203.ギルド評議会、拠点帰還前
「とまあ、アトモさんとその門下生に加わっていただけたおかげで、ごく少数ですが錬金術師ギルドにも人数が増えました」
アトモさんが加わって以降初めてのギルド評議会。
議題は『改革の進捗状況について』です。
ですが、改革が一番停滞しているのって錬金術師ギルドなんですよねぇ。
「わかった。錬金術師ギルドは支部ができるまではなにもできぬ状況か?」
「その答えは私から」
どうやら僕に代わってミライさんが説明してくれるようです。
最近、錬金術師ギルドの仕事に関われなかったため助かります。
「錬金術師ギルド支部は二カ月後に完成する予定と建築ギルドより連絡を受けております。ですが、箱ができても人を育てられる人材がおりません」
あー、指導者不足ですか。
それはどうにもなりませんね。
「一般錬金術師どもはどうなんだ? いま見習いを教えているんだろう?」
冒険者ギルドマスターの質問にもミライさんはきっぱりと否定します。
「はい。見習いを教えています。見習いを教えているからこそ手が離せません。一般錬金術師の話では今の見習いが一般レベルまで育つのに冬までかかりそうだと。なので、次の募集は冬になります」
「それは歯がゆいですね。僕がもっと教えてあげられればいいのですが」
「ギルドマスター、心にもないことを言わないでください。ギルドマスターを『カーバンクル』様方から三日間占有するだけでも苦情が来るんです。新人を大量雇用してそれをすべてギルドマスターが教えることなど到底不可能です」
「……面目ない」
苦情、ミライさんにもいってるんですね。
あの子たちも最近は遠慮がなくなってきました。
「と言うわけでして、ギルド支部の稼働は今冬以降になります。それも最初は百人程度を受け入れられればいい方です」
「百人ですか。今回の三十人でもかなり厳しかったと聞きますが受け入れに不満は出ませんか?」
今度は商業ギルドマスターです。
商業ギルドも商材としてポーションを大量に購入しているので気になるのでしょう。
「不満は出ています。実際、今回の募集でも書類選考で不採用だった勘違い者は放っておくとして、二次選考、三次選考で不採用だったものからは不満が出ております」
「ふむ。選考内容は各ギルドの専決事項だが、内容を聞いてもいいかね?」
「はい。二次選考は受付で尊大な態度を取らないことでした。この時点で六割のものが失格。次の三次選考は待合室まで呼びに来た私を見下した態度を取らないことです。この試験でも更に半数が脱落です」
「ミライの嬢ちゃんがサブマスターだなんて見たことない人間じゃわからないからなぁ……」
「不意打ちされても礼節を欠かさないことが大切、と言うのがギルドマスターのいい分です」
「了解した。それらの者たちに対してはどうすることにしたのかね?」
「この街在住のものに対しては家に対して抗議文を、この街以外の人間に対しては帰りの費用を送りつけました」
「やるねぇ、ミライの嬢ちゃん」
「ギルドマスターに鍛えられてきましたもので」
僕、そんなに無理難題を押しつけてきましたっけ?
「ともかく、礼節を欠いた者たちに対する対処は以上です」
「そうか。では最終試験。面接で落とされたものは?」
「ギルドマスターが不適格と判断したものは全員不合格としました。ですが、私が合格圏内だと判断した方についてはつなぎ止めをしています」
「つなぎ止め?」
「はい。初心者向けの錬金台と蒸留水の作り方についての解説書および大銀貨五枚、それから錬金術師ギルドより薬草を買う権利を与えてあります。この街以外のものは故郷へ帰るもよし、この街に残って薬草を買いポーションを作ってもよしとしました。それから、完成したポーションのうち蒸留水で作った一般品質以上のものは錬金術師ギルドで買い取ってもいます」
「ミライさん、そんな報告受けてませんよ?」
「申し訳ありません。忘れていました。ギルドマスター以外の決裁は通ってますのでご心配なく」
「……本当にやるようになったな、ミライの嬢ちゃん」
「ギルドマスターに鍛えられてきました」
本当に僕ってそこまで無理難題を言ってきましたかね?
