987. つかの間のひととき

「ふう。厄介な一仕事を終えたあとのお茶は身に染みます」


 ギルド評議会での報告も終え、本当の意味で今回の一件は決着いたしました。

 それにしても、あの方は気の抜けない方でしたね。

 毎回あのような方を相手にしているスヴェイン様が信じられません。


「お疲れ様です、アリア様。申し訳ありません、ギルド評議会の仕事は私の領分なのに」


「いいのですよ、ミライ。さすがにあなたでは裏社会の人間と渡り合うのは無理でしょう。できないことは無理にやる必要はないのですよ」


「はい。ですが、スヴェイン様って本当になんでもやっていたんですね。竜災害の対応や新型麻薬でも奔走していましたが、裏であのような方ともやりとりしていただなんて」


「それが貴族教育というものです。治政を行うにはきれいなものだけ見るわけにもいきません。日の当たらない場所にいる存在のものにも目を向ける必要があるのです。それと癒着することはなりませんが、状況次第では交渉することもあるでしょう。今回のように」


「ですねぇ。それにしても、裏社会のボスってあんなに気を回す人なんですね」


「表の権力者よりも気を回す必要がありますよ。金と暴力で成り立つ世界ですので後ろから刺される恐れはいつだってあります。それを未然に防ぐ一番の手段は、最初から敵を作らないことです。市民の暴発のガス抜きも兼ねて表に圧力をかけるのですよ」


「うーん、よくわかりません。そこまでして権力者になりたいんですかね?」


 権力者になりたい理由、ですか。

 そうですね、あの方は……。


「なんとなくですが、あの方は私やスヴェイン様と同じ雰囲気を感じました。自分の権利を主張するために権力者になったのではなく、他人の権利を守るために権力者になっているのかと」


「……ああ、スヴェイン様って元々は錬金術士ギルドマスターになることを拒んでましたよね」


「本来、私たちはこの街の外に拠点を持つ研究者でした。弟子を持つことでこの街と接点を持ち、その育成をきっかけに関係性が強くなりましたが、まさか居住するほどになるとは思いませんでしたもの」


 本当に懐かしいことです。

 あれから数年しか経っていないのに、随分と昔のことにも思えますね。

 それだけいろいろとあったわけですが。


「ともかく、今後もあの方から連絡があった場合、スヴェイン様不在の間は私を頼りなさい。正直、油断できないので疲れる相手ではありますが、ギルド評議会のお歴々では相手にできないでしょう。無理をして深く食いつかれては元も子もないです」


「わかりました。お手数をおかけします」


「いえ。それにしても、本当に早く目を覚ましていただきたいですね。相談だけでもしたいものです」


 はあ。

 急にいなくなるとここまで大変なのですね。

 私も甘えきっていたようです。

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