986. 交渉結果の報告
「……以上のように、裏社会のボスにも納得していただけました。一部、冒険者ギルドに追加の依頼が出ましたが」
ボスとの交渉を終えた翌日、結果をジェラルド様とティショウ様に報告いたします。
正式な場での報告は次回のギルド評議会で行いますが、おふたりには先に報告させていただきました。
ギルド評議会議長の判断と追加依頼の出ている冒険者ギルドマスターには確認を取っておきたいですからね。
「わかった。ギルド評議会として、その交渉結果を受け入れると約束しよう。冒険者ギルドに追加要求が出たこと以外は私たちの案だからな」
「そうだな。冒険者ギルドとしても講師を出すことくらいなら受け入れるぜ。さすがにギルド支部を南以外にも作れってのは無理な相談だがな」
「そこはわかっていただけたはずですので大丈夫です。あちらもモンスターの居ない地域に冒険者ギルドがあったところで仕事がないことは理解してくださいましたから」
「そりゃよかった。だが、全部の冒険者が南側に集まるってわけにもいかないんだろう? 訓練場だけならなんとか用意しよう」
訓練場ですか、それはいい案です。
依頼の受け付けや素材の売買などを行う機能は意味をなしませんが、訓練場だけでしたら意味があるでしょう。
それは悪くはありません。
ですが、訓練場を作るのでしたらもう一歩踏み込んだ教育がほしいですね。
「ティショウ様、訓練場に併設して講習の場を設けていただけませんか?」
「講習? ああ、薬草の見分け方やポーションにしないでも使う方法か」
「はい。一般的な冒険者でしたら、素材の買い取りで薬草の見分け方を学び、冒険者同士の指導や資料室から薬草の使い方を知ります。ですが、そのような場を持たない新市街の冒険者にとっては、それらを教育するための設備が必要かと」
「それもそうだな。ついでだし作るとするか。傷薬の調合に使う薬草は錬金術士ギルドが用意してくれるのか?」
「私は錬金術士ギルドと直接関わりがありませんので、なんとも返答しにくいのですが、聖獣の森まで自分たちで取りに行くべきでしょう。あそこでも薬草と雑草が入り交じって生えています。毒草は生えていませんので、そこは別に教育する必要がありますね」
聖獣の森における薬草採取の欠点は毒草がないため、その知識が入ってこないことでしょう。
薬草とよく似た毒草など語り尽くせないほど存在します。
それらを見分ける知識も冒険者には必要となってくるのです。
「錬金術士ギルドには私からミライを通してお願いします。ですが、なるべく現地での知識を身に付けるべきですね」
「まあ、事前に薬草を持っていくくらいならポーションを持っていけって話だしな。薬草は一時的な止血や痛み止めにしかならねぇが、ポーションなら傷そのものが消えてなくなる。わざわざ薬草を持っていく理由がないよな」
「そういうことです。お金がない間はそれもきついでしょうが、命の値段と思えば安いもの。そこをケチるようでは生き残れませんね」
こればかりは真実です。
ポーションが貴重品だった時代はともかく、いまのコンソールでポーションは日用品並みの気軽さで買えます。
値段も私たちが初めてコンソールに来たときより割安になっています。
あの頃は品質の悪いポーションでもそれなりの値段がしました。
ですが、いまでは一般的な品質のポーションが量産されているため、あの頃の低級品並みの値段で買えるのです。
スヴェイン様が常識を変えてしまったとはいえ、本当にいい時代になったと思います。
「では、この件は終了だな。アリア殿には大変な交渉役を押しつけてしまい申し訳ない」
「いえ。……と、言いたいところですが、本当に大変でした。スヴェイン様があんな化け物相手にいつも暢気にやり合っていると考えると、妻であっても理解できません」
「そこまでの人物なのか、裏社会のボスというのは?」
「隙を見せれば食いつかれそうな鋭いまなざしをしていました。それに、スヴェイン様ほどではないといえど、私の名もそれなりに知れ渡っているのです。そんな私相手に襲いかかりそうな姿勢で臨むというのは恐ろしい相手ですね」
「そうか。スヴェイン殿は普段からそのような者を相手にしていたのか」
「そのようです。……ただ、私はあの方のところに行くとき、常に案内人を用意してもらっていました。しかし、スヴェイン様は案内人なしでひょっこり現れるそうです。そこは、妻としても理解できません」
本当にどうやっているのでしょうか?
私の知らない魔法でも編み出しているのではないですよね?
あのボスが警備を疎かにするとは考えられませんし、本当に謎です。
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