514.エヴァンソン使節団の帰還
エヴァンソン使節団一行の滞在予定も今日が最終日、帰国予定日となりました。
各ギルドとも出発の準備を整え、シャニア次期代表も今まで乗り慣れた馬車、馬車ギルドから献上された最新式の馬車に乗りロック鳥たちとの合流地点へと向かいます。
ちなみに、今日この馬車を引いているのは黒曜ではありません。
帰りの便でも使っていただかねばならないのでエヴァンソンに対して献上した駿馬にて引いております。
「スヴェイン様、二週間にも及ぶ長い間の案内役、まことに感謝いたします」
「いえ、僕にできることはこれくらいでしたので」
「そういっていただけると幸いです。本来でしたらエヴァンソンへも同行していただけると、ズレイカ様もお喜びになるのでしょうが……」
「ズレイカ様はまだまだあなたの教育でお忙しいでしょう。それにあの国の重鎮どもでは、僕がまた顔を見せればなにをなにを言い出すかわかったものではない。……お父様が先触れを務めているということは、それだけあの国に長居したくなかったと言うことでしょう?」
「お恥ずかしながら……あれほどの知識を授かることができ国も潤うことができているのに、『講師費用が高すぎる、半額にしろ!』と要求を叩きつける始末でした」
「コンソールでは初年と二年目で更新費用の値下げを行ったそうです。その様子ですと、それすらも行っていないでしょうね」
「はい。なんとかアンドレイ様に怒りを静めていただき、講師の皆様を引き上げる判断を待っていただく事が精一杯でした」
「シュミットの剣聖であるお父様にそれだけの大言、いえ、暴言を吐けるのですがら大物ですね、そちらの国の重鎮は」
「お恥ずかしながら。友好関係締結にも反対してくるでしょうし、首のすげ替えは急務となってしまいました」
シャニア次期代表も頭が痛そうです。
とはいえ、コンソールはニーベちゃんやエリナちゃんが暮らしている街だったからこそ手を貸し始めたのですが、エヴァンソンは完全に他国。
僕の知恵や力を貸すわけには……ああ、あなたがいましたか。
「失礼ながら、シャニア次期代表はコンソールにやってきた初日のことは覚えていらっしゃいますか?」
「初日……ギルド評議会のジェラルド様ほスヴェイン様にあいさつさせていただいて、スレイプニルの馬車に乗せていただいて……聖竜様!」
「はい。彼が答えを聞きたいと来ております。いかがなさいますか?」
「ええ。私の覚悟も決まっております。お目通り願えますでしょうか?」
「では馬車を止めていただきましょう。と言うわけで一度馬車を止めてください」
ロック鳥たちが待つ場所まで向かう途中、シャニア様の馬車はその歩みを止めました。
そこでシャニア様はひとり馬車の外に出て、なにもない空へと呼びかけました。
「聖竜様、もしいらっしゃいましたらそのお姿をお見せください」
その呼びかけに応じてすぐさま初日に現れた最上位の聖竜が一匹姿を現しました。
ついでに、上位の聖竜が六匹一緒に。
聖竜ども、なにを考えているのか。
「あ、あの、聖竜様?」
『う、うむ。このようなことにするつもりではなかったのだ……』
『最上位竜よ。お前が格上であることは重々承知。だがこの娘の守り、お前だけで足りるのか?』
『そうですね。守りの数は多ければ多い方がいいでしょう。断られれば諦めます』
『少女よ。お前のきらめきはこの数日で間違いなく更に磨かれた。故に、そこの最上位竜だけでは我慢できなくなってしまったのだ』
『……まあ、そういうわけだ。私が命じれば追い散らせる。お前は私も含め受け入れるかどうかを決めればよい。そうすればお前の中にある輝きが消えない限りしばらくは守り続けるつもりだ』
「しばらく……ですか?」
「竜のしばらくは長いですよ、シャニア次期代表」
「スヴェイン様」
「上位竜でさえ成竜になるのに百年以上の時が必要と聞きます。エルフのあなたの生涯を見届けるのだって、竜にとってはしばらくの範疇です。あなたが受け入れれば一生側にこの竜たちが守り続けてくれるとお考えください」
「ですが……竜宝国家コンソールとしてよろしいのですか? 最上位竜様に上位竜様までこれほど抜けてしまって」
「竜宝国家コンソールとしていえば何の問題もありません。コンソールの空の上には姿を隠して見えなくしているだけで、毎日数匹の最上位竜とそれより多くの上位竜が飛んでいます。……たまに
「それでは。聖竜様方、私とともにエヴァンソンまでおいでくださいませんか。できれば国の守りにもついていただいたのですが……それは分不相応な望みでございましょう」
『然り。お前を守るために我々は同行する』
『間接的に助けるためであればやぶさかではない。だが、人のことは人でする。それが当たり前のことだ』
『それに私たちは人の文化や風習に疎い。私たちに守らせてはほかの国を滅ぼすと同義になりますよ』
『竜宝国家が特別だ。我らが宝と認め、そこで暮らす者たちも宝であり続けようと輝きを忘れまいとしている。だからこそ、我々が有事には積極的に力を貸すこととしている。……出番がないのだが』
この子たち、いまだに出番を欲しがっているのですか。
最近では竜宝国家コンソールの商隊を襲う盗賊はいませんし、モンスターが襲いかかっても冒険者がどうにかしてしまいますから出番は本当にないのでしょう。
