181.スヴェインの野望とギルド歴訪出発

「な、? ?」


 さすがにシュベルトマン侯爵も混乱しますか。


 いきなり土地を分けろ、なんて話ですものね。


「はい。薬草栽培が軌道に乗ればそれくらいの投資は回収出来るはずです。乗りますか? 乗りませんか?」


「い、いや。少し考えよ。それほどの土地をなにに使う? 城でも建てるのかね?」


「そんなつまらないものは作りません。僕が造りたいのはです。もっと正確に言えばコンソールが交易都市のように、僕が考えているのはです」


「が、学園都市?」


「はい。学園都市です」


「あー、なるほど」


「サブマスター! 君は理解できたのか!?」


「なんとなくですが。ギルドマスターは『錬金士』以下相手の錬金術講義を定期的に開いています。それをもっと盛大にやるんですよね?」


「そうなります! 教師陣は……しばらくはシュミット公国頼みになりますが、育っていけば可能であれば都市内部から、いえ、すべての国中から集めたいですね!」


「な、なにを馬鹿げたことを!?」


「うーん、馬鹿げたことでしょうか?」


「サブマスター!?」


「いえ、普段のギルドマスターを見ていると行き着く先はそこなのかなーって。自分にできるのはで、できればと」



「そ、そんな、壮大、いやなんと表現すればいい? わからん。とにかくそのような野望、聞いたこともないぞ!?」


「はい。アリア以外に話すのは初めてです」


「アリア……あの連れの魔術師か。彼女はなんと?」


「『場所を確保できればあとは人材だけですね』と」


「は、はは。私はなにを聞かされているのだ? 単なる薬草栽培の話かと思えば学園都市? スケールが違いすぎるぞ?」


「そうでしょうか? 僕には十分到達可能な夢だと確信していますが」


「なにを根拠に?」


「ああ、なるほど」


「だから、サブマスター!? なぜ君は理解できる!!」


「根拠は明日ご覧に入れましょう。……さて、今日このあとはいかがなさいますか?」


「さすがに今日は疲れた。これで失礼したいのだが……」


「今結界を解きます。プレーリー」


「キュキュッ」


 プレーリーの結界が解除されたあと、僕が張った結界も解除します。


 プレーリーの結界があると僕の結界を解けないんですよ。


「それではギルドのエントランスまでお見送りに……」


「いや、結構だ。明日の朝、またこのギルドに来れば良いか?」


「はい。を用意しておきますのでご期待を」


「わ、わかった。それでは」


 シュベルトマン侯爵は少しよろけながらもギルドマスタールームをあとにしました。


 階段で躓いたりしないでしょうか?


 不安です。


「さて、ギルドマスター。その学園都市構想について詳しくお話をお聞かせ願えますか?」


「構いませんよ。シュベルトマン侯爵がその気になってくれればギルド評議会にも議題として提案する予定でした。細かい物品の調達や仕上げ、機材の搬入など様々な点で各ギルドのお力を借りねばなりません」


「はあ。ギルドマスター、あなたが錬金術師ギルドのギルドマスターだからギルド評議会に顔も利きますが、そうでなければどうするつもりだったんですか?」


「うーん、どうしましょうかね? いろいろと準備に手間暇と時間がかかるだけだと考えます」


「ギルドマスターの構想が具体的なのはわかりました。それ、一から全部説明してください。私がすべてまとめますので」


「そうですか? ですが、今日中じゃなくていいですよ? 


「へ?」


「ふふふ。さあ、学園都市構想、語り始めます! 準備はよろしいですか!!」


「ちょ、ちょっと待ってください! ペンとメモ用紙を大量に……!」


 結局、その日は夕暮れ時までかけて学園都市構想を語りました。


 その結果、ミライさんが出した結論は『実現できそうで怖い』だったそうです。


 さて、明日はシュベルトマン侯爵を誘い込みますよ!



********************



「おはようございます。シュベルトマン侯爵」


「お、おはよう。スヴェイン錬金術師ギルドマスター。それでこれは……特別な馬車……馬車?」


「すみません……馬は普通の馬を用意する予定でしたが、この子たちがどうしてもと譲らず……」


『スヴェインが乗る馬車だもの。僕たちが引くのが当然だよね?』


『まったくよ。アリアは一日魔法の授業だと聞いてるし安心して馬車を引けるわ』


「スヴェイン殿……いや、あなたが聖獣使いなのは知っていたのだが」


「この子たち。僕がほかの馬に乗るのは絶対に嫌なのだそうで……」


「そ、そうか。それで、今日はどこに行くのかね」


「まずはわかりやすく鍛冶ギルドから。構いませんよね、ミライさん」


「はい。昨日のうちに連絡はしてありますので迎え入れる準備はできているかと」


「仰々しいあいさつは嫌いなのだがな」


「では、あちらのマスターがそういうことをしてきたら適当にあしらってください」


「……仲が悪いのかね?」


「反りが合わないだけです。それでは


「最新式と言われても、形が変わっているのと内部がソファーになっているだけで……」


「ミライさん。侯爵への説明をお願いします」


「あのー、本当に馭者席にギルドマスターが座るんですか? 普通逆じゃありません?」


「この子たちは僕の言うことしか聞きません。と言うわけで、あなたが中です」


「わかりました。失礼いたします」


「う、うむ……」


「では行きますよ」


『オッケー』


『並足でいいのよね?』


「あなた方が全力を出すと馬車が持ちませんよ!」


『それもそうだ』


『〝シュミット式〟でもダメかしら?』


「ほら、待たせてもいけません。出発です!」


 ウィングとユニが動き出した事によって馬車が一瞬揺れました。


 


「な、なんだ? 馬車なのに?」


「はい。これがコンソールにおける最新式の馬車になります。……本当はもっと揺れないんですが、馬の性能が良すぎるみたいです」


 ごめんなさい、ミライさん。


 一時間説得しても聞かなかったんですよ、この子たち。

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