182.鍛冶ギルドでの『デモンストレーション』
並足と言いつつほかの馬車よりも速いこの馬車は街の中を走り抜け、鍛冶ギルド前に到着いたしました。
あーあー、派手な出迎えは不要と連絡が行っているはずなのにまあ。
ずいぶん派手なお出迎えを。
「む……」
「無視していただけますか、シュベルトマン侯爵」
「そうさせていただこう」
ミライさんも本当に言いますね。
さて、僕は馬車から飛び降りドアを開けます。
そして、中からシュベルトマン侯爵が姿を現すと……。
「ようこそ、シュベルトマン侯爵! 本日は……」
「よい。それで、スヴェイン殿。まさか、これを見せたかった訳であるまい」
「もちろん。おーい、皆さん、いますか?」
「ああ。いるよ!……あんたら邪魔だ!」
僕の問いかけに応えて現れたのはシュミットの講師陣。
相変わらず、このギルドでは有効活用できていないみたいですね。
「この者たちは?」
「シュミット公国から呼んだ講師です。……もっとも、鍛冶ギルドと服飾ギルドはかなり金額をケチったので講師としてはまだ駆け出しレベルしか呼べてませんが」
「坊ちゃん! 事実だけどいい方!!」
「事実だから仕方がありませんね。さて、鍛冶ギルドマスター。昨日話を通していたとおりシュベルトマン侯爵に鍛冶場で作業を、講師陣の作業を見ていただきます。まさか異存はありませんよね?」
「……っ、わかっている」
「では、鍛冶場に参りましょう」
「おう。坊ちゃんたち、こっちが近道だ」
「ま、待て! 侯爵にそのような道を!!」
「時間もない。こちらを通らせてもらおう」
「は、はい」
相変わらず鍛冶ギルドマスターと服飾ギルドマスターは反りが合わないんですよねえ。
今日は主賓が主賓ですから反論などできませんが。
「……それで、今日は鍛冶場でなにを見せてもらえるのかな?」
「アタシらもお題は聞いてないね。このお方になにを作ってみせればいいんだい?」
「純ガルヴォルンと魔鋼の合金でロングソードを一時間以内に。できないとは言わせません。できないのなら、シャルに頼んで別の講師に変えていただきます」
「ガルヴォルン……話にしか聞いたことのない魔法金属。いいね! 燃えてきた!!」
「ま、待て! ガルヴォルンがなにかはわからぬが、ロングソードを一振り一時間以内だと!? そんなことできるはずが!?」
「なに言ってるんだい! やるんだよ!! 坊ちゃん、早くガルヴォルンと魔鋼を!」
「はい。品質チェックの時間は計測に入れないであげます。存分に調べてください」
僕はストレージからロングソード一本分のガルヴォルンと魔鋼を取り出し、今か今かと待ちわびている鍛冶師たちへと手渡します。
それを興奮した様子で観察している様は……うん、ちょっと怖いですよ?
隣のシュベルトマン侯爵も少し引いていますね。
そんなチェックも五分ほどで終わり、いよいよ鍛冶作業を始める段階へと移りました。
「ああ、伝え忘れてました。エンチャントはかけられなくても責めません。あなたの力量では二割未満の確率です」
「そこまで……よし! あんたら、準備はいいかい!!」
「「「応!!」」」
「では……始め!」
僕の合図とともに合金化作業を行うチームが動き始めます。
彼らも本気ですね。
先日のデモンストレーションでは使っていなかった魔鋼製のハンマーを使っています。
「ま、待て待て! なぜ、火に
「そういう技術だからとしか。あと、彼らに話しかけても無駄ですよ。まだ作業を始めていないメンバーも含めて全員が精神統一していますから」
「そ、そうか」
そうして合金化を進めること二十分、ガルヴォルンと魔鋼の合金が完成しました。
ここまではいいペースですね。
「終わったぞ! だが、こいつら予想以上に魔力を喰いやがる! マジックポーションも準備しておく!」
「わかった! 頼んだぞ!!」
ここから先は鍛造。
シュベルトマン侯爵も目を見張ります。
なにせ素人目にもわかるほど濃密な魔力が剣に吸い込まれているのですから。
途中、マジックポーションで魔力を回復すること四回、五十分弱で鍛造を終えました。
さて、間に合いますかね?
「姉御! 仕上げは任せた!!」
「あいよ! マジックポーションは!?」
「少なくとも六本は使う!!」
「準備任せた!!」
「応!!」
仕上げ作業。
ここでは更に濃密な魔力が剣へと吸い込まれていきます。
ふむ、最高品質とはいえマジックポーション六本で仕上げられますか。
少しばかり見くびっていましたかね?
「……仕上げ終わりだ。坊ちゃん」
「五十八分です。制限時間内ですね」
「ああ。クソ! エンチャント失敗だ!!」
「だから言ったでしょう。二割未満だと。エンチャントは僕の得意分野、見誤りはしませんよ」
「すいません。もっと修行します」
「お願いします。ですが、仕上げ作業をマジックポーション六本で済ませた事は評価いたします。僕は八本だと読んでいました」
「……ありがとうございます」
「……終わった……のか?」
今になって呆けたようにシュベルトマン侯爵が問いかけてきました。
そういえば作業中はずっと無言で食い入るように見入ってましたね。
「はい。ガルヴォルンと魔鋼の合金ロングソード、完成です。エンチャントには失敗しましたが仕方のない範囲でしょう」
「ま、待ってくれ、スヴェイン殿。今、エンチャントは失敗したと言ったが……この街ではエンチャント付与が当たり前なのか?」
「いいえ、この街ではまだ。障害がなくなればこの街でも熟練工にはせめて【鋭化】か【硬化】の付与くらいできるようになってもらいたいものです。この半年以内には」
「……私は今なにを見せられた?」
「〝シュミット流〟の武器製造です。このロングソードは献上いたします。試し切りもしますか?」
「あ、ああ」
「さて、なにを切ってもらいましょう。よさげな鋼の鎧は……ありました」
「は、鋼の鎧?」
「すみません、トルソーを用意……」
「もうしてあります、坊ちゃん」
「ありがとうございます。シュベルトマン侯爵、その剣でこの鎧を切ってみてください。軽くで結構です。お願いいたします」
「あ、ああ。だが、いくら魔法金属と魔鋼製とはいえ鋼の鎧がそんな容易くッ!?」
「ふむ、切れ味は十分合格でしょう。これからも精進してください」
「「「ありがとうございます! 坊ちゃん!!」」」
「あ、これは本当に鋼の鎧……一時間以内で作った剣で鋼の鎧を軽く振っただけで切り裂くだと?」
「シュベルトマン侯爵、一度剣をお借りしてもよろしいですか? この国の鍛冶師ではミスリル合金ですらまともに研げないと聞きました。【自己修復】のエンチャントをかけます」
「あ、わ、わかった」
「それでは……はい、終わりました」
「こんな容易く……スヴェイン殿。私はなにを見せられたのだ?」
「はい。僕が抱く野望の一端です。このあともこれの続きをご覧に入れましょう」
シュベルトマン侯爵、この程度で終わると考えているなら甘いですよ?
鍛冶と服飾は駆け出しレベルの講師陣です。
面白くなるのは……宝飾ギルドからですね!
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