202.アトモ門下の入門試験

 入門試験を行うという事で二階にあった『元』熟練錬金術師のアトリエだった場所へ移動します。


 この部屋も清掃員の方々に掃除をお願いしているのですが、誰も使っていないし無駄なんですよね。


 それなり以上に広いのに。


「ギルドマスター、どうなさいました? 溜息などついて」


 僕が溜息をこぼしたところを、ミライさんが目ざとく見つけてくれました。


「いえ、この部屋ももったいないなと。清掃だけして誰も使わないのでは費用の無駄です」


「ギルドマスターがお使いになっては?」


「こんな使いにくい部屋、ごめんです」


 この部屋、ものの配置がグチャグチャで扱いにくい事この上ないのです。


 使うとしたら壮大にリフォームしなくては。


「そういえば。三階にはギルドマスター用の研究室が発見されましたよ」


「……そんなものあったんですか?」


「あったみたいです。清掃員の皆さんが二週間かけてようやく中を綺麗にするほど散らかっていた惨状でしたが」


「そうですか。あとで確認してみます」


「リフォーム予算はギルドで負担するのでギルドマスターのアトリエにしてください。いい加減、ギルドマスターがアトリエを持っていないというのは対外的に示しがつきません」


「建築ギルドと相談してみます。……さて、お待たせしました皆さん。それでは入門試験……いえ、ランクわけ試験を開始したいと思います」


 僕とミライさんが雑談を続けると止まりませんからね。


 ギルドマスター用のアトリエは気になりますが、明日以降にしましょう。


「待ちくたびれましたぞ。それで、試験内容は?」


「たいした内容ではありません。。ただし、使うのは錬金術のみ、一回勝負です」


「……失礼ですが、我が門下生を侮られては困りますな」


「そうでしょうか。まあ、用意する素材をご確認ください」


 僕はストレージにしまってある素材を机の上へと並べていきます。


 それを見て、アトモさんを含めた門下生一同に広がるのは困惑の色。


 当然でしょう。


 


「さて、素材の説明は必要ですか?」


「……お願いできますかな」


「では。まず薬草ですが、です」


「そんな……」


「嘘だろ?」


「魔力水で保存する方法は知っているが、最高品質まで効能を上げる?」


「……確かに最高品質の薬草と鑑定に出ますな」


「はい。ですが、元は下級品の薬草。扱いが雑だとすぐに痛んでしまいます」


 アトモさんは一見落ち着いていますが……門下生の皆様は動揺したままですね。


 次に行きましょうか。


「次は……泥水ですか?」


「ええ。見てのとおり泥水です。これをどうにかしてポーションを作れる水にしてください」


「泥水から錬金術だけって……つまり、蒸留水を作れって事だよな?」


「そうよね……でも、私たちだって濾過水からしかやったことが……」


「これは難題ですな……」


 これにはアトモさんも引いています。


 普通は最低でも井戸水ですからね。


「最後は何の変哲もない水の錬金触媒。これにはなんの仕掛けもありません。ご安心を」


「さすがに触媒にまで仕掛けをされてはかないませんぞ……」


「僕もそう考えています。さて、それではまずお手本をご覧に入れましょう。さすがにできないことをやれ、といっているわけではないことを証明せねば」


「お願いできますかな」


「はい。ああ、錬金台も僕が用意した初心者向けの錬金台を使用してください。これも市販されている一般的なものです。では、始めます」


 僕は泥水を適量すくい取ると錬金台の上に乗せて錬金術を発動、蒸留水を作りました。


「は、速い!?」


「いや、それよりも水の量だ! あんなに水かさが減っている!」


「泥を取り除くとああなるのね!」


 さすがです。


 僕がお手本を見せた意味を理解していただけるとは。


「さて、次は魔力水の作製です」


「……なんと!?」


「水が一瞬で青く染まった!」


「これがハイポーションを作れる錬金術師の実力!」


 これくらいで驚かれても、ねえ。


 さて、最後の工程に移りましょう。


 元が下級品なために非常に痛みやすい薬草の葉、これを錬金台に乗せて……。


「はい。これで最高品質のポーションが完成いたしました」


「……」


「すごい」


「なに、今の?」


 おや、そこまで難しいことをやってのけたでしょうか?


