78.無法者退治

「待っていたぞ、ガキども!」


 茂みの中から歩いてくるのは……【ハンティングエッジ】の人たちですね。


 せっかく姿を見せずにいたのですから先制すればいいものを。


「これはこれは。よくここがわかりましたね?」


「ああ、俺たちが教えたからな」


「っ!」


「お前ら!」


【ハンティングエッジ】の横からやってきたのは【スワローテイル】の少年たちです。


 ああ、なるほど。


 彼らは一度地図を見ていますし、待ち伏せも不可能ではない……と。


 ですが……。


「よく僕たちが来るまで待っていましたね? 【スワローテイル】に見せた地図では、調査範囲と日付しか書いていなかったはずですよ?」


「うるせぇ! 俺たちだって好きで待ってたわけじゃねえんだよ!」


「好きで待ってたわけじゃないなら、帰ればよかったのでは?」


「なるほど、生意気な小僧だ」


 奥から更に人が出てきました。


 なかなかの大男ですが……見覚えがありませんね。


 さて、どなたでしょう?


「ウリドの旦那、高い金を払ったんだ。お願いしますよ」


「わかってる。さて、小僧。お前たちには悪いが、ここでしてもらう。本当は女は連れ帰りたいが……仕方がないから諦めるとするがな」


ですか。なかなか過激な発言ですね。ちなみに、今までの様子もすべて記録用の魔導具に記録させていますが……今更退く気はないですよね?」


「スヴェイン様、少々発言が過激です」


「おっと、すみません、アリア。つい」


「記録用の魔導具、だと? そんなもの、この国では王家くらいしか……」


「自分で作れば素材代だけで済みますよ。さて、さっさと始めましょう。影に隠れている手下さんたちも飽きてきたでしょうし」


「俺たちだけではないことを知って、なおその余裕か。面白いが……それが命取りだ!」


 ウリドと呼ばれていた男が手をかざすと、全方位から矢が放たれ僕たちに向かってきます。


 数は……30程度ですかね。


「ウィンドガード」


 僕が結界を張る前にアリアが先に風の結界を張ってしまいました。


 出番を取られてしまいましたね。


 風の結界にあたった矢は、すべてあらぬ方向へと飛んでいきます。


 中には【ハンティングエッジ】や【スワローテイル】に向かっていくものもありますが……。


「ちっ!」


 さすがに【ハンティングエッジ】には刺さりませんか。


 ですが、【スワローテイル】には効いたみたいです。


「うわぁ! 矢が、足に!」


「落ち着け! 今抜く!」


「腕が、腕が!」


「ちくしょう! やりやがったな!」


「いやいや、まだなにもしてませんよ?」


 さすがに、あちらの攻撃を防いだだけで恨まれても、ねぇ?


 実際問題、【スワローテイル】はこれでほぼ無力化しましたが。


「さすがに弓矢程度じゃ倒せないか」


「わかっててやりましたよね? さすがに、この程度の攻撃じゃびくともしませんよ?」


「ふん、だがこの人数に対処できるのかな?」


「簡単ですね。せいぜい30人から40人程度でしょう? 早くかかってきてください」


「40人だと!?」


「さすがにその人数は無理よ!?」


「護衛の方が冷静だぞ。……構わないか、やれ」


 大男の合図で一気に気配が集まってきます。


 ……もう少し、気配の消し方とか練習しましょうよ?