「人材のつなぎ止めができているならばよい。しかし、錬金術師ギルドの人材の少なさは深刻だな」
「本当に申し訳ありません。シャルロット公太女様には講師の派遣を幾度となくお願いしているのですが……」
「スヴェイン以上がいないってんで断られてるんだろう?」
「はい。ギルドマスターがいる以上、ほかの講師を派遣しても萎縮するか奮起しすぎて空回りするかのどちらかだと」
「錬金術師ギルドマスターが不在の間だけというのは?」
「その案も出したのですが『お兄様のギルドをかき乱す真似はできません』とにべもなく」
「八方塞がりか」
「ですね。少しずつ増やしていくしかありません」
「商業ギルドとしてはじれったいのですが……不良品が混じってはせっかくの『コンソールブランド』に傷がつきます」
コンソールブランド、ですか。
最近、街でよく噂を耳にするようになりました。
「商業ギルドマスター。ポーションでも『コンソールブランド』は売れているのですか?」
「無論です、錬金術師ギルドマスター。むしろ『コンソールブランド』の始まりはポーションなのですから」
「……そういえばそうでしたね」
始まりは商業ギルドマスターが、まだ見習いだった一般錬金術師たちの高品質ポーションなどを売り歩いたことでしたっけ。
「いやはや、あれからまだ二カ月程度というのにコンソールの街は様変わりいたしました」
「『コンソールブランド』か。商業ギルドマスター、ポーション以外での売れ行きは?」
「そうですね……次点では馬車です。乗り心地がまったく違うと上流階級の皆様に大好評です」
「それは嬉しい限りです」
商業ギルドマスターの言葉に馬車ギルドマスターが応えました。
馬車ギルドもフル稼働して、一カ月待ちだとか。
喜ばしい事です。
「それ以外ではどうなのだ?」
「その次はアクセサリーなど宝飾ギルドの作品です。こちらも売れ筋は上流階級の皆様ですが、安めの品は平民の皆様でも少し背伸びをすれば手が届くので大変喜ばれています」
「私どもの作品をお手にとっていただけるとは、光栄です」
宝飾ギルドも改革が進んでいますからね。
かなりの儲けが出ているのでしょう。
「鍛冶と服飾の進捗はどうなっている?」
「頭が固かった前ギルドマスターとその一派の影響が痛いです」
「彼らが抜けたことにより急ピッチで改革が進んでいます。ですが、差別化まで進んでいるかと言われると怪しいかと」
コンソールの街が独立する事を拒み飛び出していった前鍛冶ギルドマスターと前服飾ギルドマスター。
彼らに賛同したものもそこそこいたそうですが、多くはこの街を捨てきれず残ったそうです。
そういった者たちに対してシュミット公国の講師たちが後れを取り戻すためのスパルタ指導を行っていると聞きますが……シュミット流は仕上げにエンチャントを使えて一人前、道は長そうですね。
「そういう医療ギルドはどうなんだい?」
「我々は順調そのものだな。講師たちからの的確なアドバイスを元に日夜改善に努めている。冒険者ギルドは?」
「こっちもようやく様になってきたところだ。一般技能講師に『才能のなさ』を教え込まれたものが特殊技能講師に生き残る術を学び始めた。問題があるとすれば、物見遊山でコンソールの街に来た冒険者たちとコンソールを拠点にする冒険者が衝突することだが街に迷惑はかけないように指導している」
コンソールの街にはかなりの冒険者がやってくるようになりましたからね。
街中で衝突が起こらないように細心の注意を払っているみたいです。
「『コンソールブランド』、特に『カーバンクル』は垂涎の的ですからな」
「スヴェイン、弟子の警護は大丈夫なんだろうな?」
「なにかは教えませんが聖獣が守りについています。万に一つもありえません」
「ならよし。最近は街中をぴょんぴょん跳ね回っているそうじゃねえか」
「この間、社会教育へと連れ出したのですが、そのとき掘り出し物を見つける楽しさに目覚めてしまったみたいでして」
「掘り出し物ですか。基本的にはどのようなものを?」
「基本は宝石の原石や小粒のものを。ときどき、妖精の卵がついたアクセサリーなどを買ってきています」
「妖精の卵、ですか」
「はい。妖精の卵を孵す事によって本人に妖精が宿るようになります。そうすれば、妖精の属性に応じた魔力の行使が楽になりますからね」
「……さすが、『カーバンクル』です。目も肥えている」
「本人たちは無自覚なんですけどね」
無自覚だからこそ怖いのですが。
このままでは本当に、僕とアリアのハイブリッド型になってしまいます。
「『カーバンクル』の指導はどこまで行っている?」
「この場でお伝えするほどでは。それなりに、とだけ」
あまり弟子の情報は漏らしませんよ?
「美食を求めてやってくるものも増えてきたと聞く。それに伴い、宿屋にも多くの宿泊客がやってきているようだ。実に好ましい」
「まったくですな。ですがそうなってくると……」
「うむ、そろそろ国も動きかねない。スヴェイン殿お力添えを願えるか?」
今日の本題がようやく始まりましたね。
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