509.エヴァンソン使節団のギルド視察最終日午前
エヴァンソンの皆さんがギルド視察をするのも今日で最終日です。
今日の予定は午前中が冒険者ギルド、午後が僕の錬金術師ギルドですよ。
僕の錬金術師ギルドは視察順番を決めるときに『絶対に最後』と言われたのですが……まあ、席次も低いですしどうでもいいでしょう。
さて、今日も黒曜の馬車でシャニア次期代表をお出迎えです。
「お待たせいたしました。シャニア次期代表」
「本日もよろしくお願いします。スヴェイン様」
「本日の予定ですが午前中は冒険者ギルド、午後は僕の錬金術師ギルドになっております」
「はい。それと、先日は講習会をまた見せていただき本当にありがとうございました」
ええ、シャニア次期代表を始めとするエヴァンソン使節団一行ですが、先日開催された僕の講習会を再度見学に来たのです。
その日、その時間の予定は商業ギルドだったはずですが、そのあとお詫びに行ったら商業ギルドマスターから『私どものギルドよりスヴェイン殿の講習会の方が学ぶことが多いでしょうからな!』と言われてしまい……そうでしょうかね?
ともかく使節団の方々と合流したあとは冒険者ギルド本部へ。
そこではティショウさん、ミストさん、フラビアさんの三人が待っていました。
「ようこそ、シャニア次期代表。エヴァンソン使節団。俺が冒険者ギルドマスター、ティショウだ」
「冒険者ギルドサブマスターミストでございます」
「冒険者ギルドサブマスター候補フラビアです。本日はよろしくお願いいたします」
「ええ、よろしく。それにしても、三人でのお出迎えですか?」
それが引っかかるんですよね。
ほかのギルドはどこもギルドマスターのみのお出迎えだったのに。
「ああ、いや」
「ティショウひとりに任せるとどんな失礼をはたらくかわからないものですので。主な案内は私がいたします」
「そうでしたか。私たちの国でも冒険者ギルドマスターは冒険者上がりの方です。そこまで気にしていただかずともよかったのですが」
「国賓の前ではそうも参りません。どこからご案内いたしましょう?」
「では、訓練施設を。そこが一番わかりやすいので」
「かしこまりました。それではご案内いたします」
ミストさんに先導をされ、シャニア次期代表を始めとするエヴァンソン使節団一行が冒険者ギルドへと入っていきます。
入り口を入った途端、エヴァンソン使節団の中にいた冒険者の方が足を止めてしまいましたが。
「大丈夫かい? エヴァンソンの冒険者さんよ?」
「あ、ああ。ここの冒険者ギルドはいつもこうなのか?」
「そうだな。国賓が来るから抑えろって命じてあるんで普段よりはおとなしいが、こんな感じだ」
「これで抑えている? 我々の国でも冒険者講師に鍛えられているが……」
「そうか? まあ、〝シュミット流〟を扱えるようになってきた連中も増えてきた。三合で折られる程度だがな」
「あれを使えるのか……」
「おう。さあ、早く入ろうぜ」
「わ、わかった」
ふむ、〝シュミット流〟を扱える冒険者も増えてきましたか。
簡易エンチャントはまだ早いでしょうが、互いの武器だけを狙える冒険者が増えてきたということ。
それは激しい動きの中でも狙った場所だけを破壊できる証明です。
その本質はモンスターの角だけを折ったり足だけを折ったりして局所素材や生き血を集めやすくすることや敵を殺さず無力化して捕まえること。
冒険者講師はそこまで教えないでしょうが、そこまでたどり着いてもらいたいですね。
冒険者の方が足を止めたために一時ストップした使節団ですが、そのあとはそのまま訓練場の観客席へ。
そこからは激しい訓練の様子が見て取れました。
「ご覧の通り、これが今のコンソール冒険者ギルドにおける訓練の様子でございます」
「シュミットから呼び寄せている冒険者講師の方々は何名でしょうか?」
「最初は四名、一般技能講師三名に特殊技能講師一名でした。現在は一般技能講師四名、魔法訓練講師二名、特殊技能講師二名の計八名です」
「八名ですか。私たちの国でお招きした冒険者講師の方々は一般技能講師おふたりだけ。まったく投資が足りていませんね、冒険者ギルドマスター?」
「そのようですね。魔法訓練講師と特殊技能講師とはどのような訓練を行ってくださるかうかがってもよろしいか?」
「もちろんです。魔法訓練講師はその名前の通り魔法全般の訓練を付けてくださる講師でございます。魔術師系の育成だけではなく、治癒師に対する適切で効果的な治療方法の指導や魔術師相手の時に戦士がどのように立ち回ればいいかも教えてくださいますわ」
「それは貴重ですね。シャルロット様、魔法訓練講師の最低金額はおいくらからでしょう?」
「そうですね……最低金額となると白金貨百五十枚からでしょうか。もちろん、金額が安かろうとお値段に見合った講師を、Cランク上位の講師を取りそろえております」
「冒険者ギルドマスター、その程度の金額は支払えますね?」
「無論です。その程度の金額を支払うことであれだけの腕前を持った方に魔術師を鍛えていただける上、治癒師への指導や対魔術師戦の指導まで行っていただけるとあれば安すぎる出費です」
僕の講習会のあと、視察四日目から皆さんの目つきが変わったと感じていましたがここでも講師の派遣を即決できますか。
シャニア次期代表もエヴァンソンの各ギルドマスターも覚悟が決まりましたね。
「それで特殊技能講師とは?」
「はい。各種採取や応急手当、野営、森のような危険地帯での進み方などの命を繋ぐ技術を教えてくださる講師です。講師代もお高めでしたが特殊技能講師の方が来てくださったあとは冒険者の生存率が高まりました。非常に貴重な技術を学ばせていただいております」
