512.エヴァンソン使節団のギルド視察最終日午後 後編

 三階のアトリエ見学が終わるとギルドマスター、僕との対談と言うことで五階にあるギルドマスタールームへ。


 ギルドマスタールーム前では一組の男女が待っていました。


「お待ちしておりました。シャニア次期代表、エヴァンソン使節団一行様。当ギルドサブマスター、ミライと申します」


「私は錬金術師ギルドに派遣されてきているシュミット講師陣のとりまとめ役、ウエルナです。よろしく」


「はい、よろしくお願いします」


「それでは中に入りましょうか、皆さん」


 僕は扉にかけられている鍵と魔法錠を解錠してギルドマスタールームへ皆様を招き入れます。


 ギルドマスタールームは基本的に広くなった以外、引っ越し前とさして変わらないんですよね。


「さて、対談前に確認を。ミライサブマスター、資料室の蔵書ですが五セットくらいでしたら差し上げても構いませんよね?」


「はい、構いません。特別隠すような知識でもありませんし」


「では決定です。シャニア次期代表、帰る前に使節団の皆様に本をお渡しいたしますのでお納めください」


「え、あ、はい。ありがとうございます」


「それでは対談といきましょう。なにをお話しいたしましょうか」


「それではまずスヴェイン様がギルドマスターになられた当初、十日間で見習いに高品質ポーションを教えたと伺いましたが本当ですか?」


「本当です。十日間のうち初日はアトリエの清掃のみ、最終日は視察に来たほかのギルドマスターのお相手のみだったのでさすがに安定、今のギルド基準での安定は不可能でしたがある程度は仕込みました」


「それは実質八日間で高品質ポーションを教えたと言うことでしょうか?」


「そう言われてみればそうなりますね。十日間の約束でギルドマスターを引き受けていたのでずっとそのつもりでいました」


「……それはシュミットの講師の方々でも再現可能でしょうか?」


「それってできますか? ウエルナさん」


「不可能です、スヴェイン様。全シュミット講師の中でも錬金術講師の中では私が第一位です。それでも実質的な初心者に十日間で教えられるのはマジックポーションが限界、私が全力で教え込んでも高品質ポーションが五割になるのは十五日かかります」


「……ウエルナさん? 全シュミット講師の中で第一位って言うことは錬金術師講師の文字通り最上位ですよね? そんな方がシュミットからコンソールまで出てきていていいんですか?」


「ああ、いや、その……公王様の許可はいただいているので平気です」


 お父様の許可があれば平気とかそういう問題じゃないでしょうに。


 お父様を含め、なにを考えているのやら……。


「あの、失礼ですがスヴェイン様はウエルナ様をおいくらで雇っているのでしょう?」


「白金貨二百枚です。これ以上はどうしても受け取らないと言われ続けています。そうですよね、シャル?」


「はい。今現在シュミットからコンソールに派遣されている錬金術講師十四名、全員白金貨二百枚しか受け取らないと宣告されてコンソールに渡ってきております。国としても先行投資およびお兄様の技術を少しでも盗める機会と考えて許可いたしました」


「十四名……ですが、こちらではウエルナ様以外誰ひとりとしてコンソールの講師の方々に会っておりませんが?」


「私も含め十四名全員、錬金術師ギルド支部勤務です。錬金術師ギルド支部にて千五百名程度の錬金術師を鍛えております」


「錬金術師を千五百人!?」


「ええ、千五百人です。そこまで行くと私たちの目が届かず落ちこぼれる人間も多いですが、そういった者たちは容赦なく切り捨てて新しい人材を迎え入れています。それができるのが今のコンソールです」


「コンソールでは多くの錬金士以下の者たちも迎え入れたと聞きましたが……それほどですか」


「その答えはサブマスターである私から。今現在コンソールに集まっていただいている錬金術師志望の方々には冒険者ギルドに納めるポーションを作っていただいております。錬金術師ギルドから生み出されるポーションは基本的に『コンソールブランド』として商業ギルドへ卸されるため、冒険者ギルドまで手が回りません。そこをカバーしていただいております」


「ですが、それを続けるためには大量の薬草が必要ですよね? それはどこから?」


「ええと……教えていいのでしょうか、ギルドマスター?」


「この場では保留とさせてください、シャニア次期代表。先ほども言いましたが、その件につきましては明日のギルド評議会にかけます」


「は、はい。それでは次の質問ですが、なぜシュミット本国でも最上位のウエルナ様も支部勤めなのでしょう? 先ほどの錬金術師たちの覚悟は見せていただきましたが少々もったいないと感じます」


