985. 裏社会のボスとの妥協点

「なるほど。ほとんどのギルドがなんらかの形で技術を伝えてくれることになったわけだ。いいよ、これで満足だ」


 よかった。

 裏社会のボスとの駆け引きはこれで終了のようです。

 スヴェイン様は毎回このようなことをなさっていたのでしょうか。

 いえ、スヴェイン様なら飄々とやってのけそうですが。


「しかし、魔術師ギルドってのはそんなに難しいことをやっているのかい? 無学なあたしにゃわからんのだが?」


「はっきりと言ってしまえば、素人を入れる余裕がない集団です。高度な魔法理論の研究と新しい魔道具の開発に没頭している集団ですね」


「そりゃ素人が足を踏み入れられる領域じゃないね。だが、魔術の講師ぐらいは派遣できないもんかい?」


「それはどちらかというと冒険者ギルドの領分でしょう。魔術師ギルドは理論の研究機関であり、冒険者が使うような実戦向けの魔法の使い方は知りません」


「ふむ。そうなると、冒険者ギルドからさらに支援をもらうべきかね?」


「そこは私の方から伝えておきます。さすがにシュミットの教官を貸してはくれないでしょうが、それなりの教官を派遣してもらえると思いますよ」


「わかった。それと、冒険者ギルドを各方面に配置することはできないのかい?」


 各方面への冒険者ギルドの配置ですか。

 さすがに無理がありますね。


「それも難しいでしょう。北と西は聖獣の森と泉が近くモンスターが居ません。東も私たちの都市が近く、城門前に聖竜が陣取っているためモンスターは逃げてしまっております。実質、モンスター狩りをするなら南側にしか需要がないんです」


「あー、それもそうか。あたしも西に住んでいるからわかるけど、こっちにいる限り聖獣が昔から行き来していてモンスターに怯えることなんてなかったからね。逆を言えばモンスターが居ないから、モンスター狩りを目当てにした冒険者は需要がないのか」


「そうなります。どのような冒険者も最初は簡単なモンスター退治や薬草採取などで実績を積み上げていくもの。護衛依頼などを受けたければ相応の実績と信頼を勝ち取る必要があります」


「それはわかるよ。じゃあ、新市街の連中が装備を調えたい場合、どこで買えばいい? あまり金に余裕がない連中ばかりだ」


「それでしたら直接鍛冶ギルドの販売所に向かうべきですね。あそこは見習いたちの数打ちを安く販売しております。本当に問題がある品は検品の時点ではじかれますので最低限の性能も保証されますよ」


「……あんた、意外とすらすら応えるね?」


「私も最低限のことは知っておりますので」


 本当は弟子たちから得た知識ですけどね。

 あの子たちが買い物にはまっていた時期にいろいろと教えてくれました。

 その結果、総合的に安くて品質が良いのは鍛冶ギルドなのだそうです。

 鉄も自分たちで鍛えていますし、その分安上がりなのでしょう。


「よし、とりあえずこの件は終了だ。新市街の連中もギルド評議会が自分たちを気にかけているとわかれば納得するだろう」


「はい、よろしくお願いいたします。それでは、私はこれで」


「待ちな。一杯ぐらい付き合っていきなよ」


「申し訳ありません、お酒は得意ではないもので」


「別に毒とかは仕込んじゃいないけどね。まあ、嫌いなやつに勧めはしないさ。またあんたに繋ぎを取りたいときはどうすればいい?」


「お手数ですが錬金術士ギルドに使いを出してください。スヴェイン様の聖獣が常に錬金術士ギルドを見張っておりますので、なにかあればすぐ私に報せが参ります」


「へぇ。最初、錬金術士ギルドにタイミングよくあんたが現れたのもそのせいか」


「そういうことです。では、ごきげんよう」


 ふう、本当にピリピリします。

 スヴェイン様の聖獣が見張りに付いていなかったらどうなっていたか。

 いえ、ボスは理性的な方のようですし、すぐには特になにもしませんか。

 短絡的な方でないことだけが救いでしたね。

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