姿を隠したり現したりしながら旧国家全体を飛び回っているな、と感じていましたが緊急時にいち早く駆けつけるための臨戦態勢、いえ、一番乗りするための場所取りでしたか。
「聖竜様方、コンソールの輝きはこれまで拝見させて参りました。いずれ私どもの国もあの輝きを放って見せましょう。その暁には私どもの国も守ってはいただけませんか?」
『我々が宝と認めるに値するのであれば考える』
『だが、それは同時に腐り落ちたときには竜に滅ぼされることと表裏一体、そのことを忘れるな』
「はい! 必ずや、その輝きを国中に広げて見せましょう! そのきっかけとしてまずは私の守護に!」
『よかろう。我々は今日からお前の守護竜だ』
『これ以上、ほかの竜たちが寄り集まっても困るであろう』
『私たちだけでも国など軽く消し飛ぶでしょうからね』
「あ、あの。申し訳ありません。皆様のお名前をまだ考えておりません。最上位竜の方のお名前は考えてあったのですが……」
『ほう! 我に名前をいただけるか! これはなによりの誉れ!』
『まったくだな。契約は魔力が足りないであろうから難しかろう。だが名前をいただけるだけでも竜としては非常に光栄だ』
『皆様といいましたが私たちにもいずれは名前をくださるのでしょうか?』
「もちろんです。私の警護をしていただく以上、名前がないというのはお寂しいでしょう」
『ふむ。これは本当になにがあっても守らねばならぬ』
『高潔な魂を持つものから名前をいただき守護を司る。これ以上ない誉れ』
『力比べに勝ってこの場に来る権利を得ることができてまことに幸いだった』
この子たち、また竜同士しかわからない力比べを……。
あとからケンカになるより遙かにマシですが……。
『して少女よ。私にはなんという名を?」
「私の名はシャニアです。あなたにはシャインの名を授けとうございます。受け入れていただけますか?」
『気に入った! 我が名は今よりシャイン! アークホーリードラゴン『シャイン』だ!』
「お気に召していただけたようでなによりです」
『うむ。そうだ、お主にはこれも授けよう』
そういって『シャイン』がシャニア次期代表へと差し出してきたのは赤い宝玉……ああ、それも渡してしまうんですね。
「あの? これは?」
『『竜玉』だ。我が命の結晶とも言える存在。それを取り込めばお前も【竜魔法】が使えるようになる』
「【竜魔法】!?」
『うむ。【竜魔法】だ。我が力を貸すのでお前が必要となる魔力は極めて軽微、ホーリードラゴン種の【竜魔法】なので人間でいう【聖属性】の上位版だ。身を守るのに役に立つだろう』
「で、ですが。そのような貴重品をいただいてしまっても?」
『気にするな。受け取ってくれ』
「スヴェイン様?」
「竜は頑固です。それを差し出した以上、シャニア次期代表が受け取らなければ引っ込めませんよ」
「……では、ありがたく頂戴いたします。これをどのように使おうとすれば?」
『体に取り込もうと願えばよい。そうすれば勝手に体と一体化する。そのあとは魔法の使い方も自然と身につく。魔力の翼も作れるので空を飛ぶことも自由自在だぞ?』
「ええと、わかりました。あ、本当に宝玉が体の中にとけ込んで、知らなかった魔法の使い方が次から次へと頭の中に」
『それが【竜魔法】だ。まずは『ドラゴンウォール』の使い方に慣れよ。それは竜種が生来持つ竜種結界と同様の結界を身体に張り巡らせる魔法。それをはり続けていれば、人間の武器では皮膚ひとつ傷つけられぬ。また『竜玉』を取り込んだことで毒や呪いなどに対する耐性も上がった。そちらも『竜玉』が体に馴染むまではわずかずつではあるが、今の時点でも下位竜に通じる毒ではないとお前には効かぬ。安心するがいい』
「どうしよう。違う意味で安心できない」
そうなんですよね、『竜玉』って体に馴染んでしまうと寿命以外は最上位竜クラスになるんですよ。
そう考えると『竜帝玉』なんて
『さて、お前は国に帰るのだったな。我が背に乗っていくか?』
「え!?」
『お前のことは我が認めたのだ。その程度の事はさせてほしい』
「あ、いや。いきなり国に竜が飛来すると混乱するというか……」
『そうなのか、スヴェイン?』
「コンソールが先にカイザーたちを受け入れていたから上位竜や最上位竜が増えても問題なかっただけですよ。普通の国では上位竜一匹飛来しただけで大混乱を招きます。最上位竜なんて国が滅ぶ前兆……いえ、国の滅びの決まった瞬間です」
『人の世界は難しいな』
「竜の世界だって大差ないでしょう?」
『確かに。それでは我々はもうしばらくコンソールで待とう。ロック鳥で数時間ということは我らの翼なら十分かからない距離だ』
「その……よろしくお願いします」
最後にハプニングはありましたがシャニア次期代表も含めコンソールを訪れていた使節団一行はロック鳥に分乗し、エヴァンソンへと帰国の途に就きました。
その際には薬草栽培についてズレイカ様と話をしにいくというお父様と、各ギルドからの要望をとりまとめて新しい講師の派遣準備を進めるというシャルも一緒に。
あと、シャルは新しい講師陣を迎えに行くついでにオルドも拾ってくるそうです。
それまでに準備ができていなかったら指輪も投げ返すと言っていましたし……オルド、大丈夫ですよね?
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