191.薬草の種と見習い卒業

「やったー! 本当に高品質な薬草の種だぞ!?」


「土壌にはギルドマスターが特別に魔力を送り込んでくれていたとは聞いたが……自分たちで成果を確認できるのは本当に嬉しいな!」


「ああ。これでギルドマスターが長期不在でも薬草不足に怯える心配はなくなったぞ!」


「バカ言え。今度はこれを高品質なままで栽培し続けなくちゃいけないんだよ。ギルドマスターもお弟子様も今度は力を貸してくれない。ここからが本当のスタートだ」


「そうだな、頑張るぞ!」


 朝早くの薬草畑にはそんなやる気に満ちあふれる声が鳴り響いています。


 それを見学しているのは僕のほかにアリアと弟子のニーベちゃんとエリナちゃん、シャル、シュベルトマン侯爵、ティショウさんにジェラルドさん、商業ギルドマスターです。


「良かったです! 心配していたのですよ!」


「そうだよね。先生が手を加えていたと言っても成功するかは半々くらいかな、って感じてたから」


「お兄様、それをあの方々に説明は?」


「そんな無粋な真似はしていませんよ。……さて、シュベルトマン侯爵。結果は見届けていただけたでしょうか」


「ああ、私の目で、しっかりと見届けさせていただいた」


「それはよろしゅうございました。では、こちらを」


「……この本と袋は?」


「本は現時点で僕が知っている薬草栽培の基礎知識から応用方法、採取で気をつけるべき点などをすべてまとめた資料です。袋の中には薬草、魔草、毒消し草、麻痺消し草、上薬草、上魔草それぞれ一般品質の種が一万個ずつ詰められてあります」


