205.正式な割譲地域
コンソールに防衛戦力としてドラゴンが住み着いたあとのある日。
領都へと戻る準備をしていたシュベルトマン侯爵に錬金術師ギルドマスタールームまでご足労いただきました。
メンバーはシュベルトマン侯爵のほか薬草栽培について知っているジェラルドさん、ティショウさん、商業ギルドマスター、ミライさんです。
議題は『僕へと割譲していただける土地の正式な範囲予定について』です。
「スヴェイン殿からこのような話が出るとは考えてもみなかったぞ」
「申し訳ありません。前回とはかなり事情が異なってきてしまい」
「ふむ。話を聞こうか」
「はい。街の外に僕の契約している竜たちが防衛戦力として棲み着き始めているのはさすがにご存じですよね?」
「ああ。私も見学に行かせていただいた。エンシェントホーリードラゴンとは街壁よりも巨大なのだな」
「それでですね。実はこの街もシュミット公国公都シュミットと同じ状況になりつつあります」
「と言うと?」
「聖獣や精霊、妖精たちが集まり始めてきているのです」
「な……それをギルド評議会では?」
「『一応』話しました。ですが、一度集まり始まると追い出せないのが聖獣たち。もう共存するしか道は残されていません」
「……話は……理解できないが、聞いた。それで、事情が変わったというのは?」
「ええと、申し上げにくいのですが、聖獣たちが集まってくると勝手に『聖獣の森』を作り始めます。いまはエンシェントホーリードラゴンやバハムートたちがにらみをきかせて押さえ込んでいますが、それも一年ともたないでしょう」
「『聖獣の森』とは? 聞かない名称なんだが……」
「言葉通り、聖獣たちが暮らす森です。聖獣たちは自分たちの暮らす森を聖域として作り替え、モンスターなどを追い払ってしまいます」
「それは……いや、冒険者などを考えると一概に良いこととは言えぬか」
「はい。聖獣の森に密猟者が入れば生きて帰ることは困難ですが、悪意なく迷い込めば聖獣たちは優しく帰り道を教えてくれますし、森の恵みを無理のない範囲で分けていただこうとすれば貴重な薬草や果実を分けてくれます」
「ふむ。聖獣の森を作ることはメリットが大きいな」
「はい。それから、ドラゴンたちから要望が出たのですが『聖獣の泉』も整備してもらいたいと」
「それは『聖獣の森』の湖版か?」
「そうなります。整備すれば、どこからともなく水の聖獣や水の精霊が住み始めます。その泉を川などにつなげれば、川の水も浄化され川の恵みもより多くなるでしょう」
「困ったな。為政者としても私個人としてもメリットしか感じない」
「でしょうね。それに聖獣の森では木材を取る許可をもらえば良質な木材を分けてもらえます。しかもその木は一週間もすれば復元いたします」
「それはコンソールとしてもこれから作る学園都市としても多大なメリットになるのでは?」
「はい。しかも、その木材は魔法でコーティングしてしまえばよほどのことがないと燃えない建材になります。……はっきり言いましてメリットしかないのです」
「……実に困った。その木材は我が領内にも輸出してもらえるのか?」
「しばらくはコンソールや学園都市優先とさせていただきますが、もちろん輸出も考えています」
「……よし、わかった。割譲する土地の範囲を変更しよう。どの程度の土地がほしい?」
さすがはシュベルトマン侯爵です。
思い切りがいい。
「そうですね。まずはコンソールの西側一帯。こちらは山肌となっているため、なににも利用されておりません。こちら側に小規模な『聖獣の泉』をまず作ります」
「そのメリットは?」
「小型の聖獣や精霊たちの遊び場兼コンソールの井戸水の浄化です。これだけ近くに『聖獣の泉』があれば否応なしに水は浄化されます」
「問題ないな。コンソールとしては?」
「使っていない土地を有効活用していただけるのです。何ら問題ないかと」
「先ほど小規模なと言ったな、大規模な『聖獣の泉』はどこに作る?」
「できれば……このあたりが好ましいです」
「ふむ。川にも適度に近い。どの程度の土地を使う?」
「ドラゴンたちが水浴びできる程度の広さを考えています。……ああ、灌漑工事はすべて僕とアリアの魔法で行いますのでご心配なく」
「そこも使っていない土地だ、渡してもさほど痛くはない。さすがにドラゴンたちが水浴びする、と言う言葉には驚いたが」
「彼ら意外ときれい好きですよ? 地中に潜っているタイプ以外は」
「そうなのか。お主と話していると感覚が狂うが……今更だな」
「今更です。それで、本命の学園都市がここ」
「それは変更なしか」
変更するとめんどくさいんですよね。
「まあ、そんな感じです。そしていただきたい森がこの範囲」
「……それっぽっちでいいのか?」
「多分、十年もすれば学園都市の周囲まで森が広がっていきます。ここまでしかダメだ! とストップをかけないと森一帯が聖獣の森化してしまいます」
「その程度で本当に良いのか? 私としてはもっと広大な土地を覚悟していたのだが」
「それでは……このあたりの土地もください。薬草園のほか、様々な樹木や草花を栽培したいと考えています」
「休耕地だぞ? 一から耕さねばならぬのだぞ?」
「僕たちなら造作もありません。正式な許可をいただければ聖獣たちを見張り番にして外部からは隔離いたします。そうすれば妖精たちが勝手に集まって、薬草や魔草を含む霊草類を勝手に栽培し始めます。……さすがに最初に土地を耕すのは僕たちの役目ですが」
「この規模の土地で薬草栽培か……」
「薬草だけじゃありませんよ? 土地の条件が整い始めたら上薬草や上魔草なんかも勝手に作り始めます。ああ、それらは錬金術師ギルド外、もっと言うなら僕のストレージ以外には出さない事をお約束しますのでご安心を」
「これはのんびりしていると『コンソールブランド』だけで、すべてのポーション類を独占されてしまうな」
「残念ながら人手が集まらないので数年は大丈夫です。その間にシェアを奪ってください」
「承知した。これは一大革命になるぞ! 頭の固い者どもの首は派手に飛ぶがな!」
「そこまでは手出しできないのでお任せいたします。シャルもコンソール以外の街でしたら喜んで錬金術師ギルドの講師を派遣するでしょう」
「……そういえば、なぜコンソールの街には錬金術師ギルドの講師が派遣されてこない?」
「……僕がいるから、だそうです」
「そういえば、スヴェイン殿が各ギルドに顔を見せたときの講師陣はやる気をみなぎらせていたな」
「そういうわけです」
「わかった。それで、この地方の名前はどうする?」
「地方の名前?」
「私の直轄地内とはいえこれだけの土地を有するのだ。地方名があった方がいいだろう」
「スヴェイン地方でいいんじゃねえ?」
ティショウさん、余計な事は言わないでください。
「まあ、わかりやすいな」
「そうですな。革命者の名前がつくなどよくある話です」
「異論はありません」
「では……」
「僕に異論があります! コンソール地方かいずれ決まる学園都市の名前にしてください!」
「そうか。では仮称として『スヴェイン地方』にしておこう。家臣に話をするときにわかりやすい」
スヴェイン地方は変わらないのですね……。
仕方がない、とりあえず諦めて早く学園都市の名前を決めましょう。
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