513.エヴァンソンとの友好関係締結交渉

 僕のギルド視察も終わりエヴァンソン使節団の滞在予定も明日が最終日。


 この日はギルド評議会との対談となっています。


 そのため、ギルド評議会の面々もいつもの評議会場ではなく別室で使節団一行と顔を向け合っているわけですが。


「いかがでしたかなシャニア次期代表。我々、竜宝国家コンソールは」


「はい、多くのことを学ばせていただきました。なぜコンソールとエヴァンソンでシュミットの技術を取り入れた時期は一年あまりしか違いはないのにここまで差が出ていたのかを痛感させられました。同時に皆様の開示していただいた覚悟と誇り、少しでも多く持ち帰らせていただきます」


「それはよかった。我々も手札を隠さないとは決めていたものの、圧倒することが目的ではありませんでしたからな」


「正直、最初三日間はただただ圧倒され打ちひしがれていただけです。ですが、それ以降はしっかりと皆様のお気持ちを受け止めさせていただきました」


「結構です。各ギルド、選りすぐりのものによって腕前を披露させていただきましたがそれが無駄にならず幸いでした。おそらく錬金術師ギルドはそれでもなお圧倒されたでしょうが」


「……はい。錬金術師ギルドからは最高品質品までの詳しい手順を書かれた指導書一式に子供向けの教育用錬金台までいただいた上、までお教えいただきました。あまりにももらったものが多すぎて困っている所存です」


「錬金術師ギルドマスター、本当かね?」


「指導書と子供向けの錬金台は本当です。ただ誇りと覚悟を抱く方法はミライサブマスターが話しただけなんですよね。それが答えだというのでしたら構わないでしょう」


「ふむ、その答えとやらは私も知りたいな。いずれサブマスターを訪ねるとしよう」


「そうしてあげてください」


 本当にあんな大それたことを僕がしていましたかね?


 届かない背中でしたらいくらでも見せてきましたが。


「それで私から竜宝国家コンソールの皆様へ提案がございます」


「なんでしょうか、シャニア次期代表」


「はい。エヴァンソンと竜宝国家コンソールの友好関係締結を進めていただきたいのです」


「友好関係締結ですか……」


「ええ。友好関係締結です。隣接する国家ではなく馬車の旅となれば数カ月を要する地です。今はまだエヴァンソンが一方的に劣るのみですが、いずれは肩を並べてみせましょう。どうかご一考を」


「うむ……その議題、我々竜宝国家コンソールとしても出す予定でした。とある技術を伝えるための必要条件として友好国になっていただかねばならないために」


「とある技術……でございますか?」


「我々、ギルド評議会も昨日の夜持ち込まれた議題なので態度を決めかねているのですが、その技術をシュベルトマン侯爵が教えてもよいという判断をくださいました。なので、教えてもよいのですが……」


「それはどのような技術でしょう」


「錬金術師ギルドマスター、いや、スヴェイン殿。説明を」


「はい。僕たち……正確には提供する技術、それはです」


!?」


 それを聞いたエヴァンソン使節団一行がざわつきますが……コンソール側としては悩ましいんですよね。


「あ、あの。薬草栽培とはまことですか? 夢物語などではなく?」


「薬草栽培は可能です。種と方法さえわかっていればいくらでも量産できます。ポーションの『コンソールブランド』が大量に商材を販売できるのは錬金術師を大量に抱えているおかげでもありますが、それでは作り手側だけで素材が足りません。なので現在は僕が個人で栽培している薬草類をギルドに提供してポーション作製をさせています」


「あ、それで昨日の……」


「はい。薬草の大量入手元は。僕がいなくなれば立ちゆかなくなる方法のため、コンソールでも薬草の試験栽培を始めているところですね」


「それで! 友好関係締結の折にはそれも提供していただけると!?」


「はい。この技術を買っていただいたシュベルトマン侯爵からも許可が出ました。教える分にはやぶさかではないのです。ただ……」


「ただ?」


「薬草栽培はいろいろなリスクをはらみます。そちらにいる冒険者ギルドマスターにお話を伺えばその一端はわかりますよ?」


「え? 冒険者ギルドマスター?」


「はい、シャニア次期代表。冒険者にとって薬草採取はです。薬草栽培によってその稼ぎ口を失ってしまえば多くの冒険者、下級冒険者が食うに困るでしょう。スヴェイン殿、薬草栽培とは多少の量ではありませぬよな?」


「もちろん。条件さえ揃えば毎日何千枚でも薬草の葉が手に入ります。それでは冒険者ギルドとして薬草を買い取る意味などありません。まず最初にそこをどうするかを決めなければならない」


「そういうことです、シャニア次期代表。まずは冒険者救済制度を整えなくては」


「冒険者救済制度……コンソールではどうしているのでしょう?」


「俺たちは初級冒険者、Eランク以下の連中に対して一日一回訓練場に足を運べば日銭分程度の金を支給している。それとは別に薬草の買い取りも継続している。『コンソールブランド』には使えないが練習には使えるからな」


「ふむ。出入り記録はどうやって?」


「冒険者証を使って厳重にやっている。虚偽申告をできないような仕組みは整えているつもりだ」


「なるほど……その案、エヴァンソンでも使ってよろしいか?」


「構わないが冒険者ギルドとしても相応の出費になるぞ? 俺たちはポーション販売の利益が大きいから可能な案だ。そうでなければ依頼手数料などを引き上げなければやっていけない」


