685.コンソール帰国日:コンソール錬金術師ギルド報告会

 コンソールに着いたらそれぞれバラバラに行動開始です。


 アリアとユイ、リリス、サリナさんは家に帰りました。


 サリナさんはマジックスパイダーシルクではなくレインボーウールで練習用のドレス作りに挑むらしいです。


 期限まで三カ月ない上お店の経営もある以上、時間は無駄に出来ないのでしょう。


 ユイも一切指導はしないと宣言していましたし。


 僕とニーベちゃん、エリナちゃん、ミライさんの四人は錬金術師ギルドに行きます。


 ミライさんにはギルド支部に行ってイーダ支部長、ロルフ支部長補佐、ウエルナさんも呼んで来てもらうことにしました。


 僕とミライさん、ギルドマスターとサブマスター不在だった間のギルド運営についてすべての報告を受けるためですね。


 次期ギルドマスター代理のハービーとサブマスター候補のアシャリさん、今日はギルドに来ていたエレオノーラさん、見習いたちの指導にあたっている第二位錬金術師たちからはユルゲンとジャニーンを呼び出しました。


 ミライさんたちが支部のメンバーと共に戻ってきたところで報告会スタートです。


「まずは皆さん、僕とミライさん両名不在の間ギルド運営ご苦労様でした。僕たちがいなかった間の報告をすべてこの場で受けたいと思います。まずはギルド評議会の内容から。アシャリさん、ハービー、よろしくお願いします」


「はい、ギルドマスター様。ギルド評議会で錬金術師ギルドからの報告は特に変わりありませんでした。ほかのギルドからも質問事項や検討依頼などはなし。ほかのギルドからの報告内容も平常通りの内容です。その他の報告事項は今年の『交霊の儀式』と『星霊の儀式』の内容について。『交霊の儀式』は平年通りとのことです。やはり最下級職や下級職になった子供たちや親の受け止め方はまだ変わっていないと」


「ただ、『星霊の儀式』はかなり変わったようです。上級職に上がれる子供が現れ始め、最下級職から下級職になった子供も多いそうです。子供向け講習会の効果が出始めているんじゃないかってギルド評議会の評価です」


「あともう一点。【付与魔術】の習得に成功した子供たちが四割弱ほどいたそうです。『職業』がばらけているため、将来的な生産分野の伸びにどう影響するかはわかりませんがギルドマスター様が冬に配ったエンチャント教本の効果は確実に出たと評価されました」


「四割弱。ギルド評議会としてその数字は多いと判断しましたか? それとも少ないと見ましたか?」


「多いという判断ですね、ギルドマスター。半年経っていないのにそれだけの子供に【付与魔術】を覚えさせることが出来たのだから来年は更に結果が期待できると見ているようです」


「アシャリさん、ハービー、あなた方の予測は?」


「私はある程度増えると考えています。ですが多くても七割でしょう」


「俺も同じ意見です。ギルド評議会はもう少し楽観視しているようですが、そこまで伸びないでしょうね」


「理由は?」


「子供たちの興味です。今年は目新しいことだったため短期間で増えました。来年以降もこのペースが維持できるとは限りません」


「同じく。それに子供たちは互いに見せ合って終わるだけでも満足してしまうでしょう。全員が満遍なくって言うのは難しい」


「そこまで予測できているなら十分です。ふたりともご苦労様でした」


「ありがとうございます、ギルドマスター様」


「ありがとうございます」


 ハービーはまだ経験が浅いですがアシャリさんは落ち着いてきましたし、そろそろ本格的にサブマスター業務を任せてもいい頃合いでしょう。


 ミライさんには各種交渉ごとに専念するよう指示を出しますか。


「次、エレオノーラさん。講習会の様子は?」


「極めて順調です。ヴィルジニーさんも少しずつ成長してきましたし、子供たちもよく遊ぶようになってきました。相変わらず待ち時間が長いとだけは言われてしまいますが……」


「ふたり体制のいまは仕方がないでしょう。今後……そうですね、エレオノーラさんとヴィルジニーさんのふたりが独立して動けるようになり、それぞれにアシスタントをつけられるようになればそれぞれが週二回、合計週四回のペースでも回せるかもしれません。そのためにはヴィルジニーさんがあなたの技術をすべて身につける必要がありますが」


「わかりました。なるべく早く教え込みます」


「……ただ、ウサギのお姉ちゃんと遊びたいだけの子供も混ざっていることは忘れないでくださいね?」


「ネコのお姉ちゃんと遊びたいだけの子供たちも増えてますよ?」


「錬金術師ギルドの講習会って大丈夫でしょうか?」


「私に聞かれてもちょっと……」


 エレオノーラさんの後継者問題は心配でした。


 でも、そちらが片付いても一緒に遊びたいだけの子供たち問題が解決できていません。


 エレオノーラさんの系譜が受け継がれていくって言うことは『錬金術講習は遊び』と言うことも受け継がれ続けるわけで……。


 不安です。


「講習会のことはいったん諦めましょう。次に見習いたちの指導はどうなっていますか?」


「はい。段々差が出始めてきています」


「期限が近づいてきて焦ってきているんでしょうね。無理をしようとして躓き出す連中が増えてきました」


「夏の終わりまであと一カ月余り。まだまだ余裕があるはずなんですが……見習いではそこの見極めが厳しいですか」


「そうなります。先に第一位へと昇級した六名へ積極的にアドバイスを受けている見習いたちは落ち着いていますがそうじゃない者たちはかなり余裕がありません。『仲間にアドバイスを受けることも重要』、これに気が付いておらず自分だけで進めようとしている人はこのまま落ちこぼれるかと」


