510.エヴァンソン使節団のギルド視察最終日午後 前編

 訓練場見学が終わればギルドマスタールームでティショウさんたちとシャニア次期代表たちが対談です。


 主な内容はシュミット講師陣を招いたあと冒険者たちの意識改革をどのように行って来たのかについて。


 ティショウさんたちも『ひたすら鍛えて自分の無力さをわからせ特殊訓練に放り込んだ』としか答えられなかったようですが、それでもシャニア次期代表とエヴァンソンの冒険者ギルドマスターは納得していました。


 そして、対談も終わり引き上げようとしたところ僕ひとりがティショウさんから引き留められてしまいました。


「スヴェイン。お前にビンセントから話がある」


「シュベルトマン侯爵から? なんでしょうか」


「この書状を読んでくれ。内容は俺も聞いているが中身はお前が確認しろ」


「はい……これ、本当に教えていいんですか? シュベルトマン侯爵には高く買っていただいた技術ですよ?」


「ビンセントが今回の訪問を聞きつけ、俺を領都まで呼び出し渡してきた書状だ。本人から内容も聞いているから間違いない」


「移動は……ブレードリオンを使いましたか」


「ああ。馬車だと十日かかる道程を朝出発して夕方前に到着するんだから聖獣ってのは速いな」


「成長するともっと速くなりますよ。ともかくこの内容は僕が預かります。公開するかどうかは書状の内容通りと言うことで」


「ああ。用件はしっかり伝えたぞ」


「わかりました。……そういえばシュベルトマン侯爵っていつまで『侯爵』なんでしょうね? 侯爵の地方も独立しているのに」


「俺も気になったから今回行ったついでに聞いてきた。王だのなんだの偉ぶるつもりはないんだと」


「そうですか。ともかく用件は預かりました。あまり皆さんを待たせるわけにはいきませんのでこれで」


「おう。暇になったら本当に遊びに来い」


「そうします」


 遅れてしまいましたが僕も馬車に戻り、昼食はいつも通りシュミット大使館で。


 そして、使節団一行と合流し最後の視察先である僕の城、『新生コンソール錬金術師ギルド』本部へとやってきました。


「立派な建物ですね」


「はい。今年の夏に建て終わったばかりの建物です。いろいろトラブルはありましたが」


「トラブル……ですか?」


「まあ、こちらの話です。まずはどこから案内いたしましょう?」


「そうですね。錬金術師ギルドマスター、どこを見たいですか?」


「そうですな。噂の『コンソールブランド』発祥のギルド。まずはその資料室をお見せいただきたい」


「わかりました。さすがにこの人数で入るのは狭いかも知れませんがご容赦を」


 資料室が見たいと言うことなので一階にある資料室にご案内しました。


 そこにある蔵書はすべて僕の書いた指導書ばかり。


 さすがのシャニア次期代表もこれには驚きを隠せなかったようですね。


「あ、あの! 本当にこれらすべてがスヴェイン様の書き記した本ですか!?」


「はい。元を正せば師匠から教わった内容やお婆さまが残してくれていた資料、それに僕の研究成果を交えた内容を指導書としてまとめた本が資料室に並べられている本です」


「いや、実に素晴らしい。シュミットの方々から蒸留水の作り方などは学んでいるがここまで詳しい指導書はない。そして、魔力操作についての本まであるがこれは?」


「ああ、それですか。コンソールの錬金術師ギルド……いえ、『コンソールブランド』を作る上ではほとんどの職種ででしょうか。【魔力操作】スキルをマスターしないと入口に立てないのです。そのため魔力操作の指導書も記しました」


「魔力操作……確かにエヴァンソンでも錬金術師ギルドに講師が来たとき魔力操作から教えられたがそこまで変わるのか?」


「はい。蒸留水を作るだけなら変わりません。ですが、それ以降の工程。魔力水やポーション、マジックポーションなどを作る時は極めてわかりやすく差が出ます。あくまでもスキルをマスターするのがです。更にそのあとの研鑽を積まなければ高品質品まではなんとかなっても、最高品質品を作るのは素材が揃っていても難しいでしょう」


「……スヴェイン様、そこまで厳しいのですか?」


「はい。お目にかけませんが錬金術師ギルド支部ではそちらの研鑽が十分ではなかったことが判明いたしました。その結果として、満足にポーション類を作れない、いえ、魔力水にすらムラがでる始末でしたね」


「そこまでか。いや、シュミットの講師から指示されているとおり【魔力操作】スキルは鍛えてはいる。だが、マスターした者はそこ止まりだろう。その先まで研鑽している者がいるかどうか……」


「それですと、戻られたらすぐに魔力操作の研鑽を積ませることをおすすめいたします。シュミット講師は甘くない。マスターするところまでは面倒を見るでしょうがそこから先は自分たちで気が付かない限り教えてはもらえないでしょう」


「いや、ここまでの話だけでも十分にためになる。戻ったらすぐにでもすべてのギルド員に魔力操作の再訓練を伝えよう。方法はどのようにすれば?」


「そうですね。魔力操作をもっと詳しく知りたいとお願いすればシュミットの講師も教えてくれるはずです。彼らも研鑽を積む者は見捨てませんから」


「承知した。頼るようで申し訳ないのだがここにある蔵書を貸し出してはもらえないだろうか? 明日には必ずお返しする」


「事務方の統括であるサブマスターと話してみますが一式数冊ずつ差し上げられると考えています。でしたら隠すようなものでもありませんので」


「お待ちください、スヴェイン様! 最高品質品の作り方まで記されている指導書が隠すものではないと!?」


「はい。秘匿しているのは特級品以上の知識のみです。これが知られても何の問題もないというのが『新生コンソール錬金術師ギルド』の共通認識ですから」


「これだけの知識を隠さない……何の問題もない……」


「商業ギルドからは『技術の安売りをするな』と言われそうですが、今回は問題ないでしょう。錬金術師ギルドから献上できる品はそこ止まりですし」


「その……スヴェイン様といえど技術の安売りが過ぎるのでは?」


「そうでもありません。本当に『新生コンソール錬金術師ギルド』、特にその本部においては入口の知識ですから。高品質マジックポーションが安定……『新生コンソール錬金術師ギルド』基準の安定なので九割以上成功して初めて見習いから一般錬金術師に昇級できる。それがコンソールの錬金術師ギルドです」


「な……高品質マジックポーションを九割以上で見習いを卒業?」


「そんな……私たちの国では一般錬金術師だとマジックポーションが六割できればいい方なのに……」


「僕が薬草を無償で大量提供しているからこその力技でもあります。それだけの環境を与えているのですから、その程度ができていただかねば困るのです」


「薬草……それだけの薬草を一体どうやって!?」


「それについては少しお待ちを。僕ひとりの判断で公開していいのかどうか迷いますので明日のギルド評議会にかけます」


「あ、はい」


 シャニア次期代表には悪いのですがさすがに僕ひとりの判断だけで決められないんですよ。


 シュベルトマン侯爵に渡したときは個人の問題でしたが、今回は国同士の問題になってしまいましたから。

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