619.見習い錬金術師 トモ 1

 初日にたくさんの人が支部に行っちゃったけど私はまだ本部に残れました。


 二日目からはいよいよ錬金術師になるための訓練開始です!


 見習い用のローブも手渡されましたし、ここからがスタートなんだって感じるとがんばれます!


「さて、今日からは本格的な講義を開始するわ。と、言っても一週間は【魔力操作】しか教えないんだけど」


 う、【魔力操作】……。


 ニーベお姉ちゃんを目指すんだって決めてから教本を買ってひたすら練習してるのに、まだレベル14しかない……。


「あの、今更【魔力操作】ですか?」


「そうよ。【魔力操作】からスタート。これが私たちが考えた指導方針、文句があるかしら?」


「俺は【魔力操作】を極めています! 早くその次の段階に進みたいんです!」


「そうなの? でも、ここにいる限り私たちの指導に従うこと。嫌なら支部に行きなさい」


「……!! そうさせていただきます!!」


 ああ、またひとり……じゃない、何人か減っちゃった。


 そうか、錬金術師ギルドに来た時点で【魔力操作】を極めている人ってこんなにいたんだ……。


 やっぱり、錬金術師ギルドって厳しいな。


「馬鹿な子たち。支部でなにを教えられるかも聞かずに飛び出していくなんてね」


「え?」


「支部も今年からしばらくは【魔力操作】のみよ。これは錬金術師ギルドマスターの決定だから覆らないの。ましてやだなんて勘違いもおこがましい」


「ジャニーン先輩?」


「ああ、こっちのことよ。それより、怒らないから正直に手を上げて。【魔力操作】を覚えていない子は?」


 その質問にも何人か手が上がっちゃってる。


 大丈夫なのかな?


「その子たちは悪いけど少し待っててね。私が個別指導で最初は教えてあげるから。今日中に届くのはレベル2か3だけれど腐らずに頑張って」


「え? そんな簡単に?」


「できるわよ? ギルドマスターの手にかかれば一日でこの人数をレベル10とか余裕なんだけれど……さすがにそんなことできないからね」


 うわぁ!


 ギルドマスターってそんなにすごい人なんだ!


 演壇で見ただけだけど、いつかその実力を見てみたいな!


「それで、スキルを覚えているけれど10未満の人はどのくらい?」


 この質問にも十人くらいが手を上げてる。


 私は14だけどどうしたらいいんだろう?


「スキルレベル10未満は悪いんだけれど教本をあげるからその通りにやって魔力を感じながら動かせるように試してみて。次、10から15は?」


 この質問は私も手を上げなくちゃいけない。


 ここではどんな指導を言い渡されるんだろう……。


「その人たちは……私の手元が見える位置まで来てもらえるかしら。実演をしてあげるわ」


 実演。


 ジャニーン先輩のところに集まると早速ジャニーン先輩は右手で魔力の塊を作り出し、左手に転がすとそれをまた右手に返して……という作業を始めました。


 これ、【魔力操作】の教本にも書いてあったんだけど全然できなかったやつだ……。


「これも教本にあった技術ね。教本には基本的なやり方しか書いていないけれど、私の方法は左手にも微弱な魔力を込めて魔力の塊を保護しながら右手で魔力の糸があるようにイメージしてそれを伸ばしたり引っ張ったりしながら塊を転がしている感じね」


「え、それって教本に載っていないですよね?」


「そうよ。私のやり方だもの。ギルドマスターに聞けば別のやり方を示されたし、ほかの仲間はそれぞれ別のやり方を持っているわ。自分に合いそうなやり方を考えるのも創意工夫のひとつなの。それがって言うことの第一歩よ」


「あ……」


「教本通りにしかやっていない連中がそれに気付いているかなんて知ったこっちゃないけれど、スキルレベルを最大まで上げただけでだなんて思い違いをしていたら、この先死ぬほど苦労するでしょうね」


 そうか、教本通りにやるだけじゃなくて自分なりにやり方を考えなくちゃいけないんだ。


 難しいなぁ。


 これがなんだ。


「さて、あなた方はわかったでしょうから自習ね。次、16以上の人たち全員。実演してあげるから集まって」


 私はジャニーン先輩に一言お礼を言ってから自分の席に戻り、教えていただいた方法を使って試してみた。


 でもやっぱりなかなかうまくいかない。


 特に右手で糸が出るようなイメージができないなぁ。


 私、左利きだから、刺繍をするときとかも左手で針を持って……あ、そうだ!


 にこだわらなくてもいいんだよね!


 よし、魔力の塊を左手に作ってそれを右手に転がしながら今度は左手に戻して……うん、うまくいく!


 そっか、全部教本通りにする必要なんてなかったんだ!


「トモは……大丈夫そうね」


「はい、ジャニーン先輩! あ!?」


「ああ、ごめんなさい。邪魔をしちゃったわね」


「いいえ、気を逸らしたせいです」


「そう? 最初は慣れないと魔力がすぐに霧散しちゃうけれど、慣れてきたら維持しながら会話とかもできるからそこを目指してもいいわよ」


「はい!」


「それじゃあ、がんばって。邪魔をしてごめんね」


「はい、頑張ります!」


 そのあとも、必死で魔力の塊をコロコロ転がし続けていた。


 ただ、すると少しずつ気分が悪くなってきて……なんだろう、家ではこんなこと……。


「トモ!? 魔力操作の訓練をやめなさい!」


「は、はい」


「体調は大丈夫? 吐き気とかはない?」


「吐き気はないです。ただ、少し気持ち悪くて……」


よ。まさか、魔力操作の講義。それも初日から出るだなんて……」


……」


 聞いたことがある……。


 体内の魔力がなくなると気分が悪くなってきて、最悪倒れちゃうって……。


「この程度だったら大丈夫ね。仮眠室が用意してあるから少し仮眠を取ってきなさい」


「え、でも、講義は……」


「このまま講義を受けても効率が悪いの。魔力枯渇を回復したいなら仮眠を取って休むのが一番。と言うわけで仮眠室に向かいなさい。仮眠室はアトリエを出た廊下を左に曲がって突き当たりよ。男女別に分かれているから心配せずに使いなさい」


「はい……初日からすみません」


「気にしないで。さすがに驚いたけれど」


「は、はい。では……仮眠室に行ってきます」


「ええ。体調が回復したら戻ってきなさい。無理はしないようにね」


 ジャニーン先輩に送り出されてアトリエを出て仮眠室へ……向かおうとしたけれど廊下のどっちだっけ?


 すごく頭がぼんやりしているような……。


「あれ? そのローブ、見習いさんのローブなのです。どうしたのですか?」


「え?」


 ニーベお姉ちゃん!?

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