「アドバイスさえ受けていれば余裕があることに気が付くんですけどねえ。高品質まではそこまで険しい道のりじゃない。本当の勝負は最高品質に入ってからなのに」


「それもまた本部に残れるかの試練です。それで、昇級試験を追加で受けさせた見習いはまだ現れていませんか?」


「残念ながらひとりも」


「一番早い人間であと一週間程度はかかります」


「それはそれで構いません。それで、第一位に昇級した六名は?」


「全員最高品質ポーションを量産中です」


「まだ最高品質ポーションは四割程度ですが、最高品質魔力水は確実に出来るようになりました」


「……仮眠室に行っている回数は?」


「……増えても減ってもいないです」


「最高品質をそれだけ作っても仮眠が増えてないってことは最大魔力も上がってますよね?」


「その通りです。去年のヴィルジニーさんは深めの魔力枯渇を頻発していたので効率が落ちていましたが……今年は軽めで回数が多いため効率がいいみたいですね」


「末恐ろしいです」


「鍛え甲斐はありますが……大丈夫でしょうか」


「僕にもちょっと……」


 なんというか去年のヴィルジニーさんもですが今年も優秀すぎる錬金術師が混ざっていました。


 来年以降はどうなるんでしょうか。


「最後、ギルド支部で変わったことは?」


「ギルド支部の方で不適格者の洗い出しが進んでいます」


「今のところ事務方では六名。アシャリサブマスター補佐筆頭の許可を得て内偵調査を依頼しております」


「錬金術師はもっと多い。シャルロット様から借りている手で内偵を進めていますが……下手をすれば百名以上の破門者が出るかもしれません。お許しを」


「構いませんとも。この際ですから悪い部分はすべて切り捨てましょう。ほかに変わったことは?」


「納品ノルマを未達成になりそうな錬金術師たちがいます。支部長権限で罰則を出す許可を」


「許可します。内容は?」


「一カ月目は厳重注意。二カ月目からは罰金です」


「よろしい、その内容で進めてください。ウエルナさんからは何かありますか?」


「ほかに……ああ、スヴェイン様から出された特級品とミドルポーションの件で焦りだした第二位錬金術師たちがいますね。ミドルポーションの研究チームは十名一単位で自由に組ませました。優秀な連中ほど先に優秀な者同士で固まっちまったんであぶれた連中が焦っています。いまからほかの街へ講師に行きたいと言い出す連中や期限を延長してほしいと言ってくる連中も」


「……それ、ほかにもいますよね?」


「影でスヴェイン様に恨み言を言っている連中もいます。閉め出しますか?」


「今のところ放置で。どうせそんな連中、二年後に蹴り出されます。陰口程度、勝手に言わせておきなさい。実力行使に出ようとすれば今度こそ僕の聖獣が許しません」


「了解です。まったく、シュミット講師だけでなくスヴェイン様まで侮るとは情けない」


がわかっていないんでしょう。ただの講師ではないことを錬金術師ギルドでもそろそろわからせるべきですかね?」


「それもそのうちわかるでしょう。特に来年あたりから」


 来年、ウサギのお姉ちゃんと英才教育機関が完成したあとの受け入れからですか。


 すなわち現実を思い知っていただきましょう。


「さて、報告は聞き終わったはずですが、ほかに報告したいことはありますか?」


「ああ、では私から。第二期第二位錬金術師で特級品が作れる仲間が増えています。時間が出来たときに確認を」


「……それってどうやって確認しているんですか?」


「第二位特級錬金術師はすぐにわかるので、その仲間にはこっそりと作れることを見せてくれるんです。まずいでしょうか?」


「ほかに漏れないなら許可しますが……くれぐれもわかっていないメンバーには漏らさないように」


「はい。仲間の研究を無駄にはしません」


「わかっているなら結構。ほかに報告がある者は?」


 これ以上は手が挙がりませんでした。


 さて、それでは指示出しですね。


「ではギルドマスターから新しい指示です。と言ってもミライさんとアシャリさんにだけですが」


「なんですか?」


「今後、錬金術師ギルド内のサブマスター業務はアシャリさんが処理、ミライさんが最終確認としてください。ミライさんは時間が空くはずなのでその間にギルド内外での交渉ごとと業務改善の企画立案と提案を担当、ただ交渉ごとにはなるべくアシャリさんも同席させるように。すべての業務を引き継げる状態にしましょう」


