192.野望、動き出すとき

 薬草畑の出来事から一夜明け、全ギルド、サブマスターも含め全員参加のギルド評議会が始まりました。


 議題は開始直前まで発表されていません。


 各ギルドへ送られた召喚状には『全ギルド、サブマスターも参加のギルド評議会を開催する。不参加の場合、無条件で賛成したものとする』としか書かれていませんでしたからね。


 この急な呼び出しにどのギルドも……いえ、医療、商業、冒険者、錬金術の四ギルド以外のギルドたちは慌てふためいて参加している様子です。


 定刻三十分前にはすべてのギルドが出そろい、前述の四ギルド以外は各ギルドの様子をうかがい続けていました。


 ある意味滑稽ですね。


 そして、定刻の鐘が鳴り響き


「定刻となった。ギルド評議会を始める。まずは


 議長である医療ギルドマスター、ジェラルドさんが白々しく言い放ちました。


 ですが、それに反応するギルドは……笑いをかみ殺している冒険者ギルドマスターくらいですか。


「さて、本日の議題だが。心して取りかかるように」


「医療ギルドマスター、そのような重要な議題をなぜ伏せておいでなのですかな?」


「鍛冶ギルドマスターに賛成です。早く議題を説明していただきたい」


「その前に今回のギルド評議会にはゲストも参加する。シャルロット公太女様、シュベルトマン侯爵、ご入場を」


 鍛冶ギルドマスターと服飾ギルドマスターが医療ギルドマスターに食ってかかかろうとしましたが、それを無視して議題は進行。


 重要な来賓であるシャルとシュベルトマン侯爵が入場し、医療ギルドマスターの横にふたつの椅子がならべられる事になりました。


「医療ギルドマスター、これはどういう了見ですかな?」


「鍛冶ギルドマスター、少し黙られよ。本日最初の議題を発表する。殿、発表を!」


 これには一部を除き会場内が騒然となりました。


 当然でしょう、議題の発表者を呼ぶときはギルドマスターとして呼ぶことが基本にして絶対。


 そのルールを破り、スヴェインとして発言を許可しているわけですから。


 さて、許可も取り付けたわけですし、このからは立ち去るとしましょう。


「さて、お集まりの皆様。。スヴェイン、にやって参りました」


 錬金術師ギルドマスターの席からシュベルトマン侯爵の隣へ。


 今回の自分の立ち位置はここだぞと言わんばかりに移動しました。


「錬金術師ギルドマスター! ふざけるのも大概に……」


「ふざけているのではないぞ、鍛冶ギルドマスター。スヴェイン殿は私、ビンセント = シュベルトマンと契約を行う相手として臨席いただいている。錬金術師ギルドマスターの席には……ほれ、サブマスターが代理人として座っているではないか」


 はい、僕がいない錬金術師ギルドマスターの席にはミライさんが座っています。


 今回のギルド評議会はですからね。


 錬金術師ギルドマスターがいない以上、サブマスターにいてもらわねば困ります。


「しかしですな……」


「黙りたまえ、鍛冶ギルドマスター。スヴェイン殿、議題をお願いいたします」


「はい。僕が発表するのはです!」


 この発言を聞き、初耳の者たちは一様にうろたえます。


 いいですね、いいですね。


 でも、逃がしませんよ?


「スヴェイン殿、具体的な内容についてもう少し説明を」


「はい。この国のでは職業の優劣で将来が決まるという鹿がはびこっていました。ですが、それは本当にカビどころかです。現実問題として、シュミットでは交霊の儀式後にいくらでも職業を変えることができるのですから!」