「なっ!?」


「対価は以前ご相談させていただいたとおり、


「くっははは! いまだに望まぬか!! !! これだけの知識があれば爵位を授かるのも夢ではないのだぞ!!」


「爵位などがほしいのでしたらシュミット公国から離脱などしません。ほしいのは僕の野望を叶えるための都市です」


「お兄様の野望? それ、聞いたことがありませんよ?」


「妹君にも話していなかったのか?」


「シャルに話せばシュミット公国内でやればいいと言われてしまいますので」


「なるほど、合理的だ。そして、それは私にとって非常に、とてつもなく都合が悪い」


「はい。僕にとってもすべてがシュミットというのは


「うむ。ひとまず、それはしまっておいてもらいたい。対価を渡すには手続きがいるのだ」


「左様ですか。どの程度かかりますか?」


「それほど待たせぬよ。この周辺地域は私の直轄地だ。それを分割割譲するならたいした手間でもない」


「それは助かります」


「だが、?」


「では、


「うむ、楽しみにしている」


 それだけ話すとシュベルトマン侯爵は一歩下がり、代わりにジェラルドさんがそばに来ました。


「話はまとまったようだな」


「ええ。あとは承認とやらがもらえれば動き出します」


「わかった。では、ギルド評議会も開催しよう。ミライサブマスターからはをもう見せてもらっている。あれならば十分に実現可能だ」


「わかりました。可能な限り速やかにギルド評議会を開催していただければと」


「うむ。明日にでも開催できるように手を回す。お主は彼らに言いたいことがあるのだろう。行って参れ」


「では、失礼いたします」


 僕は皆さんに一礼してから畑の中に向かい、いまだに感動を分かち合っている錬金術師たちの元へ向かいます。


「皆さん。薬草栽培、ご苦労様でした」


「いえ、これもギルドマスターのご指導があってこそです!」


「本当にありがとうございます!」


「ではそうしておきましょう。それでは、僕からあなたたちひとりひとりに渡す品があります。順番に受け取りなさい」


 僕が渡していくのは


 この国の錬金術師体系にはない色のローブに皆さん戸惑いを隠せていませんね。


「さて、僕が皆さんに渡したローブはです」


「え、あの。ギルドマスター。この国の錬金術師ギルドでは……」


「コンソールの錬金術師ギルドは。なので、ローブの色も刷新いたします」


「え?」


「言い直しましょう。コンソールの錬金術師ギルドは。もう古いしきたりは存在しません」


 はい、古い体質はもう存在しません。


 居残っていた一般錬金術師たちもシュベルトマン侯爵の誘いに乗ってこの街から去って行きました。


 ギルドからもを出していますし、二度とこの街へは顔を見せないでしょう。


「あ、じゃあ、俺たち、本当に?」


「ええ。肩書きも正式に見習いではなくなります。まだクラス分けしていないので申し訳ないのですが、一般錬金術師に格上げです」


「「「おお!」」」


「おや、皆さん。反応が薄いですね?」


「ああ、いや。待遇が変わるわけじゃないですよね?」


「今まで一般錬金術師が使っていた広いアトリエに移れますが、どうします?」


「ああ……いや、いいです。今更移動したくありません」


「ほかの方々も同意見ですか?」


「「「はい」」」


「では、部屋の移動はなしで。お給金は……」


「「「今でももらいすぎです」」」


「適正金額だそうですよ。経理的に。ですが、お仕事は増えるので、その分の手当は増やさせていただきます」


「仕事?」


「『元』一般錬金術師がいなくなった事で錬金術師ギルドに多少とは言えスペースができました。なので、新人錬金術師を加入させたいと考えています」


「「「おお!!」」」


「そちらの指導ですが、最初の数日は僕が担当します。それ以降はあなた方にお任せいたします。やれないとは言わせません」


「ちなみにギルドマスターはどこまで仕込む予定ですか?」


「ポーションの一般品質安定でしょうか」


「っていうことは俺たちはまずディスポイズンからか」


「それと並行してマジックポーションの作り方も座学で教えた方が効率的じゃないか?」


「だが……」


「こらこら。指導計画はギルドに帰ったあとから考えてください」


「すみません、ギルドマスター。俺たちが教える立場になるかと思うとつい逸ってしまって」


「気持ちはわからないでもないです。ですが、募集人数に対して応募人数は非常に多くなるでしょう。僕は予定です」


「はい。教える側としてもそちらの方が助かります」


「いろいろと手立ては考えますが、それでも少数精鋭になってしまいます。決して気を抜かないように。僕のときのようにあとから来たものに立場を譲り渡すような失態はまだ認められません」


「当然です。俺たちだってそんな生半可な覚悟で半年を過ごしてきたわけじゃありません」


「十分です。最後になってしまいましたがそのワンドについて。それは土魔法を使うときの補助具としての役割がひとつ、それからこの薬草畑への出入りをする鍵にもなっています」


「鍵……ですか?」


「はい。いつまでも弟子から借り物をし続けるわけに参りません。なので、このあとこの畑の周囲を僕の幻影結界と遮音結界、不可視結界、遮断結界で覆い隠します」


「……ずいぶん頑丈ですね」


「それだけ今の薬草栽培は秘匿事項だと考えてください。あなた方でもワンドを持っていなければ、この畑に気付くことすらできないようにしますのでご注意を」


「わかりました。これから出歩くときは常に携帯します」


「よろしくお願いします。ああ、それともうひとつだけ渡すものがありました」


 僕は全員の手の上に腰にぶら下げられるようなサイズの革袋を渡していきます。


 その際は


「あの、この革袋は?」


「記念品のマジックバッグです。個人認証もかけてしまいました。どうぞ、ご自由に使い倒してください」


「ま、マジックバッグ!?」


「本当ですか!?」


「はい。容量三十倍程度のものですが本物です。これからは一人前の錬金術師です。は常に持ち歩くように」


「……ギルドマスター。このあとお昼までおやすみをいただいてもよろしいでしょうか?」


「あ、ずりぃ!」


「抜け駆けしようとするな!」


「全員午後からの集合で結構です。時間を有効に使い準備を怠ることのないよう心がけてください」


「はい! ギルドマスターに追い出された連中のような無様はみせません!」


「結構。では、一端解散にします」


 その言葉を聞くと我先にと走り出していく錬金術師たち。


 でしたが、その場に商業ギルドマスターがいることに気がつくと彼に対して質問攻めを行い始めます。


 商業ギルドマスターも手慣れたものでひとりひとりに適切なお店を紹介しているようですね。


 やり手の商人は違います。

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