204.ギルド評議会、スヴェインの提供する戦力

 さて、僕の提供できる戦力ですか。


 困りましたね。


「どうしたのだ、スヴェイン殿」


「まさか、提供できる戦力がねえってわけじゃないだろう?」


「もちろんです。ただ、どの程度を『提供』すればよいのか……」


 ここの線引きが困ります。


 小さなものでは侮られて攻め込まれるし、大きなものでは怖がられるし……。


「ちなみに提供できる最大戦力ってなにでしょう、ギルドマスター」


「一部の方は知ってますがエンシェントホーリードラゴンです」


 その言葉に会場が一気に騒然となります。


 ですよねぇ。


 エンシェントホーリードラゴンが街のそばに住み着くわけですからね。


「エンシェントホーリードラゴンつっても害はないんだろう?」


「はい。数カ月に一度、数時間は僕の拠点に戻って魔力を蓄える必要がありますが、その間はバハムートにでも代行させましょう」


「いや、お前、どっちも神話上の生物だからな?」


「そうですか? バハムートはわりと簡単に見つかりますよ?」


 雲の遙か上を飛んでいれば。


 そういう意味では……。


「クラウドドラゴンなんかも次点で上げあられます。でも彼、あまり地上付近に近づいてくれないんですよね」


「お前と話していると神話が身近になっちまう」


「あとは各種ドラゴンが数体います。防衛戦力としてはこれくらいでしょうか」


 会場の皆さんは完全に絶句です。


 ですよねぇ。


 ドラゴンがわんさか出てくるんですから。


「は、話はわかった。もっと穏やかな防衛戦力はないのか?」


「うーん。穏やかな防衛戦力でしたらんですよ」


「なに?」


「始まりは……僕が去年の秋にこの街を訪れた事でしょうか。そのときは聖獣の主が変わったところにいるぞ、程度にしか考えられていなかったのですが、冬には長居しすぎました。そして弟子たちに聖獣を与えたことから、なにかあるぞ、と考え小型の聖獣が姿を隠して集まり始めたのがきっかけです」


「話を続けてくれたまえ」


「致命的だったのは、今年の夏に僕たちがペガサスなどで乗り付けた事です。それを見た聖獣たちは。この街は面白そう! という結論に至ったわけでして」


「じゃあ、なにか? 実はその辺に姿を隠した聖獣がウロチョロしてるってのか?」


「はい。と言うか、この会議場内にも一匹紛れ込んでいます」


「な!?」


「ご心配なく。聖獣たちは秘密の会議や打ち合わせの内容を聞いたとしても、それを他者に教えることはありません。例外があるとすれば、正当な理由がある場合に忍び込み会話内容などを調べるときくらいです」


「正当な理由ってのは?」


「悪事を……それも魔獣や精霊、聖獣、人間などを密売しているような連中の動向を探るときです。このときは精霊も聖獣も進んで力を貸してくれます。単なる盗賊だのなんだのでは基本動きません」


 ここまで語ると一種の安堵感にも満ちた溜息がこぼれました。


 聖獣はそんなに過激じゃないですよ。


 いたずら好きですが。


「それで、中型の聖獣を防衛戦力として借り受けることは可能なのかね?」


「不可能ではありませんが……おすすめしません」


「そいつはなぜだ?」


「単純に、戦闘を仕掛けられてしまうからです。そうなると聖獣たちにも人殺しをさせなければいけなくなってしまう。正当な理由なく人殺しをした聖獣たちは、聖獣の森や泉で身を清める必要が生まれてきます。それでは戦力として貸し出す意味がない」


「む……悩ましいな。大型の聖獣では人々を驚かせてしまう。かといって中型の聖獣では意味をなさない。なにかいい案はないかね」


「僕としては大型の聖獣に長期間居座ってもらって慣れてもらうしか。大型の聖獣とはいえ、基本的に攻撃されなければ無害ですし人なつっこいです。危険がないことがわかってもらえれば、彫像のようなものと言う認識になりますよ」


「聖獣が彫像……」


「さすが『国崩しの聖獣使い』スケールが違う……」


「提案はわかった。私としてはスヴェイン殿の言うとおり大型の聖獣に居座ってもらうよりほかないと考える」


「だわなぁ。攻め込まれる前に逃げ帰ってくれればそれに越したことはない」


「ですな。商人や冒険者は最初は驚くでしょうが」


「なにか芸でもやらせますか?」


「それもやめてくれ。余計怖がられる」


 残念です……。


 いい案かと感じたのに。


「それで、スヴェイン殿。聖獣たちはいつから呼べるのだ?」


「僕が念じればいまからでも。僕と精神がリンクしているので、皆、今か今かと待ち望んでいる状態です」


「そうか。だが、衛兵や冒険者への通達に時間がかかる。三日後とさせてほしい」


「わかりました。聖獣たちは『とても残念だ』そうですよ」


「それほどまでにこの街へと来たかったのかね?」


「僕が長居した街が気になるのでしょう。……ああ、それと注意点がもう一点」


「なにかな。もう大抵の事では驚かないつもりだが」


「はい。聖獣たちが長く棲み着き始めると、ほかの聖獣や精霊、妖精たちが寄り集まってきます。いまは大人しく姿を隠していますが、やがて姿を隠すのもやめるでしょう。そのとき、この街でうまく共存できるように手配を」