「スヴェイン様、私が片付けますか?」


「アリアが手を出すと死人が出るでしょう? 僕が相手をします。幽玄のカンテラよ、輝き照らせ。セイクリッドブレイズストーム!」


 僕の腰から下げていたカンテラが輝き出すと、そこから青い炎が巻き起こり周囲一帯を包み込みます。


 周囲からは悲鳴が聞こえてきますが……無視です。


 そして炎が消え去ったあとには先ほどの大男も含め、僕たちの敵で立っている者はひとりもいませんでした。


「うん、制圧完了です」


「……あー、スヴェイン。お前って本当に強かったのな」


「この程度の連中など数に入りませんよ。すべて浄化の炎でまとめて焼き払って終わりです」


「っていうか、【ハンティングエッジ】はこれで二度目だと思うけど、なんで浄化能力しかないはずの聖属性魔法で人間が倒せるの?」


「聖属性の魔力を圧縮して攻撃すると相手の魔力を削れるんです。なので、気絶している人たちは皆、魔力枯渇で気絶しています」


「えげつないな……」


「魔力枯渇ということは気付け薬を使っても起き上がれないのだな」


「勉強になるが真似できないな」


「その方がいいと思います。弱いアンデッドを一瞬で浄化できるくらいまで圧縮しないと効果が出ません。正確には、効果はありますが目に見えるほどの違いがなかなか出ないので」


「本当にためになるわ。……それで、こいつらはどうしましょう?」


「森に捨てていっても邪魔になりますし、持ち帰って官憲に突き出しましょう。作業用ゴーレムでなら数人ずつ運べますから、ゴーレムをたくさん出しますね」


「……ゴーレムってそんな簡単にほいほい作れるものだったか?」


「錬金術師じゃない私に聞かないで」


 どうにも【アイシクルブロウ】の皆さんから視線を感じます。


 考えても仕方がありませんので、サクサクとゴーレムを組み上げていきますが。


 こうして小型の荷台付きゴーレムを複数体作り終えると、全員で手分けをし襲ってきた者たち全員を縄で縛ってから荷台に積み上げていきます。


 ゴーレム自身にも手伝わせているので楽ですよ?


「……意外と時間がかかりましたね」


「数が多かったので仕方がありません」


「アリアの言うとおりだな。よくもまあ、これだけの手勢を集めたものだ」


「とりあえず、これ以上の調査続行は無理ですね。諦めて帰りましょう」


 僕たちはゴーレム隊を引き連れて街まで帰還することにしました。


 街に着いたときに衛兵の皆さんを驚かせてしまいましたが……配慮が足りず申し訳ないです。


 ただ、少し問題もありまして……。


「おい、こいつ『烈爪のウリド』じゃないのか?」


「確かに似ているな。坊主たち、こいつらの荷物は?」


「持っていた武器くらいしか回収していませんが……」


「それで構わない。見せてくれ」


「では出しますね」


「ああ。ってマジックバッグじゃなくてストレージ魔法か!」


「はい。奪い取った武器は全部出しました」


「ちょっと調べさせてもらう。……あったぞ! ウリドの魔法武器、斬烈爪だ!」


「まさか、本物のウリドだったとは……」


「坊主たち、襲われたときの話、もう一度詳しく聞かせてくれ」


 このウリドとか言う男、手配のかかっていた賞金首だったようです。


 襲われたときの様子を証言した結果、冒険者ギルドの問題にもなりかねないとなり、急遽ギルドマスターのマルグリットさんも呼ばれました。


 彼女は僕たちから事情を聞くと、気付け薬と効果の薄いマジックポーションを使い【ハンティングエッジ】の連中を覚醒させて拷問に近い手段で情報を絞り出します。


 その結果、ウリドたちのアジトの場所もわかり、急襲をかけることに。


 冒険者ギルド内でも信用できるもの数人に話をつけ、その日の夜に襲撃を決行。


 アジトに残っていた手下もすべて捕らえるか無力化するかしたそうです。


 ちなみに、僕たちの依頼は4日目が中断された時点でストップとなってしまいました。


 僕とアリアは5日目も行く気だったのですが、ギルド側から状況的に危ういので5日目は行わなくていいと言われたのです。


【アイシクルブロウ】の皆さんとリノさんには、5日目の分も報酬が出たようなので問題ないわけですが……ちょっと不完全燃焼気味ですかね?

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