180.スヴェインの望む報酬

「それは真か!? スヴェイン殿!!」


「ギルドマスター!? 薬草栽培なんて夢物語ですよ!?」


「ぬ?」


「え?」


 まったく対照的な反応を示したふたり。


 やれやれ、ミライさんは僕がどこの出身だと考えているんでしょう?


「ミライさん、僕の出身地は覚えていますか?」


「はい、それはもう嫌というほどに。シュミット公国ですよね」


「なに? シュミット公国?」


「ああ。その説明も後ほどいたしますので今は置いておいてくださいシュベルトマン侯爵」


「わかった」


「失礼いたしました。シュベルトマン侯爵」


「いや、その様子だと本当にわかっていない様子だからな。ここから先の会話についてこられるよう、しっかり説明を受けてもらいたい」


「それでは……あの、出身地がなにか関係があるのでしょうか?」


「……その様子だと本当に知らないようですね。グッドリッジ王国で薬草栽培を行っていると言うことを」


「えぇ!?」


「……本当に錬金術師ギルドのサブマスターか?」


「申し訳ありません。元は事務員だった方を引き抜いて事務処理専門でやっていただいています」


「なるほど。それでは知らなくとも無理はないか」


「シュベルトマン侯爵がご存じと言うことは本当なんですね?」


「はい。もっと言えば発祥は現在のシュミット公国。更に細かく言うと、僕が始めたのがきっかけです」


「なに!? そこまでは知らなかったぞ!」


「申し訳ありません。前回はそこまで話す必要性がなかったもので」


「う、うむ。驚いたが、納得もいく。それで、シュミット公国とは?」


「はい。昨年の……秋頃でしょうか? それくらいから始まっていたらしいのですが、グッドリッジ王国では内乱状態に陥っていました。その内乱をシュミット辺境伯領が解決し、その際にシュミット辺境伯一派が国として独立。今のシュミット公国となりました」


「……かなりざっくりとした説明だな」


「細かい説明をするのは時間がかかりすぎますので。それに、国にとってはシュミット公国の成り立ちは大切かも知れません。ですが、今のシュベルトマン侯爵にはあまり関係ないお話でしょう?」


「うむ、確かにな。グッドリッジから独立したシュミット公国がある。それだけわかれば十分だ」


「はい。それと別件で僕はと考えています」


「む。それはシュミット公国として、不味いのでは?」


「知ったことではありません。僕はシュミットを抜けた身です」


「暴論だな」


「はい。ですが、今はこの街の錬金術師ギルドでも僕の栽培している薬草を使用させています。でも、。実際に、僕がグッドリッジ王国の内乱を止めに行っている間にも機能不全を起こしかけましたから」


「……本当かね、サブマスター」


「お恥ずかしながら、本当です。ギルドマスターからは半年分として預かっていた高品質な薬草類が三カ月と少しでなくなるところでした」


「……待て。今、彼女は薬草類と言ったか?」


「はい。今の錬金術師ギルドにおける精鋭たちは高品質ポーションや高品質マジックポーションを毎日量産しています。現在は最高品質を作ろうとしているのですが、僕の手を借りたくないみたいでして……普段はこのギルドに僕がいないのですよ」


「待て待て。最高品質のポーション作り? 錬金術師ギルドの精鋭? 一体何年錬金術師ギルドで働いているのだ?」


「三年未満でしたっけ。ミライさん」


「はい。多くは入門して二年、一部一年がいるくらいです」


「一部、なんですね」


「前ギルドマスターがいた頃だったために制限が厳しかったのですよ。……今年は今年で手狭な場所になってしまっているため募集人員を少なくせざるをえませんが」


「いや、おかしい。なぜ、一年や二年で高品質ポーションやマジックポーションを大量生産できる? この街ではなにが起きたのだ?」


「そんなに難しい問題でしょうか? ? ギルドで放置されていた新人たちを再教育して高品質ポーションを作れるように十日間で仕込む程度はやってみせます」


「な、バカな……? 私の耳か頭がおかしくなったのか?」


「いえ、シュベルトマン侯爵。残念ながら事実です。私もそのときは秘書代わりとして勤めていただけですが、


「そんな……この街は、私が訪れていない半年、いや、私が去ったあとの十日間で錬金術がそこまで……」


「シュベルトマン侯爵、残念ながら変化は私たち錬金術師ギルドだけにとどまりません。今では


「なに、それはどういう……」


「シュベルトマン侯爵、明日は空いていますか?」


「あ、ああ。これだけの話を聞いてしまったのだ。明日には帰る予定だったのだが、そんなもの先延ばしだ」


「それは良かった。僕と一緒に各ギルドを回ってみましょう。よくわかるはずです」


「スヴェイン殿、それは……」


「まあ、この話はまた明日にでも。今は薬草栽培の話です」


「う、うむ。そうだったな。聞かされた話が壮大すぎて忘れてしまうところだった」


「忘れられてなくて助かります。それでですね、先ほども言いましたがこの街で薬草栽培を始める予定です。早ければ来週にも」


「来週だと!?」


「ギルドマスター! いつもながら急すぎます!!」


「土地はたくさんもらってますから心配せず。僕への給金としていただいた土地のほとんどを錬金術師ギルドに寄付したじゃないですか」


「あれはまだ私預かりです! 錬金術師ギルド支部は発注をかけてしまいましたので受け付けましたが、ほかはまだ止めてます!」


「そんな遠慮せずに。僕の拠点はペガサスで飛んで三十分も先なんですから、この街には出先のアトリエ程度で十分なんですよ」


「私たちが構うんです!」


「いや、待ってくれ! 薬草栽培とはそんな簡単なものなのか!?」


「はい。種と方法……土魔法使いと錬金術師がいれば簡単に育てられます」


「種……種はどうやって手に入れる!?」


「自然環境の中で手に入れるのはかなり難しいです。群生地などでは枯れないよう注意すれば種がなります。ですが、


「では、どうやって手に入れる!」


「はい。そこで僕の出番です。僕の……というか、弟子たちが育てていた頃に余った一般品質である薬草類の種が……千個くらいと言っていましたかね。それくらい残っています。それを使って錬金術師ギルドでも一から薬草栽培を始めることにします」


「……その言い方だと含みがあるな?」


「もちろん。弟子たちの作った種は高品質の種が二千個くらい余っているそうですし、最高品質の種は定期的に収穫できます。ですが、それを渡すつもりは一切ありません」


「それは錬金術師ギルドマスターとしての判断か? それとも」


「師匠スヴェインとしての判断です。一般品質の薬草類でしたら出し惜しみしなくてもいいと考えていますが、それ以上は自分たちで育てていただかないと」


「それを育てる方法も教えてもらえるのか?」


「もちろんですよ。そして、それはそんなに難しい方法ではありません」


「わかった。それで、この報酬を望むのはとしてか? それともとしてか?」


「うーん。できればスヴェインとして受け取りたいです。一ギルドが受け取るにはあまりにも大きな報酬ですので」


「その言い方だと、スヴェインとしてはさほど大きくない報酬になるぞ?」


「大きな報酬ですよ? でも、です」


「わかった。この街で薬草栽培を始める前に私に話を持ちかけたのは、その報酬目当てだな?」


「はい。人の口に戸は立てられぬと言います。薬草栽培の方法など、種を持ち出されてしまえば容易……とまでは行きませんが不可能ではありませんから」


「わかった。して、その褒美とは?」


 よし、乗ってくれました。


 これはいい感じですよ。


「では。

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