114.頼まれたポーションの作製

 さて、ティショウさんとの会談も終わりました。


 これ以上冒険者ギルドに長居をする必要はないでしょう。


 ギルドを出てみると、ちょうど太陽が中天にさしかかるところ。


 すなわち、お昼時でした。


 考えていたよりも時間が経っていたのですね。


「スヴェイン様。このあと、どうなさいますの?」


「そうですね。風邪の流行り具合から考えると、屋台で料理と言うのも危険な気がします。コウさんのお屋敷に戻ってラベンダーの作った食事を食べましょうか」


「わかりました。それでは戻りましょう」


 戻る途中、かなり咳き込む音は聞こえなくなってきています。


 それでも咳をしている人がいるあたり、決して楽観視出来ない状況でしょう。


「スヴェイン様。風治薬の効果、大分出てきていますね」


「はい。ですが、根治にはまだほど遠い。そろそろ次のステップに踏み込む時期でしょう」


「そうですわね。コウさんに迷惑をかけなければ良いのですが」


「そこはコウさんに話を通してから実行しますよ。あとは冒険者ギルドのティショウさんにも」


「この街の実力者が後ろ盾になってくれると心強いですからね」


「その通りです。今はまず、弟子の教育に専念しましょう」


「はい。わかりました」


 屋敷に戻ると、借りている客間に戻り昼食を取ります。


 そのあと、弟子たちがなにをしているかと聞くと、昼食を食べ終わって一息ついたらすぐに錬金術の練習に戻ったそうですよ。


 うーん、幼い頃の僕を思い出してしまいます。


「まるで幼い頃のスヴェイン様みたいですわね。ふたりとも」


「僕も同じことを考えていました。もう少しゆとりがあってもいいような……」


「それだけ真剣と言うことでしょう。儀式までそう時間もありません。やれることは早くやらねば」


「ですね。ですが、最高品質の魔力水や高品質のポーション、マジックポーションばかり作っていると、すぐに息切れを起こしそうです」


「ですわね。倒れないようにエアロさんが様子を見ていてくれるはずですが……」


「僕たちも確認に行きましょう。あのふたりですと、魔力枯渇の症状が出始めても気がつかないで作業を続けそうです」


「わかりました。参りましょう」


 方針も決まりましたし、弟子たちのアトリエにやってきました。


 中に入ると、鮮やかな青色をしたポーション類が大量に並んでいましたよ。


「先生! 高品質マジックポーションも安定するようになったのです!」


「なかなか大変な作業ですが七割くらいは成功するようになりました」


 ほう、それはなかなか感心ですね。


 ですが、その結果として魔力枯渇寸前まで魔力を使い果たしていますが。


「ふたりとも。机の上を片付けたらひとまずベッドで休みなさい。魔力枯渇の症状が出ています」


「そうなんですか? 私はまだまだがんばれますよ!」


「ボクも平気です! でも、先生が止めると言うことは、実際に魔力枯渇が近いんですね」


「はい。エアロさんたちの手でベッドに運ばれたくなければ、今はここまでにするべきです」


「うー。まだ、午後になってすぐなのに……」


「はは……ニーベちゃん。次はもっと効率的なアプローチがないか探してみようよ。先生があんな一瞬でポーションを作れるのは、作ってきた回数以外にもなにか理由があると思うんだ」


「なるほど! その方法が見つかれば、魔力枯渇までの時間を延ばせるかもですね!」


「うん。……そういうわけで、今は机の上を片付けようか」


「はい!」


 ふたりは机の上を綺麗に片付けます。


 錬金術を行う際、汚れや埃などが入ってはいけないと何度も言っているので、整頓の仕方も綺麗ですね。


「片付け、終わりました」


「はい、結構です。それで、このあとふたりのアトリエを借りたいのですが構わないでしょうか?」


「構いません。でも、なにをするんです?」


「冒険者ギルドから一般品質のポーションを大量に依頼されました。なので、それを大量生産したいと思います」


「一般品を大量にですか? それってボクたちではダメなんでしょうか?」


「あなた方は、特定の品質を安定させるより上位のポーションを作っていくのが先決です。それから、冒険者ギルドからの依頼は万単位。あなた方ではこなせませんよ」


「うう、確かにそうです」


「先生! 一回だけ見せてもらいたいです!」


「そうですね。一度だけ見せていただいても構いませんか?」


「まあ、構わないでしょう。それでは始めますよ」


 僕は錬金台の上にそれから、数個の錬金触媒を設置してポーションを作ります。すると完成したのは……。


「これで大体、ポーション作り十回分。ポーション瓶にして五十本分でしょうか」


「やっぱり先生はすごいです!」


「先生、そんな技も持っていたんですね……」


「邪道なやり方なので教えませんよ? 僕でもポーションの品質が一般品質までしか上がらないやり方ですので」


「わかりました!」


「はい。……ところで、ポーションの瓶詰めはどうするのでしょう?」


「それはアリアに任せます。構いませんね、アリア」


「はい。このペースでどんどんポーションを作ってください」


「え、でもひとりでこの量を詰めるには限界が……」


「私が直接やるには無理があります。そこで、魔法を使います」


 アリアが魔法を使うとポーションが舞い上がり、並べられてあったポーション瓶の中に入っていきました。


 あとは同じく魔法でポーション瓶の蓋を閉めるだけです。


「え、魔法ですか?」


「こんな魔法、見たことがないです!」


「私のオリジナル魔法になります。あなた方にもいずれ伝授いたしますので、お楽しみに」


「この魔法があれば、瓶詰めが楽になりますよ。機械を購入してもいいのですが、あれはあれでメンテナンスが面倒だと聞いていますし」


「うわぁ……どちらにしてもすごいのです!」


「はい。ボクたちでもこんなことができると思うと感動してきました」


「さあ、約束通り一回は見せたのですからゆっくり休みなさい。適度な休憩も修行のうちです」


「はい。わかったのです」


「おやすみなさい、先生方」


 ふたりの目もなくなりましたしで行きますかねぇ。


「アリア。初週は一万と言いましたが二万卸すと問題がありそうですか?」


「どうでしょう……? 鑑定師の方々が忙しいのは変わりないでしょうが、最初が多くても問題ないのでは?」


「では、二万本作ってしまいますか」


「そうですわね。受け取りを拒否されたら、翌週に渡せばいいだけですし」


 こうして、僕は全力でポーション作りに励みました。


 結果として二万本以上の一般品ポーションが出来たのですが……まあよしとしましょう。

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