「……確かに。ちなみにポーション販売の利益が大きい理由をお伺いしても?」


「『カーバンクル』ブランドだ。そこにいるスヴェインの弟子が作っている高品質以上のポーションを毎週抽選販売している。『コンソールブランド』以上に高品質なだけじゃなくミドルポーションやミドルマジックポーション、高品質ミドルポーションに高品質ミドルマジックポーションまで含まれるからな。仕入れ値も安くはないが販売益も高い。しかも、毎週仕入れた分だけ売り切れる人気商品。その利益を還元する意味でも下級冒険者育成の資金に回している」


「高品質ポーションも……ですか? 失礼だが高品質ポーションなら」


「『カーバンクル』はこの街のポーションが革命される前に供給され始めただ。上位冒険者が高位ポーションを買っていくのは危険な依頼の備えとしてだが、『コンソールブランド』でも買える品を『カーバンクル』で買っていく連中は自分たちの誇りと信念を忘れないための支え、そして必ず生きて帰ってくるという決意の表れだ」


「ポーションひとつにそこまでか」


「そこまでだ。それがだ」


 うーん、弟子たちがいまだに高品質ポーションなどを納めていることは知っていましたがそういうことでしたか。


 コンソールの冒険者も本当に変わっていますね。


「……頭が痛い問題です。シャニア次期代表、この場で出せる答えがありません」


「そうですか……それでリスクはそれだけでしょうか?」


「いえ、もちろんそれだけではありません。薬草栽培は種と方法さえわかればあとは根気よく時間をかけることで一大農園を築き上げることのできる技術です。そうなってくると出てくるのは……」


「貴族同士による利益の奪い合いですか……」


「そうなります。国として利益分配なりしっかりとした管理なりをしなければ、すぐにでも薬草栽培の技術は持ち逃げされます。薬草栽培に必要なのは究極的に言えば知識と種一粒なんですからね」


「そちらも頭の痛い問題です。私たちの国の貴族どもがそんなことを理解できるとは到底考えられません」


「僕はエヴァンソンに行ったことがあり、そちらの重鎮にも会ったことがあるので言い切れます。あの方々ではこの技術の重要性など理解できないでしょう。せいぜい、利益を奪い合って混乱を招くのがオチです」


「私もそう考えております。ああ、あの連中の首を切れないのが、貴族どもの顔ぶれを一新できないのが頭が痛い……」


「ほかにも細かいリスクはありますが大きなリスクはこのふたつでしょう。冒険者の職を奪う可能性と利益の奪い合いや持ち逃げ。技術を渡すのは構わないのですが、そのあとのことまでは責任を負えません」


「そうですね。技術供与をいただいてしまえばそれ以降は私どもの責任で行わなければいけません。喉から手が出るほどほしい技術です。ちなみに、薬草栽培とは高品質以上の薬草も栽培可能ですよね?」


「もちろんです。条件さえ揃ってくれば最高品質の薬草をいくらでも栽培できます」


「ああ、本当に頭が痛い。シュミットから高品質以上の薬草も輸入しております。ですが、その薬草代も一枚一枚は高くないと言えど数が大量のため高くつきます。コンソールにて市場価格も確認させていただきました。高品質ポーションの値段はエヴァンソンの五分の一以下です。生産量の問題もあるでしょうが薬草費の問題も出ているでしょう。その費用を抑えるための技術が目の前にあるのに手を伸ばせば国内の混乱を招くのが目に見えている、非常に悩ましい」


 シャニア次期代表も本気で頭を抱えてしまいました。


 シュミットの公王家三人揃って早々に首をすげ替えたほうがいいと言うほど無能な重鎮たち。


 その前に薬草栽培などと言う巨額の富を生み出す餌をぶら下げてしまえばどうなるかなど目に見えているのでしょう。


「あの、ちなみにコンソールではどうなさっているのでしょうか?」


「コンソール錬金術師ギルドとしては多少の持ち逃げは止むなし割り切っています。個人で栽培できる量など限られていますし方法だって完全でなければ意味を成しません。コンソールを除くこの地方一帯を治めているシュベルトマン侯爵には既に薬草栽培の技術を買っていただいております。シュベルトマン侯爵の直轄地では栽培も順調と伺っていますし大きな問題にはならないでしょう」


「私たちの国ではそこまで割り切れません。確実に貴族同士で利益の奪い合いになります。そうなれば他国の間者によって技術も盗まれるでしょう。どのようにすればいいのか……」


「この場で言えるのは竜宝国家コンソールとして薬草栽培技術に関する一式の技術供与の準備があるということだけです。どのようにするかは……国に帰ってズレイカ代表とだけ協議するとよいでしょう。あの重鎮どもに話せばそれだけで利益の奪い合いが始まります」


「……そうですね。今の私では難しい舵取り、ズレイカ様と相談してから決めさせていただきます」


「是非そうしてください。僕から提供できる技術は以上です」


「私たち竜宝国家コンソールとして友好国となっていただければ、スヴェイン殿の薬草栽培技術のほかゆくゆくは文化交流なども考えております。我が国の者の中にロック鳥と契約できる者が現れた後になりますが」


「それは願ってもないことです。友好国としての関係締結、よろしくお願いいたします」


 ひとまず友好関係締結までは至ることができましたね。


 この先、どう進むかはシャニア次期代表の舵取り次第になりますが……本当にあの重鎮どもの首をすげ替えるのはお急ぎになるべきでしょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る