新たなる息吹

193.錬金術師ギルド、人材募集

 大嵐を巻き起こしたギルド評議会から何日か過ぎ、ここのところ午前中は弟子たちへの錬金術指導、午後は錬金術師ギルドでギルドマスターのお仕事をこなす毎日です。


 そう、午後は毎日錬金術師ギルドへと来ています。


 そのわけは……。


「……はあ、この人も没、これもダメ。……どうして、こう書類審査の時点で不採用の山ができるのでしょうね?」


「それだけ鹿が多いって事ですよ。……はい、これ


「……そもそも、サブマスターが一次審査で可否を判断、サブマスターがをギルドマスターが最終判断っておかしくないですか?」


「おかしくないです。ギルドマスターに一次審査を任せるとこの倍は不採用が出ます」


「……そこまで酷いんですか?」


「酷いですよ?」


 はい、一般錬金術師に昇格した皆さんにお約束したとおり新しい人材を募集し始めたわけです。


 応募が殺到するとは最初から覚悟していたのですが……悪い意味でここまで酷いとは。


「そもそも職業が『錬金術師』だからって採用しませんって通知は出してますよね?」


「出してます。それでもその多さなんです」


 まったくもって、この国の風習は……。


「面接試験にはあとどれくらいで進めますかねぇ……」


「あと三日もすれば書類選考終了です。応募期間はとっくに過ぎてますから」


「……あと三日」


「あと三日です」


「……弟子の指導に戻りたい」


「本当でしたら私も一日中錬金術師ギルドにいてもらいたいんですよ?」


「……弟子の指導に戻りたい」



********************



「エレオノーラ、応募していた錬金術師ギルドの書類選考結果が届いているわよ」


 ああ、遂に届いたんだ……。


 私、エレオノーラは錬金術師ギルドが主催した講習会に参加した『錬術師』のひとり。


 そこで『夢』を見させてもらった私は、ギルド評議会の掲示板に貼ってあった錬金術師ギルドのギルド員募集案内を見てすぐさま応募してしまった。


 応募条件には【錬金術師系統の職業である十三歳以上二十歳以下でコンソールに住めるもの】とあったし……。


 応募書類に記入することはふたつだけ。


 ひとつは自分の就いている『職業』。


 ふたつ目は『志望動機』。


 たったこれだけしかなかったのに、私は自分の憧れとか夢とかをたくさん書いてしまった。


 きっと、書類選考でダメだったんだろうなぁ……。


「お母さん、代わりに開けて」


「あなたのものでしょう。まったく……」


 だって、勇気が出ないんだもの。


 今回の募集は定員三十名以下ってなってたし、冬にギルド支部が完成したらそのときに再度大量募集をかけるとも書いてあった。


 けど……。


「エレオノーラ! あなた、書類選考通ってるわよ!!」


「え?」


 私は自分でも間抜けな声を出してしまったと感じる。


 いや、だって、あんな応募書類で書類選考に通過するはずが……。


「あなたのものなんだから、ちゃんと読みなさい!!」


「う、うん。本当だ! 書類選考を通過したって書いてある!?」


「ええ、そうよ! 良かったわね!!」


「うん! それで二次審査は……ギルドマスターとサブマスター相手の面談!?」


 なんで!?


 なんで二次審査の時点でギルドマスター様やサブマスター様がお相手なの!?


「お母さん、私、新しい服を買ってくる!」


「そうよね! でも、二次審査では錬金術も実際に行うって書いてあるわよ?」


「ああ、そうなると、着慣れた服じゃないと……」


「どうするの!?」


「どうしよう!?」


 この日は帰ってきたお父さんやお兄ちゃんも巻き込んで一大パニックを巻き起こしてしまったんだよね。


 結局、新しい服は買わずに着慣れた服で行くことになったんだけど……印象悪くならないかなぁ?


 そして数日後、面接試験の日。


 私は憧れの錬金術師ギルドの門をくぐり抜けた。


 どうしよう、これだけでも緊張する!


「お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


「は、はい! エレオノーラです!」


「エレオノーラ様ですね。試験開始は四十五分後予定となっております。四番待合室でお待ちください」


「は、はひ」


 昔の錬金術師ギルドって受付も横暴だって聞いていたんだけど、今の錬金術師ギルドはそんな気配がまったくない。


 それどころかゴミひとつ落ちていないし、すごく綺麗なんだけど……。


 案内された待合室には誰もいなかった。


 それどころか、待てど暮らせど誰ひとりとしてやってこなくて逆に緊張しちゃう。


 早く自分の番が来ますように……。


「エレオノーラ様。試験開始の準備が整いました。試験会場までご案内いたします」


 祈るように待つことしばらく、私の番が回ってきたみたい。


 廊下に出ると係員だろうか、素敵なお姉さんが待っていた。


「は、はい!」


「緊張しなくとも大丈夫ですよ。ギルドマスターも私も悪いようにはしませんから」


「は、はい! って、私?」


「はい。着きましたね。ギルドマスター、次の試験者です」


「どうぞ。入ってもらってください」


「では、どうぞ」


「は、はい、失礼します……」


 私が中に入ると案内してくれたお姉さんも一緒に部屋の中へと入り、


 なんで!?


「初めまして、エレオノーラさん。錬金術師ギルド、ギルドマスターのスヴェインです」


「同じくのミライです。ですよ。エレオノーラさん」


「はい。失格でしたらミライさんがドアの前で追い返すように指示をしてありますから」


 え、え!?


 第三次試験!?


 私、なにを試されていたの!?


