562.冬、三カ月目最初のギルド評議会
今日、冬の三カ月目になって最初の定期ギルド評議会が開催されます。
議題はいつも通りの各ギルド運営状況、そのほか支部を建てたギルドの支部運営状況、各街へと送り込んだ新規ギルド部隊の状況確認などです。
「鍛冶ギルド支部は問題なく推移中。やはり志望者の熱意が非常に高かったこともありぐんぐん腕が伸びていっています。この調子でいけば夏前には魔鋼の取り扱い方も教えられるでしょう」
「鍛冶ギルドは素晴らしい状況だな。次、服飾ギルド支部は?」
「私たちもすさまじい熱意です。指導に入っている講師からも気を抜けば自分たちの方が食い破られそうだと。あまりにも長い間お待たせしすぎたようですね」
「やはりギルド支部は急ぐべきだったか。宝飾も同じか?」
「はい、その通りでございます。見習いたちも精一杯の範囲で技を磨いております。今は鍛冶ギルドのご協力で素材が絶えることがないため、成長速度も急ピッチとなっておりますね」
「そうか。そうなると調理や製菓もか?」
「私らも受け入れた連中の熱意がすごすぎるとさ。教材の量が足りないことだけが悩みの種だと」
「製菓もですね。やはり私たちの教材は食料品。教材をおいそれとは増やせません」
「やはりそうなってしまうか……そうなるとシュベルトマン侯爵と裏で話し合っていた案件、急ぐべきだな」
「シュベルトマン侯爵と裏で話し合っていた案件?」
「なんだい、医療ギルドマスター?」
「〝農業ギルド〟の創設だ。シュベルトマン侯爵の方でも食料生産が頭打ちになっていることが問題になっているらしい。幸い休耕地では、スヴェイン殿から買い上げた薬草栽培によって薬草園が機能している。だが、それ以外の農地で生産性の向上を目指すため各農家や村で持っている知識を集めギルドとして集約、そこから出た知識と利益を再分配したいお考えなのだ」
「それに俺たちも乗るのか?」
「ああ。シュベルトマン侯爵としては未使用かつ大規模な耕作用地帯を抱えているコンソールを試験地域にしたいらしい。そこで得た知識はシュベルトマン侯爵にも報告するが、手に入った農作物などはコンソールがいただく事になっている。どうだろう、悪い話ではないと考えるが」
「確かに、悪い話ではございませんな。コンソールの悩みの種でございます〝農業知識と開拓者〟その両方が手に入る可能性がある上、それをとりまとめる者をギルド評議会に招き入れることもできる。最初の頃はコンソールからの支援費用が多いでしょうが、その程度のことで国を支える重要な基盤が手に入るのであればお願いするべきです」
「そうだな。ビンセントのヤツも初期費用と試験耕作地をコンソールに押しつけたいんだろう。だが、その程度で農業知識が手に入るなら安すぎる。積極的に手を貸すべきだぜ」
「そういうことでしたら僕も力を貸しましょう。古代遺跡から解読したかつての農耕知識があります。試験栽培でしたらそれを試す機会かと」
「古代の農耕知識……そんなのがあるならさっさと教えろ、スヴェイン!」
「今の時代でも使えるかわからないんですよ。それに、今の農家の方々はそれぞれのやり方で成果を上げています。結果が伴うかわからない新しい方法、すんなり受け入れてくれるとお考えで?」
「……そう言われりゃそうか。すんなり結果が出るシュミットの知識を取り込むだけでも反発が出たんだもんな。育成期間が長い〝農業〟でそれを試せ、なんて無理な話か」
「はい。いざとなったらシュミットで試してもらう方法もありましたが、コンソールで吸収できるのならその方がいいでしょう」
「そうだな、その方針でいこう。〝農業ギルド〟の新設並びにシュベルトマン侯爵からの依頼に反対の者は挙手を」
この案に反対意見を唱える者はなし。
全会一致で〝農業ギルド〟の創設が決まりました。
シュベルトマン侯爵との話もかなり進んでいるそうで、春には最初の開拓者を受け入れられるそうです。
「次、新規ギルド部隊の状況だが……これは問題が出ているところを聞く方が早かろう。鍛冶ギルドから報告を」
「鍛冶はまったく問題がありません。どの街でも下位職はほぼすべてを取り込み済み、新規ギルドによる生産販売を行っておりそちらも順調との報告しかありません」
「服飾も同じく。各街の伝統様式も既に取り込み済み。早期派遣を行っている街ではそれを元にデザインを発展させた新作を販売中です。そちらの売れ行きも上々との報告ですね」
「宝飾もまったく問題ございません。各街に乗り込んだ際、旧ギルドの商品を買い占め見本を準備、それを元に技を磨かせております。できた宝飾品はまだまだ低価格品ばかりですが、それでも貧しい暮らしを強いられていた各街の皆様には大受けでございます」
「建築もだ。下位職たちは現場で働いていただけあって各街の建築様式にも詳しかった。それを乗り込んだ親方衆やシュミット講師がまとめ上げ、各街の文化として保存してあるぜ」