「わかりました。アシャリさんもいいですね」


「かしこまりました」


「では、今日の会議は終了。せっかく集まったんですし雑談にでもしますか。言葉遣いなども普段通り気にしませんから何か相談事があったらお気軽に」


「じゃあ俺から。第二期第二位錬金術師って次の春には特級品とミドルポーションのヒントですよね? どの程度のヒントを出せば?」


「さじ加減は任せますよ。特級品は……」


「まあ、ほとんど答えですね」


「私も作れるから知ってるけど……ヒントじゃないですよね」


「そういうこったな。できれば来年の春までに特級品だけでも全員が作れるよう頼むぜ」


「わかりました。ただ私からヒントを出しても答えなんですよね……」


「だよなあ」


「シュミットでも特級品の作り方は非公開、ヒントも講師資格を取らない限り出さないからな。お前ら恵まれた環境にいるとは言えすごいぞ?」


「ウエルナさんに褒められるのは嬉しいっすけど第一期はほとんどがヒントをもらっちゃいましたから。そういう意味でも第二期はすごいですよ?」


「私たちは先輩たちが熱心になんでも鑑定しているのを見ちゃってますから。確かにギルドマスターから最初期指導を受けた時に『なんでも鑑定しろ』とは教えられましたけど、まさか錬金触媒まで鑑定するだなんて」


「昔は皆見逃していたみたいですからね、【神眼】持ちでさえ」


「いや、まったくお恥ずかしい。あれ以来なんでもかんでも鑑定しまくってますから」


「その結果発展するのならいいことですよ」


 鑑定って本当に大切ですよね。


 ユイの服みたいに【神眼】でも鑑定不可能なレベルまですごい物を作られてしまうとどうにもできませんが。


「あ、そう言えばギルドマスター。例の設計図っていつ売りに行けばいいですか?」


「ああ、ギルドの仕事ではないですがそちらも急務ですね。こういうものがあると言う交渉だけでも今日中に済ませておきますか。今日は一応休みですし」


「そうさせてください。と言うことで試供品を」


「わかってますって。どうぞ」


「確かに預かりました。商業ギルドマスター……は捕まるかどうかわかりませんが、できれば捕まえた方がいいですよね?」


「ええ。スヴェインの名前を使っても構いませんよ」


「了解です。お仕事頑張るぞー!」


 ミライさんは試供品を受け取ると意気揚々とギルドマスタールームをあとにしました。


 今日一日はマサムネも貸し出す約束ですし、今回の契約次第ではアリアもその程度は許してくれるでしょうから頑張ってください。


「スヴェイン様、今の魔導具は?」


「あれですか? 魔力を流すと台の上だけが温まって鍋を温められたり物を焼けたりする魔導具です。昔、エレオノーラさんが子供向け講習会で料理を教えたいと言い出したときに開発した魔導具ですね」


「……それってどの程度の温度が出ます?」


「最大火力を出すと台の上に置いた鍋いっぱいに水を張っていても一分で沸き立ちます」


「ギルドマスター様、二台ありましたが……」


「もう一台はそれを応用して作った窯代わりになる魔導具です。上に置いたものではなく中に入れたものを全方位から熱することができます」


「それ、パンすら焼けません?」


「うちではリリスが毎日朝夕焼いていますよ」


「それって耐久性はどのくらいっすか?」


「うちで使い始めてから壊れたことはありません。もちろんエンチャントなしです」


「あの、今の魔導具、俺んちでも欲しいんすが」


「ウエルナさんの家?」


「はい。俺は家族でコンソールに来ているんで」


「作って売る分には構いませんよ? サイズ指定さえしていただければ暇なときに作ります。たいして難しい魔導具でもないので」


「あの、ギルドマスター様。我が家でも売ってもらえませんか?」


「いいですよ。ただ値段はミライさんに聞いてください。僕の値段付けは甘いと言われているので」


「あの、私も……」


「自分もいいでしょうか?」


「俺も家族に送りたいです」


「私も実家と自分用に」


「……面倒ですからギルド本部付き錬金術師と事務員で見習いたち以外全員の要望を聞きましょう。どうせ皆高給取りなんです。ミライさんがよっぽどな額を提示しなければ買うでしょうし」


「それ、シュミット講師は対象外っすか?」


「シュミット講師も含めましょう。シュミットでもこの魔導具の設計図を売りつけてきたのでそのうち量産販売されるでしょうが」


「わかりました。シュミット講師の要望は俺がとりまとめてきます」


「よろしくお願いします。エレオノーラさんは……もう持ってるからいらないですよね?」


「はい。ギルドマスターが引っ越し時にくれた魔導具ですよね? 大丈夫……ああ、でも実家用に欲しいかも」


「では、そちら用に売りましょう。時間が空いてるときに要望を聞いてきてください。数が増えても素材は山のようにありますから量産できます」


「「「はい」」」


 こうして僕の作った魔導具はギルド本部錬金術師と事務員たちは見習い以外全員が買う事に。


 ミライさんもこの数の値段は決められないらしく、『ひとりご飯になってもいいですからサイズごとの値段だけにしてください』と言っていました。


 アリアとリリスもこの数の細かい値段は無理だと言うことで罰則はなし、むしろ慰めていましたね。


 シュミット帰省の後片付けも終了しましたが……なんだか大変なことにしてしまったような。

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