618.夜の幹部会議

 新規入門者が入った各アトリエの状況を聞くため、就業時間後の幹部会議です。


 朝のメンバーに加え、各アトリエに講師として入っていただいた第二期第二位錬金術師の皆さんにも集まっていただきました。


「ふむ、やはり初日すら満足に乗りこなせない錬金術師のがそれだけいましたか」


「そうですね。あんな半端な覚悟では本部にふさわしくありません。さっさと支部送りにさせていただきました。問題はありますか?」


「そこも含めて皆さんの裁量です。何ら問題はありません。ありませんが……ローブを受け取る前に四十人以上減りましたか」


「そのようですね。私のアトリエではギルドマスター命令で除名したい連中がいましたが」


「ジャニーン、どういうこった?」


「はい、ウエルナさん。ある卵がと言ったところ笑った連中です」


「……ほう」


「そいつらのリストは?」


「控えてあります。あとで渡しますね」


「おう、頼む。そんな根性なし、いや、に錬金術師ギルドはふさわしくないって思い知らせなきゃな」


「控えめにお願いしますね、ウエルナさん?」


「ええ、もちろん。控えめにやって自分から出ていくように仕向けますよ、スヴェイン様」


「それなら結構」


「やっぱり、シュミット怖い……」


「ほかに報告は?」


「そうですね。俺の教室でも自分から上位ポーションを作りたいって言い出した卵がいました。全員が全員根性なしではないみたいですね」


「そうでないといつまで経っても二階も三階も埋まってくれませんよ」


 はあ、本当にこのはいつになったら解消できるのか。


「それで、ほかに報告……特に問題がありそうだった入門者は?」


「そうですね……お金や名誉目的で入門している連中が数名混じり込んでいました」


「なんだと!?」


「焦らないでください、ウエルナさん。さすがに僕だってシュミット講師陣の皆さんがそういう人たちすべてをはじけるだなんて考えていませんですから」


「……全員が全員【神眼】持ちじゃないですからね。嘘を見抜こうにもうまく欺いた連中がいたか」


「もちろん、そういった連中もリストアップしてあります。必要ですよね?」


「当然だ。そして、支部送りだろう?」


「狙い撃ちはしません。しなくても勝手にこぼれ落ちるでしょうから」


「だろうな。ほかの連中のアトリエでも同じように答えたやつらはいたのか?」


 ウエルナさんの確認に対し少数ではあるがそう言う人間は必ずいたと答える第二期第二位錬金術師たち。


 彼は更に頭を抱えましたね。


「……くだらない理由で錬金術師ギルドを目指す連中も増えているもんだな」


「いままでもいたかも知れませんよ? 勝手にこぼれ落ちていただけで」


「そうかもしれません。しかし、金に名誉か。本気でくだらねえ」


「まあ、そういう連中もいますよ。今回はと侮り本音を語ったのでしょう。本部付きの精鋭だってことも忘れてね」


「でしょうね。ギルドマスターも人が悪いですよ? 私たち、第二期の中でも年少組なんですから」


「そうそう。侮ってくれ、って言ってるじゃないですか」


「その分、侮って踊ってくれたでしょう? こちらの意図通り」


「確かに。支部の方が待遇がいいことをちらつかせただけでそっちを希望する連中が多くいて助かりました」


「俺もです。する前からいなくなってくれるならこんなありがたいことはないです」


「私も。無駄な手間と時間が省けてよかったです」


「自分も同じく。あんなのの面倒まで見ていられません」


「お前らも言うよな。それで、今年はスヴェイン様もニーベさんもエリナさんもなしなんだろう? いけるのか?」


「いけるかどうかじゃなく


「ギルドマスターが去るときが見えてきました。つまり『カーバンクル』様方も」


「それなのにギルドマスターたちに頼るようではやっていけません」


「これからはいざというときのために控えていていただきます。ギルドマスターや『カーバンクル』様方は手出ししたがるのでしょうが」


「スヴェイン様?」


「……手出し、したいですね」


「……ギルドマスターなんですから控えましょうや」


 本当に皆さん立派に成長してくれました。


 結果として僕の仕事がハービーへの技術指導とギルドマスター決裁だけになりつつあるのが……。


 ギルドマスターの威厳を示したい……。


「まあ、なにかと手出ししたがりそうなギルドマスターはなんとか抑えてくれ。ほかに報告事項は?」


「報告事項……この場で言うほどのことではないかも知れませんがひとつ」


「なんでしょう、ジャニーンさん」


「先ほどミドルポーションを自力作成したいって言っていた卵、ニーベ様に憧れて入ってきたらしいんですよ」


「ほう。その子の名前は?」


「『トモ』って言います。去年の秋と言っていたのでおそらくギルドマスターの講習会参加者だと思いますが」


「ああ、そいつなら俺が採用判断したやつだ。腕前はまだまだだったがとにかく熱意がすごかった。いつかは自分の手でニーベさんに並びたいって言ってたからな」


「ニーベちゃんに、ですか。僕の講習会ではあえてミドルポーションまでしか作らせていませんでしたが……それ以上を目指せますかね?」


「そればっかりは判断がつきません。なにか偶然を装ってニーベ様と引き合わせて見ますか?」


「……彼女の心が折れるか更に燃え上がるかの試しになってしまいますね。ですが、その判断もあなた方に任せます。どのタイミングでいつ引き合わせるのか。それを決めておいてください。本当に偶然会ってしまった場合は責任を持てませんが……」


「わかりました。ただ、『魔力枯渇による最大魔力向上トレーニング』を教えないようにだけはしっかり注意しておいてください。第二のヴィルジニーはごめんです」


「ヴィルジニー、酷かったからな……」


「心臓に悪すぎるのでちょっと……」


「さすがにそこは教えないようにさせてください」


「……しっかり言い聞かせます」


 まず今日帰ったらニーベちゃんとエリナちゃんには今年の新人にあれを絶対教えないように注意しないとダメですね。


 さすがのふたりもヴィルジニーさんの一件で懲りている……と信じたいのですが、不安です。

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