「いや、だが、それでは神の与えた……」


「神が与えた? なにをバカなことを言っているのです? 所詮はですよ? それを神の与えた天恵だとでも思い上がっているのならそれこそ神を馬鹿にしている!」


 この言葉に会場内は静まりかえります。


 大なり小なり、〝シュミット〟を受け入れてしまったこの街では僕の発言が正しいと証明されているのですから。


「異論がないのなら話を続けましょう。その上で僕はこう考えます。と!」


「しかし……」


「まあ、こんなことはこの国の風習を吹き飛ばすためのお題目です。ミライさん、具体的な話をまとめた資料の配付、よろしくお願いします」


「はい。スヴェイン様」


 ミライさんが立ち上がり各ギルドマスターとサブマスターに配付されていく資料。


 それを見て目を白黒させるもの、大慌てで資料を読み進めるもの、こんなこと誇大妄想だと最初から読まないもの、反応はそれぞれです。


 でも、


 資料を読み終えるに十分な時間を与えた後、僕は発言を再開します。


「さて、僕のはその資料に記されている通りです。その上で皆さんにお願いしたいこと。それは……」


 僕は一呼吸間を置き、こう続けます。



 この発言に場の空気が一瞬にして張り詰めます。


 当然でしょう、これだけの資料を読まされてなにもお願いがないのですから。


「勘違いしないでください。僕はこの計画をとは一言も述べていません」


「確かに。スヴェイン殿のおっしゃるとおりだ」


 僕の言葉に反応したのは商業ギルドマスターです。


 打ち合わせをしたわけでもないのに、間のいいこと。


「だが、都市ひとつを作るのだ。?」


「当然です。外枠と大まかな建物は。それ以外は僕たちではどうしようもない」


「つまり、商業ギルドとしては大量の発注を覚悟せねばならないな」


「そうなります。お金はたくさんありますので御覚悟を」


「スヴェイン殿の覚悟しろは本当に怖い。現金以外の特級品ポーションやマジックポーションなど現物払いでも我々は喜んで受け付けます……と言いますか、そちらの方がありがたいですな!」


「ではそちらも視野に入れましょう。そのほかのギルドで名乗りを上げる方はいませんか?」


 僕の問いかけに対して次に反応したのは……。


「大まかな建物は作れるって言ったな? 細かいものはどうするんだ?」


「家などは建てられません。手伝っていただけますか? 建築ギルドマスター」


「仕事とあれば飛びつこう。……ああ、そうなってくると深刻に人手が足りねぇ! 本当に下位職だのなんだの言ってられねぇじゃねぇか!」


「当然ですよ。。建築ギルドマスター、あなただって昔はそうだったのでしょう?」


「ああ、そうだよ、こんちくしょう! なんだってこんな若僧に何十年も昔の思いを掘り起こされるんだ!?」


「さて、これでモノと建物は揃いました。ほかには?」


「コンソールと同じ規模の街と述べられましたな。馬車の需要はおありで?」


「当然あるでしょうね。コンソールだって歩きだけで横断するのはつらいでしょう?」


「確かに。では馬車ギルドもお話に加わらせていただきます」


「建物があっても中身が空じゃねぇ。宿屋ギルドも噛ませてもらうよ」


「じゃあ食い物も必要だろう。調理ギルドも加わるよ。製菓もいいね」


「当然ですよ。まったく新しい街に出店する機会など逃せません」


「お、おい!? 当然、冒険者ギルドの居場所もあるんだろうな!?」


「錬金術師ギルドはギルドマスターが発案者です。無条件についていきます」


「人が集まれば怪我や病気も起こるもの。医療ギルドとしても力を貸しましょう」


 そのように続々と集まってくるギルドたち。


 ですが、当然、反発するものもいるわけで……。


「待て、お主ら!? この小僧の口車に乗せられてどうする!!」


「そうだ! ましてやコンソールに隣接する土地を用意するなど……」


 そうですね。


 土地が用意できないのであれば夢物語です。


 ですが、


「土地なら用意することを確約してある」


「は?」


「シュベルトマン侯爵、お気は確かか?」


「正気だとも。その上でシュベルトマン侯爵家として、スヴェイン個人にコンソールに隣接する土地を譲渡する。広さはまだ検討中だが、コンソールよりも広い面積を検討中だ」


 おやおや、高く評価していただけた模様で。


「な、シュベルトマン侯爵。なにを対価に……?」


「それは貴族の秘密だ。だが、受け渡される対価にはコンソールの土地では申し訳ない程大きな対価を用意していただいた」


「まったくです。お兄様はもう少しシュミット公国のことも考えてください」


「すみませんが、僕は僕の野望を優先します。この研究結果がほしいのでしたらシュミット公国もそれ相応の支援を」


「お父様にはもう連絡済みです。返事はしばらく待ってほしいと言うことですから対価に困っているご様子ですよ」


「それは申し訳ない」


 さて、茶番はこれくらいで良いでしょうか。


「では、鍛冶ギルドと服飾ギルドにはご協力いただけないと?」


「当然だ!」


「このような夢物語についていけるか!」


「そうですか。


「わかりました。お兄様用の特別価格で派遣いたします」


「なっ……」


「まっ……」


「最初にことわったはずです。。非常に不本意ながら、シュミット公国を頼ればすべてが揃うのです。それを便参加しませんか、と呼びかけただけのこと。拒否されればそれだけなのですよ」


「さて、どのレベルの講師陣を派遣いたしましょう? お兄様が驚くくらいの講師をご用意したいですね」


「そこまでの金額は払えませんよ?」


「一種の先行投資です。そこで育ったをシュミット公国にスカウトすればいいだけですもの」


「……は、スカウト?」


「なにを聞いていたのだ、お主らは。スヴェイン殿はと最初に言っていたであろう。その資料にも記されている通り、最終的には交霊の儀式直後の子供たちから受け入れ始めたいそうだぞ」


「愚かしいですな。これでは


「まったくだよ。


「な……だが、シュミット公国は侵略を……」


「はい。文化的にも軍事的にも侵略を望みません」


「シャルロット公太女様の言うとおりです。ですが、これは。シュミット公国とは関係ありません」


「な、そんな計画が……」


「残念な事に場所・もの・お金、すべてが揃ってしまいました。講師も最悪すべてシュミット公国から呼べばいいだけのこと。これでは野望ではなく実行待ちの計画ですよ」


「事実、実行待ちなのであろう? 私もこの街での用事が済み次第、領都に戻り割譲の許可を取り付けて戻ってくる。秋には確実に計画を始められるようにしよう」


「楽しみにしていましょう。では、僕の発表はこれまでといたします」


 一部ギルドを除き会場内には大きな熱量が込められています。


 とても良いですね!


