21.再びの王都へ

 お父様たちが王都へ旅立って以降、僕は冒険者の皆さんからさまざまな技術を教えていただきました。


 特にチクサさんから教えていただいた、【短縮詠唱】は役に立ちます。


 これまでは例えレベルの低い魔法であっても、それなりに詠唱時間……無防備な時間が存在していました。


 それが【短縮詠唱】を覚えることで、ほぼなくなったのですからありがたいです。


 アリアの方は【短縮詠唱】のほかに【マナチャージ】というスキルを教わっていますね。


 これは【短縮詠唱】とは真逆でチャージ時間を長くすることにより、魔法の威力を高めるものらしいです。


 接近戦もできる僕と、遠距離からのサポートがメインのアリアでしっかりスキルを分けて教えてくれているのですね。


 本当にありがたいですよ。


「スヴェイン様。そろそろ、王都に向かう日じゃないのかい?」


「え、もうそんな日ですか?」


「そうですわね。順調であれば王都に着く頃ですわ」


「そうですか……ちょっとデビスに確認を取ってきます」


 お父様はデビスに通信用の魔導具を渡してあったはずです。


 単純に何色かの光を送るだけの魔導具ですが、それでも遠く離れた王都との間でやりとりができるのですから優れものです。


「デビス、お父様からの連絡はきていますか?」


「おお、坊ちゃま。ちょうどいいところに。至急合流してほしいそうです。合流ポイントは……このあたりになると」


「王都まで2時間くらいの位置ですね。しかし、至急というのは?」


「光のパターンからするとモンスターの群れに襲われ、けが人が多数出た模様なのです。備えとして持っていっていた最高品質ポーションだけでは足りず、特級品ポーションにも手をつけたとか」


「つまり特級品の補充もしたいわけですね。わかりました。ですがその場合、僕がマジックバッグを持っていることがばれることになりますが」


「背に腹はかえられないとのことです。よろしくお願いいたします」


「はい。ではすぐにでも出発いたします」


「お気をつけて、坊ちゃま」


 訓練をしていた場所に戻り、急ぎの用事ができたのでこれから王都に向かうことを冒険者の皆さんに告げると、アリアも一緒にいきたいと言い始めました。


 これは折れてくれそうにないやつですね。


「アリア。遊びにいくわけじゃありませんよ。僕は王城に行って謁見の予定もあるそうです。それに王都に行けばシェヴァリエ子爵家の連中と顔をあわせる可能性だってあるのですから」