「それについては自分から。私、ウエルナでもスヴェイン様には錬金術の腕前で遠く及びません。スヴェイン様が本部で構えている以上、私でもここにいる理由がないのです」


「そ、そうですか。では、ウエルナ様クラスの錬金術講師を雇おうとすると適正価格はおいくらなのでしょう?」


「その件はシュミット公国公太女である私がお答えいたします。。各講師資格を持つ者の中で第一位から第五位までの講師はです。本来、ウエルナもここにいてはいけない存在。お父様がお許しになったからこそコンソールに来ていますが国外に出ること自体が禁止のはずです」


「……すみません、シャルロット様」


「過ぎたことをグチグチ言うつもりはありません」


 ですよねえ。


 僕も話でしか知りませんが最上位講師って講師を育てるための講師って習いましたから。


「それでは……私たちの国でもいずれ子供向けの講習会を開きたいと考えております。それに対して技術協力をお願いできませんか?」


「技術協力ですか。『子供用超初心者向け錬金台』程度でしたら構わないのですが、どうでしょうミライサブマスター?」


「あの技術を知らない私に振られても困ります、ギルドマスター」


「……そういえばそうでしたね。錬金炉に使われている素材はミスリルを皮膜に使った宝石の欠片五種です。子供にも扱いやすくするために。ほかは軽量かつ頑丈にするため中空のミスリルを使っています。安全装置と安定装置はそれぞれ三重、さすがに市販の錬金台のものを流用できないので特製品ですがそこまで難しいものでもありません」


「ちなみに、宝石のお値段は?」


「市中価格合計金貨五枚ほどです。量さえ足りていればいいので欠片を集めても構いません」


「ふむ……使うミスリルの量は?」


「インゴットで取り出しますか?」


「よろしくお願いします」


「これくらいです」


「……これだけですか? もっと多いと考えていました」


「子供が扱うので間違って落とさぬよう相応の重さは必要ですが重すぎてもいけないんですよ。ちなみに安全装置や安定装置もミスリル製ですがその分もそれに含まれています」


「ちなみに作れるのはギルドマスターだけですか?」


「ウエルナさんにも設計図を渡しましたよね。作れますか?」


「ええ、あれだったら作れます。私がそれだけに集中して素材さえあれば一日二百台は余裕ですね」


「ずいぶんと簡単な……それでは素材台と技術料を加味して一台金貨三十枚程度でいかがでしょうか、シャニア次期代表」


「え、ええと。たったそれだけでいいんでしょうか」


「ギルドマスターのお手を煩わせずに大量生産できるのであれば安くできます。これを安く感じると言うことは『マジックポーション入り錬金台』のお値段を聞いているということでしょうが、あれは素材がものすごく特別な上にギルドマスターですら一日十台しか作れないんですよ。それを考えた結果、恐ろしい値段になってしまいました」


「それではお願いしたいのですが、来年の春頃までに五十台というのは可能でしょうか?」


「五十台程度でしたら今持っています。それにその程度の金額でよろしければ献上品として差し上げますよ。さすがに荷物になりますのでマジックバッグに入れてお渡しいたします。お帰りの際にお持ち帰りください」


「……いいのでしょうか、サブマスター様?」


「このギルドマスターは言い出したら聞きません。遠慮なくお持ち帰りください」


「ではありがたくいただきます。では最後に、どうやったらあれほどのを持たせることができるのでしょう?」


 ああ、その質問ですか。


 困りましたね、答えがないんですよ……。


「おそらくギルドマスターは答えられないでしょう。ギルドマスターは当たり前のことしかやっていないと感じているはずなので。なので、サブマスターの私から。。ただそれだけで人は変わります。難しいでしょうがそれしか道はありません。答えになりましたでしょうか?」


 ミライサブマスターが大それたことを言い出しましたが……そんなことしてましたっけ?


「……よくわかりました。最後といっておいて追加なんですがもうひとつだけ。『新生コンソール錬金術師ギルド』の最終目標地点はどこなのでしょう?」


「ギルドマスターやシュミット講師のお手を借りずにハイポーションの製法を解明することです」


「それが。少しでも多く持ち帰らせていただきます」


「ええ、よろしくお願いいたします」


 最終的にシャニア次期代表とミライサブマスターの間でなにか通じ合ったみたいですが……まあ、いいでしょう。


 少しでも多く持ち帰っていただくものができたようですし。

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