「その程度か。また、無理難題を言い渡されるのかと考えたぞ」


「シャルに聞けばわかりますが、聖獣の集まる数は半端じゃなくなりますよ? あちらを見てもこちらを見てもなにかしらの聖獣や精霊がいる状況になります」


「……街の出入り口に竜が棲み着くんだ。今更だろう」


「それもそうかも知れませんね」


「では、今回の評議会は終了……」


「え、なに、あいさつがしたい? 普段あなたは人前に出ないし喋らないでしょう? 驚かせるだけですよね?」


「スヴェイン殿、いかがしたのか」


「……この評議会に紛れ込んでいた聖獣があいさつをしたいと言い始めました」


「いいんじゃねぇのか?」


「この種族は滅多な事じゃ透明化を解かないし、念話も使いません。皆さんを驚かせたいだけですよ?」


「構わぬよ。その聖獣を見せてくれ」


「……わかりました。いいですよ、タイガーアイ」


 僕のとなりから姿を現したのは真っ黒な虎。


 額には金色の宝石が輝いています。


『ヨロシクナ、ニンゲンタチ』


 それだけ告げると、また姿を消しました。


 それを見た評議会の皆さんは……驚いてますよねぇ。


「だから言ったでしょう。驚かせたいだけだと」


「……驚いた。だが、聖獣ってのも茶目っ気があるんだなぁ」


「聖獣の本質は無垢なものには非常に優しく、牙を向けてくるものには非常に獰猛です。そして、人里で暮らす分にはルールを守りますが、野山に出ると奔放に暮らします」


「そういえば九尾の狐は毎日子供たちと遊んでいるとか」


「あれはセティ師匠の意向もありますけどね。ウィングやユニも加わっているあたり、子供たちの相手は楽しいのでしょう。聖獣たちが増えてくれば至る所でそのような光景が見られますよ」


「なるほど。子供たちに害はないのだな?」


「聖獣は基本的に初歩的な回復魔法を使えます。多少の擦り傷なら問題ありません」


「ならばいいだろう。あとは、エンシェントホーリードラゴンたちとの面通しだな」


「そちらの手配はお願いします。彼らには三日後のお昼過ぎにやってくるよう手配しますから」


「承知した。ではこれにて評議会を終了する」


 聖獣と一緒に暮らすというのはそう簡単な事ではないのですが……まあいいでしょう。


 僕の作る街では大々的に呼び込むつもりですし、慣れていただかねば。



********************



「はー、これがエンシェントホーリードラゴン。街壁なんて目じゃねえな」


「バハムートもそうだ。怒らせてしまえば一時間とたたずに街が滅ぶ」


「それ以外のドラゴンたちも街壁並みの大きさとは……恐れ入ります」


 約束の三日後、お昼過ぎ。


 面通しと言うことでエンシェントホーリードラゴンやバハムート、ホーリードラゴンなどに集まっていただきました。


「それぞれの名は?」


「エンシェントホーリードラゴンは『カイザー』、バハムートは『チャリオット』 、ホーリードラゴンは『ジャンプ』、フレアドラゴンは『ブラスト』です。今日この場にいないドラゴンたちは、来たときにでもあいさつさせましょう」


「まだいるのかね」


「物見遊山がてら来たがっている者たちはたくさんいます。竜同士にしかわからない勝負で勝ったこの子たちが今日来ました」


「そ、そうか。それで、街の防備は任せてしまっても構わないのですかな」


『街の防備と言っても普段は寝そべっているだけで十分であろう。人間どもが攻めて来たときに威嚇するだけの話だ』


『それでも聞かなければ……ブレスはもったいないな。翼の羽ばたきひとつではじき飛ばしてくれよう』


『チャリオットはうらやましいです。私たちは突撃ですかね』


『そうなると聖獣の泉が近場にほしいな。そこのところ、どうなんだい、主様』


「交渉してみます。土地をたくさんいただければ水の精たちや水棲の聖獣たちが暮らせるように聖獣の泉なども整備しましょう」


『さすが。話がわかる』


『では、それに期待しましょう』


『我々は、勝手に聖獣の森などを作らないように言い聞かせる役目も担おう』


『聖獣どもは自由だからな。放っておけば一帯が聖獣の森と化す』


「それはいけませんね。貴重な薬草類は大量に入手できますがモンスターがいなくなります。冒険者の方々には死活問題です」


『だろうな。我々が威圧すれば言うことを聞くであろう』


『魔力補給に『聖獣郷』へ帰ることもありますが、ローテーションを組んでいますのでご容赦を』


「わかりました。お願いします」


『人間どもも我々を見て挑もうなどと言う無謀ものは極少数だろう』


「いたら追い払ってください。間違えても大怪我をさせぬよう」


『わかっている。では、警護……いや、少し離れたあたりで休憩させてもらおうか』


『では、私も。なにかあったら遠慮なく』


 竜たちはそれぞれ別の街道付近で寝そべり始めました。


 これだけで効果は絶大でしょう。


「これは冒険者だけではなく、街を訪れる商人たちにもお触れを出して回らねばなりませんね」


「そうしていただけますか。冒険者の剣や槍、弓矢でチクチクされても気にしないはずですが」


「気にしないのかよ」


「エンシェントホーリードラゴンなんて、ティショウさんに渡した武器でも傷をつけることができません」


「恐ろしいな」


 これで防衛力は万全。


 あとはシュベルトマン侯爵がお戻りになる前に割譲していただける土地の再確認と参りましょう。


 それから弟子たちへの課題作成ですね。

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