「はい、わかっております。でも、ここで逃げるわけにはいかないのです」


「連れてってやんなよ。アリアちゃんだって覚悟を決めてるんだからさ」


「そうですわ。それに、なにかあったら守ってあげるのが男の子の役目です」


「……頑張れ、スヴェイン様」


 味方はなしですか、仕方がありません。


「王都まではウィングとユニに乗って最高速度で飛んでいきます。途中休憩は一回くらい取りますが、それだけだと覚悟しておいてください」


「はい!」


「では、いきましょうか。ウィング、ユニ!」


『呼ばなくても理解しているよ』


『急ぎなんでしょう? しっかり捕まっててね、アリア』


「助かります。では!」


 僕たちを乗せたウィングとユニは弧を描くように辺境伯邸から舞い上がり、十分な高度を取りました。


 そこから先は風の結界を前面に張って一気に駆け抜けていくスタイルです。


 森も川も湖も、山すら無視して一気に飛び越していきますよ。


 途中で一度だけ休憩を挟んだら、再度高速移動で王都を目指し、日が傾き始める頃にはシュミット辺境伯家の旗を掲げる一団と合流できました。


「来てくれたか、スヴェイン! アリアもか!」


「はい。負傷者の回復は終わっているのでしょうか?」


「……いや、歩けるように回復はしているのだが完全に回復していないものもいる。ジュエルの魔力も重傷者の回復でギリギリだからな」


「すまない兄上、俺がもっと活躍できていれば……」


「ディーン、自分を責めるな。100匹以上に及ぶフォレストウルフの群れなど誰が予測できようか。スヴェイン、高品質以上のポーションはどれだけ持ってきている?」


「山のように……としか。申し訳ありませんが数えておらず」


「いや、全員に行き渡るのであれば十分だ。隊列を止めるように指示を出せ!」


 いったん止まったあとは兵の負傷度合いを見てポーションを配ります。


 比較的軽傷な兵士や騎士には高品質ポーションを、中傷程度には最高品質品ポーションを、重症の方には特級品ポーションを配ります。


 また、アリアにも手伝ってもらい、馬の怪我の具合も診て怪我をしている馬にはポーション入りの水を飲ませることにしました。


 それから魔術師団、彼らの魔力もほとんど尽きかけているので最高品質のマジックポーションをひとり2本ずつ配って飲んでもらいます。


 魔術師団の中にはポーションの品質まで鑑定した方が何名もいたようで、自分たちには恐れ多いと辞退しようとしましたが、最終的にはお父様に頼んで領主命令として飲んでもらいました。


 ……ただ、この一件で兵士や騎士の皆さんに配ったポーションも普通のポーションではなく高品質や最高品質であることがばれてしまいましたが。


「ここまでことが大きくなった以上、隠し立てするつもりはない。我が息子スヴェインはすでに最高品質品のポーションやマジックポーションを量産できるほどの錬金術を身につけている」


 お父様のこの発言で集まっていた領軍の皆さんはどよめきの声を上げます。


 そのどよめきを片手をあげて鎮め、お父様は演説を続けます。


「古来『ノービス』という職業は『なんの適性もない』職業ではなく、『すべての適性をわずかずつ持つ可能性の塊』である職業として語り継がれてきた。息子が錬金術の研究を4歳の頃から始めていたとはいえ、6歳の時点で最高品質のポーションを作れるのがその証拠である。いまは魔法をメインに学習させているが、その才能は幅が広い。場合によっては諸君の訓練場にも顔を出すだろうがそのときはよろしく頼む!」


 そのあとはお祭り騒ぎでした。


 あのままでは兵士や騎士を廃業しなければいけなかった重症の方々からは何度もお礼を言われますし、それ以外の皆様も『仲間を救ってくれてありがとう』と声をかけていってくれます。


 魔術師の方々も『普段からポーションのお世話になっていました』といわれましたし、こそばゆいです。


 あとは……ポーション入りの水を飲んで元気になった馬たちが、こちらに寄ってこようとするのをウィングとユニがブロックしてくれていますね。


 よくできました。


「やっぱり兄貴はすげぇ! ポーションだけであの気難しい領軍の心をつかんじまったんだから!」


 辺境伯家が乗る馬車のところに戻ると、ディーンが嬉しそうに抱きついてきます。


 しかしよかったのでしょうか?


 将来、ディーンは辺境伯領軍のトップを目指すはずなのですが……。


「ああ、それとこれとは別問題だ。兄貴がいるかぎり生き残ればなんとかしてくれる、って安心感は軍の士気を一気に高めてくれる。そうなれば、領軍は危険なモンスターの討伐任務だって請け負えるしな。軍のトップに立つには個人の強さとカリスマ性、指揮能力すべてを兼ね備えなくちゃだめなんだ。いまならはっきりわかるぜ、兄貴が後ろに控えている限り、辺境伯軍は安泰だってな!」


「褒めすぎですよ。今回はたまたま死人が出なかっただけで……」


「たまたまがあるような規模の襲撃じゃなかったんだよ、今回は。明らかに人為的な襲撃だ。父上も王都に着き次第、調べさせると言っていた」


「……恐ろしいですね」


「合流ポイントをここにしたのもそのためだろう。ここならなにかあれば王都にばれるからな」


「……僕たちが空を飛んできたこともバレバレですね」


「諦めろよ兄貴」


「そうですよ、スヴェイン様。堂々とウィング様とユニ様に乗って王都に入りましょう」


 アリアの言うとおり、シュミット辺境伯家の一行はペガサスとユニコーンという聖獣2匹に、僕とアリアがそれぞれ騎乗しての王都入りとなりました。


 それはそれは、とても話題となったようで……うん、忘れましょう。

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