115.カーバンクルの宝石を使った指輪

 弟子たちがいない間に一般品ポーション二万個を作り終え、ささっと片付けてからしばらく。


 ふたりの弟子たちが仮眠を終えて戻ってきました。


 早く練習がしたいという気持ちがあふれかえってますね。


「スヴェイン先生! ちゃんと休んできました!」


「はい、もう大丈夫です」


「結構。……そういえば、カーバンクルの宝石はどうしましたか?」


「あ! まだ、お父様にもお姉様にも相談していません!」


「ボクも忘れていました。普段から忘れないように身につけているんですが」


「そうなんですね。それでは僕の方で指輪にしてしまいましょう。これからは指輪をつけながらの作業になります。指輪の装飾はあまり凝ったものじゃない方がいいですよね?」


「はい! あ、でも、カーバンクルの意匠はほしいです!」


「ボクもニーベちゃんと同じようにカーバンクルの意匠がほしいです。一目でわかるように」


 うーん、カーバンクルの宝石は非常に高価な品なんですが。


 まあ、弟子の頼みですしいいでしょう。


 僕はスケッチボードを取り出すと、一枚の画をサラサラと描いていきます。


 そうして出来上がったのが、指輪のスケッチでした。


 宝石の上下にはカーバンクルの絵を、両サイドにはカーバンクルが走っている姿を描きました。


「このような感じでいかがでしょう?」


「うわぁ、可愛いです! これがいいです!」


「ボクもこれがいいです! でも師匠の手を煩わせてしまうのは……」


「たいしたことはしませんよ。まずは指輪の方を作ってしまいます。ふたりは作業をしていて構いませんよ」


「そう言われても……」


「うん、先生の作業が気になっちゃいます」


「仕方がありませんね。これも勉強です」


 僕は中型の錬金台を取り出し、錬金炉に魔力を送り込みます。


 武具錬成用の錬金台は二十分ほどかかる品ですが、こちらは一分程度で使えるようになりますからね。


 さて、使う素材は……弟子の安全祈願もありますし奮発しますか。


「ほいほいほいっと」


「先生、今なにを入れたんですか?」


「明らかに高価そうなものが混じっていたような……」


「気にしてはいけませんよ。弟子の身を守るためにちょっとしたおまじないをかけるためですから」


「エリナちゃん、先生はエンチャントをかけるつもりです」


「それもボクたちが知らないような高度なエンチャントだよ、きっと」


 そこまで難しいエンチャントをかけるつもりはないんですけどね。


 素材を放り込んだ錬金炉の中から指輪をふたつ取り出します。


 デザインは僕の描いたものと一緒、色は薄い赤色と薄い紫色に分かれています。


 さて、それではこれに魔宝石と同じ要領で魔法を封じ込めていきましょうか。


 とりあえず、【ホーリーウォール】と【フェアリーヒール】は必須。


 あとは常時発動型の【マナアクティベーション】でもかけておきましょう。


 これをかけてけば多少、魔力切れを起こしにくくなるので修行もはかどるでしょう。


 魔力枯渇からの回復も早くなりますし、問題はありません。


 それでは……えいや。


「エリナちゃん、今、指輪が不自然に三回光りました」


「うん、ニーベちゃん。それに、カーバンクルの目が少し輝いている気がする」


「たいしたことはしていません。魔宝石を作るのと同じ方法で魔法を込めただけです」


「先生、なにを込めたんです?」


「それは完成してから説明しましょう。とりあえず、最後のエンチャントを仕上げてしまいますね」


「あ、はい」


 エンチャントもふたりの生活に役立つようなものがいいでしょうね。


 『自動サイズ調整』と『エンチャント最大強化』は必須として、ほかになにを組み込みましょう?


 うーん、魔法とかぶりますが、『魔力急速回復』『負傷急速回復』『生命力急速回復』でいいでしょうかね。


 それに『自己修復』と『強化保護』をつけてっと。


 完成しましたよ!