「……確かにそれは貴重です。冒険者の死亡数はエヴァンソンでも少なくありません。シャルロット様?」
「コンソールでは冒険者ギルド講師のまとめ役としてBランク講師を派遣いたしました。そのため、講師代も少し高めの白金貨五百枚をいただいております。もちろん、Bランクでも上位の講師なので教えられる範囲も広いですが、エヴァンソンではその金額の出費、まだ難しいでしょう?」
「そうですな。さすがに年白金貨五百枚は厳しい。非常に貴重な技術、学ばせていただきたいのですがもう少しお安めの講師はいらっしゃいませんか?」
「Cランクの講師でよければ白金貨三百五十枚からご用意出来ます。Bランクの冒険者を従えるには〝冒険者の流儀〟を使いますが構いませんね?」
「構いません。むしろ、講師がCランクだろうとシュミットの人間を侮るような冒険者はエヴァンソンにもういません。申し訳ありませんが特殊技能講師の方も派遣願います」
「かしこまりました。ほかのギルドからも要望が上がっていますしエヴァンソンに戻る際には私もお供します。そこで契約を結んだあと派遣する講師を選定、決まり次第すぐにエヴァンソンに派遣いたしましょう」
「助かります、シャルロット様。ちなみに、この国に派遣されている冒険者講師はどのくらいの腕前でしょうか?」
「そうでございますね……ティショウ、フラビア。どうせ午後には訓練を行うのでしょう? 今実力を見せてきなさいな」
「悪いなミスト。案内は任せた」
「申し訳ありません。それでは行って参ります」
「おや、ティショウさんだけではなくフラビアさんまでですか?」
「はい。フラビアも毎日訓練をしています。血の気の多さがいまだに抜けません。いい加減、私の後継者候補ではなくティショウの後継者候補にしようかと」
「それがよさそうです」
そう言っている間にもティショウさんが武器を取り冒険者講師相手に訓練を始めました。
ほほう、これはこれは。
「なるほど。〝シュミット流〟が使えるのですね、こちらのギルドマスターは」
「はい。冒険者講師の皆様から『簡易エンチャントだけは教本も教師もなしで覚えるのは不可能』と言われ、習ったようですが正式な〝シュミット流〟の打ち合いです。ただ、ティショウが施せるのは【鋭化】と【硬化】のみ、講師の方には手加減していただき【硬化】のみで戦っていただいております」
「それでもすごいことです。冒険者講師が来てから二年と少しなのでしょう? それなのに身体強化だけではなく互いの武器破壊狙いのみと一瞬の簡易エンチャントまでできるとは」
「恐れ入ります。ティショウも三種類同時に簡易エンチャントを施せるよう鍛えているのですが、一瞬のみとなると三種類はまだ難しいようです」
そのあともティショウさんと冒険者講師の打ち合いは続き、五分と少し経ったところでティショウさんの爪が折られて負け。
冒険者ギルドにも最近訪れていませんでしたがあそこまで成長していましたか。
「あー、今日も負けちまった。シュミット兄妹、俺が負けた理由を教えてくれ」
「ティショウ様はまだまだ簡易エンチャントに慣れておりません。少しばかり武器の強度よりも簡易エンチャントが強めです。わずかずつですが武器の強度が減って行っていたのでしょう」
「そして最後の一回は簡易エンチャントが一瞬長かったです。それが致命的な原因ですね」
「ふむ、集中力不足と簡易エンチャントの見極めが甘いか。スヴェイン、お前昔みたいに暇なときは冒険者ギルドに遊びに来い。そんで俺の悪いところを教えてくれ」
「暇ができたらそうします」
「まったくティショウは……」
「よろしいではないですか、向上心と熱意があって」
「まったくです。私も時間があるときは冒険者講師の方に訓練をつけていただいていますが、まだまだ甘すぎますな」
「精進しなさい、冒険者ギルドマスター」
「心得ました、シャニア次期代表」
そんな話をしている間にもフラビアさんの準備が整ったようです。
さて、あちらはどのような仕上がりになっていますでしょうか?
「ほほう」
「フラビア様でしたか、彼女も素晴らしいですね」
「まったくです。私たちの国ではあのような真似は誰もできますまい」
「フラビアも命知らずでして……」
フラビアさんがやっていること、それは魔法を魔法ですべてたたき落としているのです。
また、自分の魔力制御や攻撃時の魔力密度が甘くならないために自身の周囲に防御系魔法は一切使っていません。
それどころか、左右に動き回りながら少しずつ魔法訓練講師との距離を詰めて行っています。
一発でも当たれば大怪我、本当に命知らずですね。
「ここ! 『サンダーバレット』!!」
「くっ……『サンクチュアリ』!」
魔法の雨をかいくぐりながら進んだフラビアさんが一瞬の隙を突き、魔法訓練講師に雷の弾丸を降らせます。
講師はたまらず『サンクチュアリ』で防ぐしかなく、魔法攻撃が途切れてしまいました。
こうなればフラビアさんが一方的に攻撃するのみ、やがて『サンクチュアリ』も破壊されフラビアさんの勝利です。
「フラビア様は魔法訓練講師にすら勝ちますか」
「ええ。三日に一回は見極めが甘く大怪我を負わされますが、五回に一回程度の頻度で勝てているようですわ。まったく血の気の多い」
「いえ、素晴らしいことだと。さすがに大怪我を負うのはいかがかと考えますが」
「私もですわ」
そういえばフラビアさんの杖にも『エンジェルライト』を使えるようにしてありましたね。
魔力さえ残っていれば大怪我をしていても回復できるのも良し悪しですか。
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