684.コンソール帰国日:帰国途中の空の上

 帰国日の朝、朝食を済ませると家族や使用人たちからの送り出しを受け、カイザーを呼び出します。


 皆との別れのあいさつはもう済んでいるので本当に帰るだけですね。


『ふむ。呼ばれたから来たが……もう帰るのか?』


「帰りますよ、カイザー。それともあなたに用事がありましたか?」


『いや、ないな。我が背に乗る者たちは早く乗れ。ニーベとエリナは飛んでいくのだろう?』


「はいです!」


「普段より速く飛べるのは興味があります!」


『よかろう。こちらの聖獣の長もあいさつに来たようだ』


「本当ですね。少し行ってきます」


 カイザーを見てやってきたのでしょう。


 黄龍も公王邸上空にやってきていました。


『帰るようだな、スヴェイン』


「ええ、帰らせていただきます。また一年後くらいに遊びに来ますよ」


『わかった。その時はもう少しおとなしくするよう聖獣たちに言い聞かせよう』


「……言い聞かせて聞くんですか?」


『……言い聞かせる』


 どうやら黄龍も自信が無いようです。


 実際、カイザーが飛び立ちシュミットの上空を抜けるときは訪れた時の歓迎と同じことをやっていましたし……。


 絶対に味を占めていますよ、あれ。


 どこかから誰かが訪れるたびにやるんじゃないですか?


 ともかく聖獣たちにも見送られ国境で出国手続きを済ませると黄龍ともここでお別れです。


 あとはカイザーと共にコンソールまで長いようで短い空の旅。


 最高速度は出さずに三十分くらいかけるように指示してあります。


 数分で着くとニーベちゃんとエリナちゃんが不満を漏らしそうですし。


「先生、これからは毎年シュミットに帰るんです?」


「その予定ですね。忙しくなるまでは」


「忙しくなるまで。『学園国家』が動き出すまでですね」


「そうなりますわ。まだまだ当分先ですが……『学園国家』ができたあとは気軽にシュミットにもいけなくなりますもの」


「国同士になるからです?」


「単純に『学園国家』の運営が忙しくなりそうだからですよ。最初期の学生集めだとかギルドの稼働準備だとか」


「その通りです。あなた方も私どもの研究をすべて受け継ぐ覚悟なのでしょう? ならしばらくは『学園国家』の錬金術教授です」


「ボクたちも正式に教える立場へ回るんですね?」


「そうなります。対象者は……どれくらいの年齢幅かわかりませんが錬金術希望者の中で指導してもらいたい講師を選ばせる予定です。アトモさんもそのひとりですからライバルですよ。もちろんふたりもバラバラに教えてもらうことになるので競争相手になりますが」


「それは楽しみなのです!」


「そうですね。ニーベちゃんにもアトモさんにも負けられません」


「そうしなさいな。ちなみに、スヴェイン様は錬金術を教えないのですか?」


「僕も教えたいですが、最初は諦めます。『学園国家』の代表として動き回る必要があるでしょう。『国』として動き出せば、コンソールともシュミットとも渡りをつけなければいけないのですから」


「わかっているのでしたら結構ですわ。私も最初は魔法講師を諦めております」


「アリアは指導に専念していただいても構いませんよ?」


「夫を支えるのは妻の役目ですもの。そういう意味ではミライにも早く〝妻〟に戻っていただかないといけないのですが」


「僕たちだけでは絶対に回りませんからね」


「はい。事務部門のまとめ役が必要です」


 ミライさんには本当に頑張っていただかねば。


 アリアとしてもリリスとしても〝家としての示し〟をつけるために妻の座を奪い取って居候に格下げしたというのに、ようやく本格的に再スタートしました。


 本当にダメな相手ならアリアもリリスも黙って叩き出すのに。


「皆、なんの話をしているの?」


「『学園国家』ができたあとの話ですよ」


「そのあとはシュミットにも気軽に帰れなくなるほど忙しくなると言う話ですわ」


「あー、当然か。カイザー様が本気を出せば数分の距離でもスヴェインたちが数日空けるって問題になりそうだもんね」


「『国同士の交渉』で数日いないなら問題ないでしょう。ですが、帰省のためにと言うのは難しいでしょうね」


「私どもも正式にはコンソールの市民。『学園国家』が完成すればその指導者にならねばなりませんよ?」


「……そうだよね。と言うことは私も服飾を教えるのは当分無理かな」


「ユイも我慢しなくていいですよ? あなただって本音では教えたいでしょう?」


「教えたいけれど我慢する。その時間があったらスヴェインの子供を産んで育てる方が先決になっちゃったし、スヴェインにはその時間だってしばらくないよね? なら私も妻として支えてあげないと」


「ユイも考えがしっかりしていて助かりますわ」


「そうですね。助かります」


「スヴェインと結婚したときにいろいろ覚悟を決めたから。覚悟不足なもうひとりは本気で蹴り出したかったんだけど」


「……ユイ、ミライさんの助力だって必要なのはわかってますよね?」


「他人でも事務を任せることは出来るでしょう?」


「いや、そうですが……」


「だったら甘やかしちゃダメ。家でも仕事でも役に立ってもらわないと困る」


「ユイは私よりも厳しそうです」


「仕事中の私は鬼だからね」


「プライベートでは甘えん坊ですけどね?」


「スヴェインとアリアにだけだよ? そして、これからもずっと甘える」


「かわいいユイのおねだりです。叶えて差し上げますわ」


「そうですね。ただ、今度酔って恥ずかしいことを言い出したら……」


「……お願い、忘れて」


「忘れません」


「はい。酔いすぎた罰です」


「お酒、ほどほどにします」


「そうしてください。念のため」


「アムリタを飲んでいるとは言えど注意するに越したことはありませんわ」


「……はい」


 そのあとも空の上で話しているとコンソールの街並みが見えてきました。


 いまはあそこが僕たちの暮らす場所ですからね。

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