 ミライさんまで絶句していますし……お題が難しすぎましたかね。


「すみません。少し課題を変えましょう。水は普通の井戸水を……」


「いや、このままでお願いします!」


「アトモさん?」


 門下生を率いるアトモさんが止めるとは、思いも寄らないですね。


「これは弟子たちの腕前を測るいい機会でしょう! 私たちも同門と言うことで個々の実力差を適切に計れていないかも知れませんぬ! お題は是非このままで!」


「まあ、アトモさんが止めるのでしたら……」


「見ていたな、お前たち! 最初の泥水は多めにすくえ! さもなければ、完成する蒸留水の量が少なすぎ、ポーションまでこぎ着けられぬ!」


「「「はい!!」」」


「薬草の扱いも細心の注意を払え! いいな!?」


「「「わかりました!!」」」


 ふむ、熱がこもってきたようで良かったです。


「さて、どなたから始めますか?」


「まずは私から行いましょう。一門を率いる身、下手は打てますまい」


「ではアトモさんから。ご自分のタイミングで始められて結構です」


「わかりました。では、参る!」



********************



「なるほど。全員の実力は把握させていただきました」


 アトモさんと門下生一同、その実力がはっきりしました。


 アトモさんの言葉ではないですが、こうして外部から見てみるとはっきりと差が伝わってきます。


 さて、結果ですが……。


「泥水から蒸留水の作製に失敗したあなた方は見習い扱いです。精進してください」


「「「はい……」」」


 泥水から蒸留水に錬金出来なかった方々が六名ばかりいました。


 さすがにこの方々を一般錬金術師と同じ扱いにはできません。


「それから、残りのポーション作製までこぎ着ける事ができた方々は一般錬金術師です。異存はありませんね?」


「「「はい」」」


 アトモ門下生の残り九名はポーションにはなりました。


 ですが、品質は一般品質止まり。


 これでは一般錬金術師にしかできません。


「さて、残りのアトモさんなんですが。非常に困りました」


「困ったとは?」


「実はですね。今のコンソール錬金術師ギルドでは見習いと一般錬金術師しか階級がないのですよ」


 はい、人手と腕前の差が無いために階級が二段階で事足りていました。


 ですが、今回の試験でを作ったアトモさんを一般錬金術師にするわけにもいかず。


「どうしましょうか。ミライさん」


「ギルドマスターが決めてください」


「ですよねぇ」


 さて、どうしましょう。


 普段一般錬金術師が研究している最高品質化より数段階上のお題だったのに、最高品質化してしまった以上階級差は必要です。


 冒険者ギルドでは下から順にFからAですが……。


「では、こうしましょう。アトモさんは『第三位錬金術師』と言うことで」


「三位ですかな?」


「一般錬金術師よりも二段階上と言うことで。正式な階級はまた研究成果を見せていただいてから決めたいと思います。特級品ポーションとかミドルポーションとか」


「そういうことでしたら喜んで拝命いたします。それで、アトリエはどこを使えばよろしいのでしょうか?」


「よろしければここをリフォームして使っていただければと考えています。……ああ、門下生の皆様をどうするかも決めなくてはいけませんね。少し下で聞いてきます」


 アトモさんの門下生をどうするかですが、一般錬金術師の皆さんに確認を取ったところ『アトモさんと一緒にすればいい、と言うかこの部屋に人が増えるとスペースがない』とのことでした。


 なので、二階のアトリエ一室はアトモ門下一同で使っていただくことにします。


 各自まだ住居が決まっていなかったりするらしいので動き出すのはまだ先と言うことですが、今のうちに建築ギルドに依頼するアトリエのリフォーム案だけは提出していただきます。


 何はともあれ、これで人員も少し補充できましたね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る