「先生、指輪が光りましたが、どのようなエンチャントをかけたんですか?」


「それよりも先生。エンチャントが七つもかかった装備って国宝以上ですよ?」


「そんな細かいことは知りません。まずは、使えるようにした魔法ですが【ホーリーウォール】と【フェアリーヒール】、それから常時発動型の【マナアクティベーション】です」


「先生、どれかひとつでもお腹いっぱいです……」


「ボクたち、どうなっちゃうんだろう……」


「魔法の説明は必要ですか?」


「一応、お願いします」


「では。【ホーリーウォール】は神聖な壁をはって相手の攻撃を防御する聖属性の魔法です。今回込めた魔力があればドラゴンブレス程度なら難なく防げるでしょう」


「想定が怖すぎます」


「【フェアリーヒール】は回復魔法の上位属性、命魔法です。魔力の消耗は激しいですが、これを使えば大抵の傷は回復します」


「そんな回復魔法いるのでしょうか?」


「ハイポーション並みの回復力があるそうですから、役立つ機会はあるでしょう。それに、【フェアリーヒール】は他人にかけることも出来るようにしました。なにか不慮の事故が起こった場合、同行者の怪我を回復するときにも使えるでしょう」


「は、はい」


「最後、【マナアクティベーション】ですが、こちらは身につけている間は常時発動になります。効果は魔力回復速度の上昇。あなたたちみたいに魔力をガバガバ使うなら、安心でしょう?」


「それはありがたいです!」


「うん、これでたくさん練習出来ます!」


「魔力切れを起こさないからといい、無制限に勉強していてもいけませんよ。適度に休憩も挟んでください」


「わかりました!」


「はい!」


 威勢はいいですが、わかってないやつですね。


 エアロさんに期待しましょう。


「さて、エンチャントですが、直接的に効果があるのは『魔力急速回復』『負傷急速回復』『生命力急速回復』の三つでしょうか」


「その三つなら効果がわかります! でも【マナアクティベーション】があるのに『魔力急速回復』がついていてもいいのですか?」


「双方の効果が発動しますからね。それに応じた回復速度が得られますよ。ただし、魔力枯渇は普通に起こります。ふたりの最大魔力を高めるためですので、魔力枯渇を起こしたら指輪の力に頼らずベッドで休んでください」


「はい。そうさせていただきます」


「よろしい。そのほかには、『自動サイズ調整』と『エンチャント最大強化』、『自己修復』、『強化保護』がついていますので壊れないし、指輪がはまらなくなることもありません。存分に使い倒してください」


「先生! 待ってください!」


「『エンチャント最大強化』って存在自体が伝説のエンチャントですよ!?」


「そうですか? 僕は普通に使えますよ。他人の装備には基本的にかけませんけど」


「じゃあ、どうして私たちの装備には使ってくれたんです?」


「弟子ですからね。ほぼ身内のようなものです。その代わり、手に入れた技術を悪用することのないようお願いします」


「はい! もちろんです!」


「ボクもそんなことはしないと誓います!」


「大変結構。それではカーバンクルの宝石を渡してください。これをはめ込めば本当に完成です」


 僕は感激しているふたりからカーバンクルの宝石を受け取り、それぞれの指輪を少し変形させて宝石をはめ込みました。


 宝石をはめ込んだら、再度変形させて抜けないようにかぶせ、爪などで抜けないように見せかければ完成ですよ。


 指輪の裏側にはそれぞれの名前も刻んでおくとしましょう。


「さあ、出来ましたよ。指にはめてみてください」


「はい! うわぁ、綺麗です!」


「うん、とっても綺麗! 作業の邪魔にもならないだろうしとっても嬉しいです!」


「それは良かった。指輪の方もきちんと光っていますしエンチャントも魔法も発動していますね」


「そうなんですね! 先生、早速ですが指輪を使いながらの錬金術を試したいです!」


「ボクもです! なんだかいい結果が残せそう」


「構いませんが、ひとつ注意点を。カーバンクルの宝石は、それそのものが魔法力を増幅する力があります。今までと同じ感覚で魔力を流し込めば魔力過剰になりますからね。加減をしっかり見極めてください」


「はい!」


「わかりました!」


 弟子ふたりは本当に嬉しそうに錬金台へと向かっていきました。


 これは数回ほど魔力過剰で失敗ですね。


「あんなことも出来たんですね、スヴェイン


「まあ、奥の手です。アリアの持っているカーバンクルの指輪も作り直しましょう」


「はい! お願いしますわ!」


 ふう、これは僕の指輪も作り直しでしょうね。


 今まで僕たちが使ってきたカーバンクルの指輪には『自動サイズ調整』しかついていませんでしたから。


 自分たちが身につける装備のエンチャントを考えるというのも、たまには悪くないでしょう。

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