620.見習い錬金術師 トモ 2
「大丈夫なのです? 顔色が悪いって言うことは魔力枯渇ですよね? 仮眠室に案内してあげるのです」
憧れのニーベお姉ちゃんがこんな近くにいるなんて……。
嬉しすぎる!
「ここが仮眠室なのです。こっちが女性用なのでゆっくり休むのですよ」
「ありがとうございます。ニーベお姉ちゃん!」
「ん? ニーベお姉ちゃん?」
「あ……」
しまった……つい、本人の前でいつもの呼び方を……。
「私のことをそう呼ぶって言うことは先生の講習会に参加してくれていた子供たちのひとりなのですか?」
「は、はい……その、私はニーベお姉ちゃんのミドルポーションを作る姿に憧れて錬金術師ギルド入りを志願したので……」
「私のミドルポーション作り……ああ、エヴァンソンの人たちが来ていた日に来てくれていた子ですね!」
「はい。どうしてわかったんですか?」
「あなたは特に食いつきがよかったのです。だから気になっていたのですよ。無事に入門できたのですね。ひとまずおめでとうです」
「ありがとうございます。ニーベお姉ちゃん」
「……とりあえず、この続きはあなたがベッドに横になってからなのです。あなたの顔色の悪さが気にかかります」
「ごめんなさい。心配かけちゃって」
「気にしないのです。ベッドはこっちなのですよ」
ニーベお姉ちゃんにベッドまで案内されて私はそこに寝転がった。
二段ベッドだけれど硬くなくて柔らかい感触が心地いい。
「さて、お話の続きなのです。錬金術師ギルド本部はどうですか?」
「やっぱり厳しいです。昨日、自己紹介をする前から何人も同期が支部に行ってしまって……」
「ああ、そいつらなら気にしなくてもいいのです。最初から本部にはふさわしくない人だっただけなのですから」
「本部にふさわしくない?」
「支部の方がシュミットから来ている講師の皆さんとか補講とかもあって便利ではあるのです。でもその分、やる気が少ない人がほとんどなのです。多分、自己紹介をする前から支部に行った人は一年か二年で破門になるのですよ」
「……そんなに厳しいんだ」
「『新生コンソール錬金術師ギルド』は高給取りらしいのです。でも、それは皆が研究してその結果を出してきた成果なのですよ。旨みだけを持ち去ろうとしているような人は早々に切り捨てられていくのです」
「ニーベお姉ちゃんは高給取りじゃないの?」
「私は錬金術師ギルドからお金をもらってないのです。冒険者ギルドへ個人的にポーションを卸しているのでその販売額が私のお給金なのですよ。……そっちも高額なのですが」
「やっぱり、ミドルポーションとかって高い?」
「ギルドの詳しい事情を私は聞いていないのですが高いらしいのです。あと、特級品。これも相当高いのです。最高品質でもいまは高値ですが、これから徐々に値下がりするはずなのですよ。だから、『コンソールブランド』を名乗りたいなら特級品を作れるようになってからが勝負なのです」
「……私でもいけるかな?」
「ミドルポーション、作りたいんですよね?」
「うん、作りたい!」
「ならいけるのです! 前にも言ったことなのですが、今の先輩たちも自力でミドルポーションまでたどり着いたのですよ! いまはミドルマジックポーションの研究中なのです! その熱意と覚悟と誇り、絶対に忘れないでください!」
「うん!」
「そうそう、今日から一週間は【魔力操作】スキルの指導だけのはずです。いまのスキルレベルはいくつですか?」
「えーっと14だと思う」
「魔力枯渇を起こすまで頑張ったのです。『星霊の石板』で確認するといいのですよ」
「『星霊の石板』で? うん……あれ? レベル16になってる!?」
「【魔力操作】は一定以上のレベルになってくるとスキルレベルが簡単に上がるのです。スキルレベル16以上ですと手の中で渦を作る訓練ですね。ちょっとだけ見本を見せることにしましょう」
「いいの?」
「サービスなのです。渦を作る時は右手の手の平から魔力を送り出し、左手の手のひらで魔力を丸めて送り返すのですよ。このとき、左手の角度が急すぎれば綺麗な円にならないですし、緩すぎればそもそも円にならないのです。魔力操作と同時に手先の扱い方も勉強するやり方なのですね」
「そっか……わかった!」
「いい子なのです。とりあえず仮眠を取って休んだら試してみるのですよ」
「うん、ありがとう。ニーベお姉ちゃん!」
「はい。頑張って正式な本部付き錬金術師を目指すのです!」
「わかった!」
私は早速仮眠を取って目が覚めたら大急ぎでアトリエに戻ってニーベお姉ちゃんから習ったとおり魔力の渦を作る練習を始めた。
最初はなかなかうまくできなかったけれど……これはこれで楽しい!