「さて、スヴェイン殿の話も終わったようだ。、一度席に戻っていただけるか?」


「はい? わかりました」


 はて、今日の議題はこれだけだったような……。


 ミライさんに席を譲ってもらい僕は錬金術師ギルドマスターの椅子に再び腰掛けます。


「さて、錬金術師ギルドマスターが戻ってきたところで私からの提案だ。議題は『コンソールの完全なる国からの独立』だ」


 医療ギルドマスター、なかなかの爆弾発言をしますね。


 ほとんどのギルドマスターが慌ててますよ。


「我々コンソールは交易都市、独立都市と謳いながらも実質国の支配下にあった。それは国に属していない冒険者ギルドと商業ギルド以外のギルドも同じことだ。スヴェイン殿の学園都市計画が実行段階に移った今、


「お、お待ちください! 医療ギルドマスター!! それでは国のギルドとのつながりは!?」


「当然無くなる。これからは独立都市として国のギルドとも交渉をつけねばならない」


「し、正気か!?」


「正気だとも。錬金術師ギルドマスター、ああいや、スヴェイン殿。友好関係にあれば?」


「狸爺。それが目当てですか」


「さて、なんのことやら」


「ふぅ。まあ、良いでしょう。ただ、僕が契約している聖獣たちが僕が死んだあとどうするかまで責任を持てません。それでも構わないのでしたらご自由に。と、スヴェインとして申し上げます」


「それだけ聞ければ十分ですな。この案に賛成するものは起立を!」


 医療ギルドマスターの呼びかけに応じて一斉に各ギルドマスターが反応します。


 席を立ったのは……。


「お前たち! 全員正気か!?」


「国の後ろ盾を失うのだぞ!!」


 ああ、鍛冶ギルドと服飾ギルド以外の全ギルドでしたか。


 皆さん豪気な事で。


「では、賛成多数だな。各ギルド、国のギルド本部への連絡を忘れぬように」


「ああ、錬金術師ギルドはもう通達済みです。シュベルトマン侯爵が古い体制を一気に引っこ抜いてくれたので内容も刷新いたしました」


「冒険者ギルドは元々独立だからなぁ。まあ、ギルド内部の義理として連絡はするが無視されるだろう」


「商業ギルドもですな。むしろ、意味のない通知に時間と金を使うなとお叱りを受けそうです」


「ふ、ふざけている! 皆、そこの小僧に毒されてしまっているのだ!」


「毒されたのであればそれでも良い。今はコンソールを新しく活気ある街にする最後の機会だ」


「……私は泥船になど乗ってはいられぬ! これで失礼する!」


「私もだ! 行くぞ!」


 鍛冶ギルドマスターと服飾ギルドマスターは席を立ち上がり退場しようとサブマスターたちを促します。


 ですが、各ギルドのサブマスターは動きませんでした。


「申し訳ありません。その命令には従えません」


「何だと!?」


「私もです。去りたいのであればギルドマスターのみお帰りください」


「貴様……!」


 それぞれのギルドマスターがサブマスターに詰め寄ろうとしましたが、衛兵によってそれを妨げられました。


 無様ですね。


「鍛冶ギルドマスター、服飾ギルドマスター。この街を去るのであれば肩書きも捨てていけ。新しいギルドマスターはこの街に残るものから選出させる」


「……ふん!! それでは失礼する!」


「火の海に沈め! 狂信者ども!」


 ……ふむ、『国崩しの聖獣使い』を相手に街を滅ぼせるとお思いなのでしょうか?


 カイザーと互角に渡り合えるものはエンシェントドラゴンでももういないはずなのですが……。


「申し訳ありません。我々の身内が恥をさらしてしまい」


「処罰は私たちの首だけでとどめてくださいますよう申し上げます」


 残された鍛冶ギルドと服飾ギルドのサブマスターが頭を下げました。


 あの者どもを気にする者たちなど誰ひとりとしていないのですが。


「面を上げよ、サブマスターたち。お前たちの非は問わぬ」


「あいつらが勝手に飛び出していったんだもんな」


「そうですな。気にする必要などどこにもありません」


「まったくです。それよりも、各ギルドの再建はできますか?」


「はい、必ず」


「お時間をいただくかも知れませんが成し遂げてみせましょう」


「わかった。それでは本日のギルド評議会はこれにて終了とする!」

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