「あ、あの……」


「第二次試験の内容は受付で尊大な態度を取らないこと。第三次試験はミライさんを侮った態度を取らないことです。ちなみに、第二次試験で不合格だったものは


 怖い!?


 どこでなにを試されているのかまったくわからないよ!?


 これ、今までどれだけの人が面接まで……。


「ちなみに、第二次試験を通過できたのは全体の四割、第三次試験を合格できたのは更にその半分。まったく、嘆かわしいことです」


 私の心、読まれてる!?


 一体なにが起きているの!?


「エレオノーラさん、ギルドマスターの前で。ありのままの自分でいてください」


「は、はい!」


「よろしい。では、まず最初に錬金術を見せてもらいます。素材は目の前に用意させていただきました。それをお使いください」


「はい!」


 私の目の前にあるのは錬金台、それから……。


「あの、この水は何でしょう? 濾過水にしては綺麗すぎるような……」


「……正解です。その水は蒸留水ですよ。そこに疑問を持ちますか」


「すみません! つい、差し出がましい真似を!?」


「構いませんよ。素材の疑念も晴れたでしょうし錬金術を使ってみせてください。お題はわかりますね?」


「はい。魔力水です」


「よろしい。では、どうぞ」


 うん、素材は違うけど、これは魔力水を作るだけ、魔力水を作るだけ……。


 ……!?


 いつもよりも水が動かしやすい!?


 ダメ、今集中が途切れたら失敗しちゃう!


「……ふむ。『一般品質』の魔力水ですか」


「すみません。私の腕前じゃこれくらいです……」


 普段はなんとか高品質も作れるようになってきたのに、今回は失敗した……。


 錬金術は一回勝負だからやり直しなんてできないし。


「わかりました。最後に志望動機を聞かせていただけますか?」


「え、いいんですか!?」


「志望動機を語りたくないのでしたらそれまでですが……」


「いえ! いくらでも話させていただきます!!」


 そのあとは無我夢中で志望動機を語った……ような気がする。


 自分でもなにを語ったのか思い出せないくらいとにかく話してしまった。


 話し終わったあと、また四番待合室で待つように指示を受けたけど……ダメだよね。



********************



「ミライさん。彼女、どう感じました?」


「ギルドマスター。そう聞くっていうことはもう決定してるんですよね?」


「ええ、まあ。一応意見を聞こうかな、と」


「合格だと思います。腕前はまだまだですけど、そんなことこれからどうにでもなりますから」


「はい。では彼女に帰らせてください」


「わかりました。それにしても、嫌らしい二次試験に三次試験ですよね」


「謙虚さを忘れるような人間に物ごとを教えたくはありませんから」


「同感です」



********************



 ……はい、私、エレオノーラは見習い錬金術師として錬金術師ギルドに入ることとなりました。


 待合室で待たされたあと、サブマスター様がやってきて合格通知と見習い用のローブを手渡してくださり、最初の出勤日まで教えていただきました。


 指定された日に錬金術師ギルドに来るとなぜかへと通され、私と同じ見習い用ローブを着た人たちと一緒に講師の方が来るのを待っています。


 全員が全員早く来すぎたのもあり、指定された時間にはまだかなり早いのですけどね……。


 そんなことを考えていたら部屋のドアがノックされてひとりの少年が入ってきました。


 ……って、ギルドマスター!?


「皆さん、お待たせしたようで申し訳ありません。まさか、全員がこんなに早く集まるとは考えてもいなかったため」


「あ、あの、ギルドマスターがなぜここに?」


「ああ、話していませんでしたね。今現在、コンソールの錬金術師ギルドは非常に人手不足なんです。なので、新人の基礎の基礎は僕自身が徹底的に仕込ませていただきます」


「ぎ、ギルドマスター、自らのご指導……」


「ほかのギルドがどうなっているかは知りませんが、今の錬金術師ギルドはこの体制です。呆けている暇など与えません。全力でついてきなさい。選考では礼節と熱意を買って選ばせていただいたのですから」


 ここからの三日間は本当に怒濤のような、濃密な三日間でした。


 おかげさまで一般品のディスポイズンまでなら確実に作れるようになったのですが……私、見習いですよね?


 ギルドマスターは三日目の終了時点で指導終了となり、代わりに次の指導役となる先輩方を紹介していただけました。


 ですが、ここでも波乱があったようで……。


「ギルドマスター! なにディスポイズンまで仕込んでるんですか!?」


「ポーションまでって前に言ってましたよね!?」


「いやあ、皆さんの熱意がすごいものでつい」


「つい、で指導計画を変えないでください!? 俺たちだって必死で指導内容を考えてきてるんですよ!!」


「ああ、くそ! ギルドマスターってこういう人だったよ! 俺たちもそうだったじゃないか!?」


「十日で高品質ポーションを教えてくださる方だもんな!? そんな方がご自分の目で厳選したギルド員だもんな!? 俺たちの予想なんて裏切っても当然だよな!?」


「すまない! 新人ギルド員諸君!! 明日一日はポーションでもディスポイズンでもいいから自習にしてくれ!! 指導計画を俺たちで練り直してくるから!!」


 どうやら、私たちは先輩方の予想よりも成長させられているみたいです。


 一日は自習となりましたがその翌日からは、あらためて諸先輩方の指導が始まりが始まりました。


 そちらも十日間ほどでものになってしまい……。


 一月目のお給料がお父さんのお給料の三カ月分近い事になっていました。


 事務職員の皆さんに何度も念を押したのですが『歩合による正当な支払いです』と言われてしまって……。


 私、こんなすごいところでやっていけるんでしょうか?

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