984. 評議会での妥協点模索

「裏社会のボスからの要求は指導者派遣かい。あたしゃ賛成だね」


 私も参加してのギルド評議会。

 裏社会のボスの要求を発表してすぐ賛成を示したのは料理ギルドマスターです。

 そういえば、スヴェイン様から新市街で教育の場を設けると聞いていましたね。

 今回はその延長線上というところなのでしょう。


「料理ギルドは元よりその予定だったのでよいのでしょう。私たち製菓ギルドは……」


「なんだい。あんたたちも講師をよこしな。料理と一緒に鍛えてやるよ。どうせ、いまの新市街じゃ製菓だけの店なんて営めないだろうからね」


「……素材の問題が解決するなら問題ありませんね。料理ギルドの話に乗りましょう」


 話に乗り渋っていた製菓ギルドも解決です。

 元より新市街への進出予定のあった馬車ギルドと木工ギルドは賛成、建築ギルドはすでに支部があるので問題なしです。

 そうなると、次に渋っているのは、鍛冶、服飾、宝飾の3ギルドでしょうか。

 さて、ここはどう切り崩しましょう。


「ええ、新市街にも技術を提供しなければいけないことはわかっているのです。ですが、宝飾品は高価なため奪われないかが心配で」


「鍛冶は……新しい支部ができるまで待ってもらえないでしょうか? 鉄を打つ基礎と鉄から装備を作る基礎を教えましょう」


「服飾も元の予定を変更いたします。糸紡ぎだけの場ではなく、縫製を教える場にしましょう」


 鍛冶ギルドと服飾ギルドは大丈夫でしょう。

 宝飾ギルドをどう切り崩すか。

 そうですね、高価なものがだめだということならば……。


「ボーンアクセサリーを教えて基礎を伝えるのはどうでしょう? あれはあれでセンスを問われるものです」


「なるほど。しかし、コンソールの宝飾ギルドではボーンアクセサリーを作っている職人を見かけません。外部から招き入れましょう」


「それで大丈夫だと思います。農業ギルドは難しいですよね?」


「すまんが俺たちは無理だ。自分たちですら戸惑うことのある技術を人には教えられん。普通の耕作もまだ癖がつかめていない。あと数年待ってくれ」


「わかりました。あとは、魔術師ギルドと商業ギルドはどうでしょう?」


「魔術師ギルドは……正直難しいな。『魔術師』ギルドなどと銘打っているが、やっていることは魔法の研究と実践によるレポート収集だ。いきなり素人を迎え入れられるものではない」


「商業ギルドも正直に言えば難しいでしょう。お金を扱い信用で成り立つ世界です、信用のない者たちを迎え入れることなどできない。まずは商売の基礎を教え、わずかばかりの資金を貸し与えて商売が成立するかを見極めさせていただきます」


 うーん、魔術師ギルドは難しいですか。

 正直に申しまして、私も魔術師ギルドは招くことができないだろうと推察しておりました。

 魔術師ギルドを招き入れるには、本当に魔術の基礎概念から学ばせる必要があります。

 そして、魔術師ギルドにはその余裕はありませんし、魔術師ギルドに入門するギルド員は最初からそれを覚えてくるエリート集団です。

 いわば、根本的な次元が違います。

 ここは諦めざるを得ないでしょうね。


「わかりました。医療ギルドについては先日話を聞いているのでよしとします。これをもとにもう一度ボスと話をしてきます」


「何度もすまないな。本来ならばギルド評議会の役割なのだが」


「仕方がありません。適任者が倒れてしまいましたから」


 本当に早く目を覚ましていただけないでしょうか。

 目を覚ましたとしてもしばらくは安静にしていただかなくてはなりませんが、多少の助言はほしいところです。

 本当になんとかなりませんかね。

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