988. ディーンの来訪を告げる報せ

 そんな裏社会のボス相手の心安まらない交渉も終え一息ついていると、シュミット大使館からこちらも心安まらない手紙が届きました。

 義弟のディーンが来るというのです。

 あの子、シュミットの将軍であることを忘れていませんよね?

 念のため、大使館にいるシャルに話を聞きましょう。


「ディーンお兄様の件ですか。私は必要ないと止めたんですけどね」


「止まりませんでしたか」


「ああ見えてお兄ちゃん子だったんですよ。スヴェインお兄様はセティ師匠を迎えたあと、早々に『剣聖』への道を歩まないことに決めました。それは『剣聖』という『職業』を諦めたわけではなく、もっと難しい道を選んだことになります。そんなスヴェインお兄様を心から尊敬し、信頼しているのがディーンお兄様なんですよ」


「私も一緒に暮らしていたのでそれはわかります。ですが、シュミットの将軍であるディーンが急に来ることは問題ないのでしょうか?」


「ああ、そちらですか。本来であれば大問題です。血を分けた兄弟とはいえ、見舞いのために国を守る将軍がその場を離れるのですから。しかし、今回はお父様とお母様の代理という側面もあります。シュミットは同盟国でありながら、先の竜災害ではなんの支援もできずに終わりました。そのため、現地でなにを支援物資として送ればいいのかを調べる役割もおっています」


「……それ、シャルでも構いませんよね?」


「まあ、そうなんですけどね。私は次期公王ですし、危ない場所には送れないということでしょう。竜の1匹や2匹ならなんとかなりますが、群れとなるとさすがに厳しいですから」


 シャルも強いとはいえ、それは人間の範疇に収まっているものです。

 私やスヴェイン様、それからリリスのように個人でありながら竜種の群れを相手取って楽に勝てるということはないのでしょう。

 そういえば、ディーンはどこまで強いのでしょうか?


「ディーンお兄様ですか? 私よりは強いと思いますが、結局は『剣聖』の限界があります。空まで覆い尽くすような群れになると物量差で押し切られる可能性がありますね」


「なるほど。『賢者』であれば、魔力が尽きない限り物量差はなんとかなると」


「それも竜種障壁を正面から突き破る魔法を何十発と使える魔力を備えていることが前提になります。私が言うのもなんですが、人間の限界を超えていますよ」


 私やスヴェイン様は人間を超越した存在になっていますからね。

 その前から強かったのは認めますが、いまでは竜すら恐れることなどありません。


 そうなってくると、リリスやセティ師匠はどういう理屈であそこまで強くなっているのでしょうか?

 リリスが武を極めた者であることは聞きましたが、セティ師匠はあくまでも『賢者』のはずです。

『星霊の儀式』は子どもの頃に受けるため、間に合わなかっただけでしょうか?

 少々気になりますね。


 それはともかく、ディーンを迎える支度を調えなければなりません。

 泊まりはシュミット大使館だそうですが、夕食くらいは食べていくでしょう。

 聖獣の森と聖獣の泉に行って食材集めですね。

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