511.エヴァンソン使節団のギルド視察最終日午後 中編
「さて、資料室はもうよろしいでしょうか」
シャニア次期代表を始めとするエヴァンソン使節団一行に十分な時間、資料室をご覧になっていただき次の場所へと促します。
「は、はい。よろしいですね、錬金術師ギルドマスター?」
「う、うむ。大丈夫です、シャニア次期代表」
「それでは三階へご案内いたします」
「三階……ですか? 二階は?」
「二階は見習いから第一級錬金術師の部屋になるのですが……今はすべて空き部屋になっております」
「え? こんなに広いのに空き部屋ですか?」
「はい。夏に支部から見習いを百人ばかり受け入れて鍛えてみたのですが、ひとりを除き本部に残しておくには不適格と判断し支部へと送り返しました。『新生コンソール錬金術師ギルド』の本部はそれだけ甘くないと言うことです」
「あの、不適格とした理由は?」
「ええと、様々ですね。指導内容にいらだったり、基礎指導を投げだそうとしたり、格上の技術を見せつけられて心が折れたり憤慨したりなどです」
「え? たったそれだけ?」
「それだけです。僕が追い返した人間も多いですがそれ以上に講師に入っていた先輩錬金術師が追い返した人数の方が多い。半端者にはこの場はふさわしくないという決意の表れです」
「それは……厳しいですね」
「はい。厳しいです。前庭で寝転んでいた虎の聖獣、アーマードタイガー。彼はこのギルドと聖獣契約しています。彼が聖獣契約するものは、熱意と覚悟と誇りを併せ持つ者。そのどれかが足りない者はすべて蹴り出してしまったようですね」
「熱意と覚悟と誇り……」
「そうなります。僕も知らぬ間に契約していたのでなにを見て契約したのかはわからないのですが。ともかく三階のアトリエへご案内いたします」
僕は視察団一行を連れて三階にあるアトリエ、第一期第二位錬金術師のアトリエへ案内しました。
そこでは、いつも通りミドルポーションの研究に勤しんでいる錬金術師たちの姿があります。
「失礼しますよ」
「はい。お話にあったエヴァンソン使節団様ですよね?」
「ええ。シャニア次期代表、彼らが今最前線で研究をしている第二位錬金術師の皆さんです」
「研究中失礼いたします。エヴァンソン次期代表シャニアと申します」
「ご丁寧なあいさつありがとうございます」
「スヴェイン様、最前線とおっしゃいましたが彼らはなにの研究を?」
「製品としてギルドに納めているのは特級品ポーションと特級品マジックポーション。研究中なのはミドルポーションの安定化と量産化ですね」
「特級品の納品とミドルポーションの研究!?」
「はい。シャニア次期代表、特級品こそヒントを彼らに与えましたがミドルポーションの製法解明は僕や弟子、シュミット講師の力を借りず自分たちの手でやり遂げました」
「スヴェイン様やお弟子様、シュミットの講師の方々からも力を借りずにミドルポーションを解明する? この国では製法のヒントがあったのですか?」
「いいえ、まったく。基礎素材となる上薬草は大量に供給していますし、実演も幾度となくしています。ですが与えたヒントと言えば基礎素材のひとつ、霊力水を作れるようになるスキルレベルについてくらい。それ以外は僕の技を盗み取り、自分たちで研究し二年ほどの歳月をかけて完成させました」
「あ、あの。本当に自分たちだけでミドルポーションの製法解明を?」
「はい。旧国家の遅れていた錬金術技術は俺たちの手で取り戻すと誓い合いましたので」
「スヴェインギルドマスターを頼ればすぐに教えていただけたでしょう。でも、それだといつまでも先に進めません。ミドルポーション以上は自分たちだけで解明いたします」
「既にミドルマジックポーションまでは製法が判明しております。あとは自分たちの技術の問題。必ずこの先も手を伸ばしてみせましょう
「……すごい、これがコンソール錬金術師ギルドの熱意と覚悟と誇り」
「恐れながら自分たちのギルドは『新生コンソール錬金術師ギルド』です。スヴェインギルドマスターに文字通り生まれ変わらせていただいたこのギルド、二度と地に落ちさせません」
「……錬金術師ギルドマスター、私たちの国、エヴァンソンでもこれほどの熱意と覚悟と誇りを抱けますか?」
「いや、その……難しいですな」
「私ですらこれほどの覚悟と誇りを持てるかどうか……」
「シャニア次期代表でもですか?」
「はい。私でも……」
おや、少しばかり僕のギルドは刺激が強すぎるみたいです。
僕のギルドを最後に回されたのはそういう意味だったのですかね?
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