「馬車もでございます。さすがに馬車は街ごとの違いがございませんでした。そのため、下位職の皆様には新しい馬車の作製にのみ取りかかっていただいております」
「調理も問題なし。各街の伝統料理のレシピは保存済み。その上で可能な範囲において別の街の食文化を持ち込んでるよ」
「製菓もでございます。レシピの保存と新しい食文化の持ち込み。このふたつだけで街の空気が変わり始めています」
「冒険者もだ。各街の冒険者ギルドマスターが難癖を付けてくるがそいつらは俺が〝シュミット流〟でボコって終了。毎回自分は一切傷つかないのに武器だけ破壊されることにおそれを成して街から逃げ出すギルドマスターまでいる始末だ。そんな関係でシュミット講師にはギルドマスターも代行してもらっちまってるが文句は出ていねえ。むしろ、誰よりも強く率先して指導を付けてくれるギルドマスターの登場で冒険者どもの熱気がましているそうだぜ」
「錬金術は……人員不足だけが問題でしょうか。それでも各街から上がってくる報告では毎日生産されているポーションは作った分だけ完売しているとのこと。薬草もコンソールから持ち込んでいますし、旧ギルドでは売り上げが落ち込んで四苦八苦しているようです」
「どのギルドも素晴らしいな。あとはこの調子を維持……いや、更に発展させて春を迎えるだけだ」
どうやら新規ギルド部隊の方も問題ないようです。
すべての街の下位職たちがコンソール流の指導についてきているとは、今まで相当苦労していたのでしょう。
「さて、儂から次の報告だ。各街に新規ギルドが発足した結果、竜宝国家コンソールに対する新規人口流入が止まってきた。むしろ、この話を聞き故郷の街へと戻っていく若者たちもいるらしい」
今回の報告に評議会場からはどよめきが……というか、三人目たちが動揺しています。
各ギルドのギルドマスターとサブマスターは平然としていますが。
「コンソールでも新規の人口流入は確実に問題化しつつあった。それが落ち着きつつあり、故郷の街でも希望を持ち暮らせる若者が出てきたことは大変めでたい」
「あ、あの! この場では発言権がない三番目ですが発言の許可を!」
「なにかな?」
「それって国としてよろしいのでしょうか!? 新規人口流入が減るとなると国の財源も減ります! それに街の住民も減れば税収だって減ることに……」
「ああ、その話か。これで問題ないのだよ。コンソール新市街では建築ギルドが建物を建て続けていた、それは知っているな?」
「は、はい。この場に臨席している以上、その知識は持っております」
「新規人口流入が落ち着けばそのペースを落とすことができる。若者が故郷で暮らせるのであれば、それが一番望ましいしコンソールの空き家も増えのだ。それに更に輪をかけて問題になりかねなかったのが食糧問題なのだよ」
「食糧問題……ああ! コンソールの自給率!」
「そういうことだ。コンソールではほぼすべて……いや、完全にすべての食料を他国からの輸入に頼っている。今でこそ輸入量の方が多い。だが、人口流入が増えすぎればいつかは逆転しかねなかった。それを考えれば税収がどうのなど些細な問題だ。各ギルドともに今は『コンソールブランド』の売り上げが大きすぎる状況だしな」
「……申し訳ありません。そこまで考えが至らず」
「気にするな。そういったこともすべて学び取っていけ。……さて、そういうわけで建築ギルドの手が空く準備もできてきた。〝スヴェインの野望〟そろそろ始動してはいかがかな?」
「スヴェイン様の……野望?」
「それって一体……」
ああ、そういえば三人目たちはそれも知りませんでしたね。
僕の口から説明せねば。
「ええと、僕がこの地域一帯をシュベルトマン侯爵から分割割譲をしていただいているのはご存じですよね?」
「はい。その程度は……」
「それは元を正せば僕の野望を実現させるために必要だった土地をいただく事が目的だったんです」
「スヴェイン様の野望……コンソール一帯の土地をいただいてまでの野望ですか?」
「まあ、一帯をいただいてしまったのはシュベルトマン侯爵のご厚意です。元々僕が要求していたのは都市ひとつ分の土地。コンソールの第一街壁内、交易都市だった頃のコンソールと同じ規模の土地だったんですよね」
「あ、あの。それでも個人でいただくには広すぎる土地なのですが……」
「僕の野望には必要な土地です。僕の野望それは都市を造ること。学園都市を造ることですから」
三人目たちは動揺を隠せませんが、始動しても構いませんか。
どちらにせよ、実になるのは五年以上先の話。
都市の骨格だけでも造り始めましょう。
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