983. 妥協点のすりあわせ
「ふむ、裏社会のボスの要求は『新市街からの支援による技術指導』か」
「はい。特別、コンソールの技術を教えることにはこだわらないそうです。それよりも基礎を教えてくれる相手を望むようですね」
裏社会のボスと接触したあと、次のギルド評議会開催を待つほど悠長にしていられなかったため、ジェラルド様と直接お目にかかることにしました。
ギルド評議会でも発言いたしますが、先に評議会議長であるジェラルド様に話を通しておく方がスムーズに進むでしょう。
「ふむ、技術支援か。さて、どうするか」
「私としては妥当な落とし所だと思います。ギルド評議会としての出費も少なくて済み、新市街からの賛同も得られる。いずれは旧市街が持っている技術を開示することになるでしょうが、同じコンソールの民である以上は当然でしょう」
「それはそうだな。ならば、最初から旧市街の職人を指導者にすればよいのでは?」
「私としてはそれでも構いません。ですが、旧市街で当たり前になってしまったことを新市街の住人に教えるとき、基礎の段階で齟齬が出るのではありませんか? 各地でギルドの乗っ取りをしたときも最初は苦労していたはずです」
「それもそうだ。しかも、今回は各地のギルドに入れなかった者か馴染めなかった者、自分のやり方で結果が出せなかった者たちか。それならば旧市街の技術をはじめから教える必要もないのか?」
「そこもギルド評議会の考え方次第でしょう。ともかく、必要なのは『旧市街からの支援で技術指導を行う』ことです」
ここだけは間違えてはなりません。
どのギルドも錬金術士ギルドのように新市街へと勢力を拡大できなかったのです。
素材や人員からくる受け入れ可能数の制限があったためとはいえ、門戸を開けなかったのは旧市街側の問題であり、新市街の住人にはなんら落ち度はないのです。
そこを解決する姿勢を見せねば。
「それでは私もなにか考えてみよう。正直、医療ギルドとして教えられることはほぼないからな」
「医療ギルドとして教えられるのは、簡単な薬草の調合方法くらいでしょう。ポーション作りは錬金術士ギルドの分野ですし、それ以外の使い方があることを示すのです。幸い、コンソールには比較的安全で大量に複数種類の薬草が群生している地域があります」
「聖獣の森か。そこに薬草があることも教えねばわからぬな」
「私たちの間では常識でも新市街では知られていないかもしれません。あそこは冒険者が腕試しをする場所として根付いてしまいました。本来は薬草が生い茂る地なのですが」
「そのイメージも直していかねばならないか。いや、いろいろと教えることはあるな」
「やるべきことなど山ほどありますよ」
ジェラルド様の説得はこれくらいでいいでしょう。
あとはギルド評議会のお歴々をどう説得するかです。
骨が折れますね。
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