そうしたらまた気持ち悪くなってきて……ジャニーン先輩からまた仮眠室に行くよう言われて仮眠を取って……戻ったらまた魔力操作の練習を始めてしばらくすると気持ち悪くなって……を繰り返すこと五回。
終業時間間際と言うことで仮眠室に行く前になぜそんなはりきっているかをジャニーン先輩に聞かれた。
「……ニーベお姉ちゃんとたまたま会って学習方法を指導してもらえた」
「はい……まずかったでしょうか?」
「偶然よね?」
「偶然……だと思ってます」
「そうよね、偶然よね。さすがに昨日の今日でギルドマスターがけしかけるはずないもの」
「ジャニーン先輩?」
「トモ、悪いけれどこれから仮眠を取らせると終業時間を過ぎちゃうから少し気持ち悪いのは我慢して。帰り道を歩かせるのは不安だから元凶を捕まえてくるわ」
「元凶?」
「ええ、元凶。元凶がいなかったら元凶の師匠ね。今日はギルドにいるはずだし」
「はあ……」
ジャニーン先輩の言うとおり終業時間まで待っていると、私はそのまま帰らずにアトリエに残っているように指示されていったん出ていったジャニーン先輩が連れて戻ってきたのは……ニーベお姉ちゃんだった。
なんで!?
「トモちゃん、ですよね。申し訳なかったのです。まさか、そこまではりきるだなんて想像していなかったので……」
「ジャニーン先輩、なんでニーベお姉ちゃんが?」
「あなたを疲弊させた元凶だからよ。まったく、ギルドマスターの系譜は火をつけさせると自重を覚えさせなくなる。ヴィルジニーのこと、忘れてないですよね?」
「……はいです」
「一年前ですよね」
「……はいです」
「今年も同じことを繰り返すおつもりですか?」
「トレーニング方法については教えてません!」
「トレーニング方法?」
「トモは知らない方がいいことよ。あなたにこれ以上無理をされると、あなたの担当に入る講師が大変になるから」
「……すみません」
「あなたは悪くないわ。すべてはそこの元凶が悪いんだから」
「……申し訳ないのです」
「とりあえず、今日はトモのことを家まで送り届けてください。明日以降も同じようなことがあったらトモを送り届けること。いいですね、ニーベ様」
「……責任はとるのです」
「あ、あの。自制できるようにしますから、ニーベお姉ちゃんをあまり責めないでください」
「いいえ、ニーベ様は去年も新人に余計な事を吹き込んだ前科があります。それだというのに、また今年まで余計な手出しをして私たちの指導計画を狂わせて……」
「……本当に申し訳ないのです」
「とりあえず反省してください。そして、トモには許可が出るまでこれ以上余計な手出しをしないこと。それから先ほども言いましたが、トモが帰る時間に魔力枯渇の症状があったら必ず家まで送り届けること。いいですね?」
「……わかったのです。トモちゃん、申し訳ありませんがこれ以上の指導はしばらくできないのです。頑張ってほしいのですよ」
「しばらく……ですか?」
「はい。一定以上の階級になれば私たちも指導の許可が下りるのです。そこまでは……」
「じゃあ、そこまで一気に駆け抜けてみせます!」
「あ……」
「……余計な口出しも禁止です」
「……ごめんなさいです」
やりました!
頑張ればニーベお姉ちゃんから指導が受けられるなんて!
よーし、先輩の指示に従ってできる限り早く階級を上げてみせるんだから!
……あと、ときどき帰り際に魔力枯渇を起こしてニーベお姉ちゃんに甘えるのも許してもらえるかな?
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