982. 新市街側の示した妥協点
****アリア
「……以上がギルド評議会の回答です」
はあ、頭が痛い。
信用を構築しなければいけないのはわかります。
ですが、もっと具体的に任せられることはなかったのでしょうか。
荷運びなどの労役なら本当に誰でもできてしまうでしょう。
そこで数をちょろまかさないという具合に信用を構築するという意味合いではいいのです。
いいのですが、あまりにも簡単な作業すぎます。
これでは奴隷労働と変わりがありません。
ボスはどう感じるでしょうか?
「……まあ、コンソールの怪童抜きの評議会じゃそこが精一杯の落とし所だろうね。アリア、あんただったらどこを落とし所にする?」
「私でしたら、ですか?」
「ああ。あんたの意見も聞きたいね。もちろん、箱入り娘だってことは知ってるさ」
確かに箱入り娘ですけどね。
しかし、私だったらどうするか、ですか。
私だった場合は……。
「まず、護衛をできるだけの戦う術を身に付けさせます。その上で冒険者の監視の下、商人の護衛などにつけて信頼を築いていかせるでしょう。命の伴う危険な仕事ですが、目先の利益に囚われず、相手の命と財産を守ることで得られる信用は荷運びなどより大きいはずです」
「そうだね。それもひとつの手だ。だが、新市街にいる連中の中で冒険者以外の連中だと、護身術すらままならないのがほとんどなんだよ。腕っ節に自信があるやつは冒険者か用心棒になってるし、さらに悪知恵が働けば裏社会に入り込んでいる。その案はちょいと難しいね」
うーん、やはりだめですか。
いえ、元々そんな気はしていたのです。
命を張って冒険者の真似事ができる人たちは、すでに冒険者になっているでしょう。
いま残されている人たちは、腕っ節に自信もなく、職人や商人として生きていきたい者たちばかりなのですから。
……ん?
職人や商人として生きていきたい?
「ギルド評議会の招きで外部から講師を招き、職人としての技術や商人としての知恵を身に付けさせる?」
「正解だ。いま取り残されている連中のほとんどは腕に自信のない職人や稼げない商人たちだ。そんな連中に技術と知恵を与える必要がある。そして、それはなにも旧市街の技術や知恵である必要はない。あくまで『旧市街の支援で新市街を盛り上げようとしてくれていること』が重要なんだよ」
「それは盲点でした。ですが、それで新市街の住人たちは納得するのでしょうか? 彼らが欲しているのはコンソールの、ひいては旧市街内部にある技術なのでは?」
「その通りではある。だが、いきなり下地もないところに旧市街の技術なんて叩き込まれても困るだろう? 旧市街より劣っていたとしても基礎となる技術や知恵を教えてくれる者がほしい」
「何事も一足飛びというわけにはいきませんものね。私も古代資料を読み解く際にはひとつひとつ着実に積み重ねていくものだということを忘れていました」
「初歩の初歩なんてみんな当たり前にやるから言葉に出すのは難しいんだよ。ともかく、こちらとしての要求はそんなところだ。もちろん、ギルド評議会からの話も受け入れる。単純な作業だろうと、そこから始めていかないと関係性なんて築けやしない」
「わかりました。では、ギルド評議会にはそのように再度話を持っていきます」
「頼んだよ。……本当にコンソールの怪童だと話が早かったんだね。あいつ自身がギルド評議会の一員で、評議会内での序列は低いものの実質的にはコンソール発展の功労者だから権限も強いってのは反則だ」
本当にそう思います。
ひとりでこれだけの仕事をこなしているのですから倒れもします。
意識を取り戻したら、仕事量の再分配をお願いいたしましょう。
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