞ」


「うむ。……これは確かに、この範囲の譲渡を『最小限』としているな。将来的にはもっと広げることも視野に入れているそうだ」


 そうなんですよねぇ。


 これだけでも十分に広いというのに、更に広い土地だなんて。


 聖獣や精霊、妖精たちが頑張って土壌改良して外に出せない果実を大量生産する未来が容易に想像できます。


「スヴェイン殿はこの広さに不満かね」


「広すぎて困ります。これではこの街で使う薬草類はおろか、人様にはおいそれと渡せない種類の果実を大量生産するに決まっています」


「おまえ、なんつーもんを育てる気だよ」


「残念ながら僕の拠点にはそれらの苗木や種が山のように保管されていて、それを育てる場所を聖獣や精霊、妖精たちが虎視眈々と狙っています。このような広い土地が手に入ったと知れ渡れば、僕が手を下さずとも一週間以内には霊薬草の山が納品されるでしょう」


「それは恐ろしいですね。商業ギルドとしてはありがたいですが、サブマスターの私としては判断がつきません」


「錬金術師ギルドとして、そんなもの納品するのはふざけんなと言いたいところです。ミドルポーションすらおぼつかないのに、ハイポーション素材の山とか不良在庫が貯まる一方です」


「それだけ聖獣や精霊、妖精が奔放なのですよ。諦めてください」


「ぐぬぬ……」


「それで、僕から冒険者ギルドに確認したいのは『聖獣の森』をどの範囲まで作ってよいのかです」


 冒険者ギルドマスターと折衝を行わなければならないのはここです。


 ここを間違えると共存が難しくなります。


「確か聖獣の森にはモンスターが棲み着かなくなるんだよな?」


「基本的には聖獣がすべて駆逐してしまいます。これでは冒険者の稼ぎに響きます」


「なるほど。そいつは困るな」


「はい。その代わりと言ってはなんですが、聖獣の森近辺では薬草や魔草、毒消し草や麻痺消し草などが群生し始めます。それこそ根っこから引き抜いても翌日には復活する程度には」


「悩ましいな……」


「それから、少しだけ森の中を探索する分には気にしません。そうすればもっと上位の薬草が見つかります」


「本当に悩ましいな」


「あとは生存訓練を手伝ってくれたりもしますが……それはまた後日話し合いましょう」


「わかった。聖獣の森の範囲については態度を保留させてくれ」


「構いません。範囲が決まれば、街に棲み着いている聖獣たちに大号令をかけます。そうすれば一両日中にも精霊の森が完成するでしょう」


「早いな、おい」


「聖獣に取って聖獣の森とはそれだけ大切な癒やしの場ですからね」


 これがないと、聖獣たちの不満がたまっていきます。


 そうなると勝手に聖獣の森を作る恐れがあるので、先手先手を打たねばなりません。


「それから、以前一部の方に話していた『聖獣の泉』はこことここに作ります」


「ひとつはこのような街のそばですか?」


「これには街の飲料水を浄化する目的があるのでご容赦を。遠浅の湖にしますので子供でも安心して遊べる湖にいたします」


「それであれば心配はないな。大きい方はドラゴン殿よりも巨大だが……」


「カイザーが水浴びできる程度の広さと深さを想定しております。こちらは……人が近づくのは危険なので規制線などを張るのがいいでしょう。万が一それを乗り越えても水の聖獣や水の精霊が『一度は』助けてくれます」


「二度目はどうなるのですかな?」


「助けはしますが、魔力を全部吸い取って気絶させたまま放置いたします。季節によってはそのまま凍死でしょうね」


「……見張り番も必要か」


「そうしていただけると助かります。あと、大きい方の湖はシュベルトマン侯爵のご厚意で川のそばに作ることができるようになりました。川と湖を繋げば川にも湖の水が流れ込み、清浄化されていきます。川の恵みが多くなるでしょう」


「……それを見込んでの範囲拡大じゃねえか?」


「まあ、そうでしょうね。おかげで三つ目の湖も作れそうです。こちらは中型の聖獣たちや精霊たちの遊び場になるでしょう」


 ここまで一気に説明させていただきましたが、シャルを除いてどれだけの方がついてこられているか。


「質問だが、聖獣の森からは木を伐採できるのか?」


「聖獣との交渉次第ですが浅い範囲でしたら問題ないでしょう。それらの木材は……以前に語りましたっけ? 非常に高品質ですので、輸出してもよし、街の建て替えに使ってもよしです」


「宝飾ギルドとしては宝石類が手に入るのかお聞きしても?」


「聖獣や精霊が流した涙や生え替わった角や毛、精霊の抜け落ちた羽程度でしたら交渉次第で」


「あの、それらは非常に高値で取り引きされる商材でございますよ?」


「聖獣たちにとっては余り物ですよ。謙虚さを忘れなければ多少は分けてくれるでしょう」


「……宝飾ギルドとしても反対意見を出す余地がありません。むしろ、積極的に作っていただきたい」


「ほかのギルドの方々は?」


 ほかのギルドからもいくつか要望は上がりましたが、それらはすべて聖獣との交渉次第でなんとかなるものばかりです。


 交渉が難航しなければ、ですが。


「では、ギルド評議会として『聖獣の泉』は承認、『聖獣の森』は冒険者ギルド預かりでよいな?」


 これに異議を唱えるギルドはいませんでした。


 結局シャルは、参加はしたものの発言する機会がなかったため、あとから愚痴を聞かされることとなりましたが。

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