20.特級品ポーション

「スヴェインよ。持ってきたポーションだが偶然できたものなのか?」


 疲れがある程度取れたあと、父の待っている執務室へと向かいました。


 もう1本特級品のマジックポーションを作成してからです。


「いえ。素材さえあれば何本でも作れます。証拠としてもう1本同じものを作って来ました」


「デビス、念のため鑑定を」


「はい。……間違いありません。先ほどと同じです」


「ふむ……他に人もいないことだ。製法を聞こう」


「はい。作るにはまず錬金触媒を合成するところから始めます。マジックポーション用には水と風の錬金触媒を合成した水風の錬金触媒が必要です」


「デビス、錬金触媒の合成など聞いたことがあるか?」


「寡聞にして存じ上げません」


「私も初めて聞いた。続けよ」


「そのあとの製法は通常のマジックポーションを作成するときと変わりません。触媒を水風の錬金触媒に変更するだけです」


「錬金触媒を変更する理由は?」


「おそらくマジックポーションが水と風の属性を持つアイテムだからと考えています。触媒が錬金素材に与える影響はかなり大きいですので」


「……ポーションに属性などあったのか?」


「私も初めて聞きました。スヴェイン坊ちゃま。それをどこでお知りに?」


「鑑定したら追加情報としてわかりましたよ?」


「追加情報、だと?」


「追加情報ですか……だとすると坊ちゃまの鑑定スキルはすでに30を超えているはず」


「そんなにすごいことなのですか?」


「普通の職業では鑑定スキルのスキルレベルは50ですが30を超えると非常に上がりにくくなります。失礼ながら初級職のくくりに入る『ノービス』が30を超えられるとは……」


「ふむ、そこまでか」


「はい。私ですら鑑定スキルはレベル30止まりです。鑑定レベル30を超えるのは熱心に研究成果を鑑定する研究職や職人くらいのはずです」


「ふうむ、だが鑑定ができているであろう証拠もまたここにある。どうしたものか」


「そこまで困るものなのですか、特級品のポーション類というのは」


「基本的にはすべて王家で買い取ってもらわねばならぬ。なにせ軍事物資になるからな」


「それは……」


「まあ、知らなかったのでは仕方があるまい。我々も教えてこなかった」


「左様ですな。まさか錬金術師にもなっていないスヴェイン坊ちゃまが、特級品のポーション類を作ってくるとは夢にも思っていませんでしたからな」


「その通りだ。……ちなみに、量産できるのであったな。王家への献上品として300本ずつほしいのだが作れるか?」


「うーん、難しいです」


「難しいのは魔力的にか、素材的にか?」


「素材的にです。マジックポーションもポーションも水の錬金触媒を使用します。それに加えて合成触媒を作ろうとなると触媒のもとになる魔石の数が怪しいです……」


「わかった。デビス、すぐに冒険者ギルドに使いを出し、各属性の魔石を購入させよ。購入する魔石の品質は……」


「小サイズの魔石で構いません。手持ちの錬金触媒からも作ることができましたので、魔石のランクは関係ないと考えられます」


「とのことだ。素材鑑定ができる使用人を引き連れて買ってくるように。値段は多少高くついても構わん」


「かしこまりました。それでは失礼いたします」


「お父様、そんなに指示を出してよかったのですか?」


「先ほど言った300本は王家への献上品とする。そのほかにも王都へと持っていくことにして、不測の事態に備えさせてもらおう」


「わかりました。そういえば、薬草畑についての研究レポートは?」


「おお、それも完成していたぞ。お前の目から見ておかしな点がないか再確認してほしかったのだ。デビスたちが戻ってくるまでの間はこれを読んでいてくれ」


 お父様に渡されたレポートはかなりの厚さになっています。


 記されている内容も非常に濃く、僕とユニコーン様の出会いから始まり、土魔法で畑を耕し、種を蒔いて発芽させるといった内容をさまざまなパターンで検証した結果が書かれています。


 やはり初期の成長段階で一番効率よく薬草を育てられるのは、土を聖魔法と土魔法で耕した場合のようです。


 その際の比率なども細かくチェックされており、いつの間にこんな細かいデータを取っていたのか気になります。


 そのほかにも別の属性を土に混ぜた場合や、魔力水の濃度やまく量を変えたりした場合のデータをきっちり収集していたようです。


「どうだ、お前の目から見ておかしなところはないか?」


「特にはございません。というよりも、これだけの実験内容をいつの間にやっていたのかと思ったほどです」


「まあ、それはな。それで、ミドルポーション以上の薬草を作るのには『霊力水』が必要なのだな?」


「ええと、そこは憶測です。少なくとも上薬草や上魔草を『魔力水』で育てられなかったので、それくらいは必要かと」


「となると、陛下に献上できる研究成果は薬草栽培の知識と、今回の特級ポーションの作成方法のみか」


「申し訳ありません。僕が『霊力水』を安定作成できればよいのですが」


「あれは中級の錬金術師でも不安定だと聞く、気にするでない。ふむ、可能であれば今回の王都への旅、スヴェインも同行してもらいたいのだが……」


「そうなると、街に卸す分のポーションがなくなってしまいます」


「そうなのだ。そこが大変厳しい」


「ウィングたちに、本気を出せば王都までどれくらいでつけるか聞いてみましょうか?」


「そうだな。頼めるか」


 僕はあまり行儀のよいことではないですが、窓際によってウィングに来てもらいます。


 この街から王都までどれくらいの時間でいけるかと聞くと、驚きの回答が返ってきました。


『王都って、人間がバカみたいに大勢いる街でしょ? ここからあそこまでだったら5時間くらいかなぁ?』


「ウィング様……本当にその程度でつけるのですか?」


『うん、大丈夫。スヴェインの魔力が上がってきたからね。僕たちも成長しているんだよ』


「お父様。それくらいで合流できるのであれば、そんなに気にすることもないのでは?」


「そうだな。事前に多めな量を作っておいてもらい、それを卸してもらえば問題ないか」


『王都に行くのかい? あそこはいろいろな匂いが混じっていて嫌いなんだけど……』


「すみません、ウィング。なんなら行きと帰りの送迎だけでも構いませんので」


『それじゃあスヴェインが危ないでしょう? 僕も同行するよ』


「ありがとう、ウィング」


『気にしない気にしない。それじゃ、僕はこれで』


 ウィングは空へと気ままに飛んでいきました。


 僕も飛行魔法とかがあれば便利なのですが。


「話はまとまったようだな」


「はい。それで、僕は王都でなにをすればいいのでしょう?」


「なに、私と一緒に謁見に臨んでくれればよい。最初の説明は私が行う。お前は実際にやってきた内容を説明をしてもらえればよいのだ」


 王様との謁見なんて軽々しくできないのでは?


 そう思っていましたが、デビスたちがこのタイミングで魔石を購入して戻ってきたのでこの件は保留になります。


 うう……胃が痛い

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