1018. トラージュの余罪

「し、知るもんか! これは、そう! 気前のいい商人が譲ってくれたものだ!」


 トラージュを留置場に連行したあと、持っていたポーションについて尋問しますがなかなか口を割りません。

 本当に頑固な男ですね。

 そんな抵抗をしたところで無駄だというのに。


「おいおい、そんな意固地になっていていいのか? そのポーションの持ち主が盗まれたと名乗り出てくればお前の罪が増えるだけだぜ?」


「そんなことはない! それは僕が譲り受けたものだ!」


 ティショウさん相手でも口を割りませんか。

 どうしたものか。

 捕縛したら捕縛したで面倒な男です。

 どうしてくれましょう。


「スヴェイン様、少しよろしいでしょうか?」


「はい、どうぞ」


 トラージュの尋問を見ていると、外から衛兵に声をかけられました。

 僕がここにいることは知っているでしょうが、急ぎの用事でしょうか?


「失礼いたします。先ほど、黄色いフードをかぶった女性がスヴェイン様にこの手紙を渡してくれと言い残して去っていきました。心当たりはあるでしょうか?」


 黄色いフードの女性……ああ、あの人ですね。


「知っています。裏社会のボスとの連絡役の女性です。手紙を預かってもよろしいですか?」


「はい。どうぞ」


 僕は手紙を受け取り中を確認します。

 ですが、そこには厄介なことが書いてありました。


『その男が持っているポーションは闇商人から強奪したポーションだ。表社会には出せないポーションだから持ち主が名乗り出ることはない。それでいてコンソールの紋章は入っている厄介なブツさ。せいぜい頑張りな』


 やれやれ、出所はわかりましたがこれでは罪に問うことが難しそうです。

 どうしてくれましょう。


「スヴェイン、その手紙にはなんて書いてあった?」


「読んでみてください」


「どれどれ……厄介なやつが厄介なものを盗みやがったな」


「はい。これではどうにもなりません」


 僕とティショウさんはお互い首を横に振ります。

 本当に困ったことになりました。


「ほ、ほら、僕の言った通りだろう? そのポーションは僕が……」


「あなた、そのポーションを誰から奪い取ったのかわかっているんですか?」


「は?」


「コンソール新市街の裏社会を束ねる組織の構成員から奪ったんですよ。これで、あなたを釈放するのが難しくなりました」


「ど、どういう意味だ!?」


「どうもこうもねぇよ。ギルド評議会と新市街の裏社会とは、互いに微妙なバランスを取ってなり立っている。そんなところにお前みたいなやつが紛れ込んだ。あっちからお前を引き渡すように依頼が来れば、俺たちは態度を明確にしなくちゃいけねぇ。まあ、表向きは釈放だが、実際には身柄の引き渡しだな。お前にはすでに監視がついているだろうし」


「そ、そんな! 僕はポーションをもらっただけだぞ!?」


「相手が悪かったんですよ。あちらは力とカネが支配する裏社会を仕切る組織です。そこにあなたは泥をかけた。あちらとしては、報復をしなければケジメがつかない。あなたにはまっとうに生き延びる道はなくなった」


「そ、そんな……」


 トラージュががっくりとうなだれましたけど、これは真実なので仕方がありません。

 手紙には引き渡し要求までなかったので、ギルド評議会がきちんとしたケジメをつけるのならそれでよしとするのでしょう。

 それができないのであれば自分たちがケジメをつけるだけだとも。


 裏社会の掟は厳しく、破ったものに対する制裁はそれ以上に厳しい。

 彼に残された選択肢はもうわずかですね。

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