375.『カーバンクル』の『試練の道』挑戦 『初心者級』編

 聖獣たちや鳥たちのみが存在を許される空の上。


 そこでちょっとしたお話を聞いたボクたちでしたが、次の目的地までは問題なく到着しました。


 かなり人がいますし、食べ物の出店までありますが。


「エリシャさん、ここって?」


「『試練の道』の入り口……です?」


「ああ。『試練の道』、『超々初心者向け』の入り口だ」


「『超々初心者向け』……」


「それってたくさんの冒険者さんがクリアできないでいるという場所では?」


 錬金術師ギルド所属のボクですら聞いたことがあります。


 熟練の冒険者ですら何十回と挑み続けている場所であると。


「不甲斐ないことに『超々初心者向け』でもこの有様だ。野営をして泊まり込みで挑む者もいれば、それを目当てとして商売をする者もいる。商売を否定はしないが……せめて、これよりも上のランクで同じような場所ができてほしいのが本音だ」


「あはは……」


「ええと……」


 乾いた笑いしか出ません。


 この話が聞こえた冒険者さんはこちらに目を向けますが、エリシャさんに気が付くとすぐに首、いえ体ごとそっぽを向きます。


 よほど怖いのでしょうね。


「それでボクたちが連れてこられた理由って……」


「ああ。まずはここから挑戦だ」


「私たち冒険者じゃないのです……」


「ふたりなら散歩道みたいなものだぞ。まあ、試しに行ってみてくれ」


「わかったのです」


「わかりました。ふたり一緒に行けばいいですか?」


「別々に入ってもらって構わない。同時に入らなければ別々の道になる。そういう場所が『試練の道』なのだ」


「承知したのです。ではエリナちゃん、またあとで」


「うん。ニーベちゃんも気をつけて」


 先に森の中へ消えていったニーベちゃんを見送り、ボクも『試練の道』へ入ります。


「……あれ?」


 入ったのですが……なんでしょうか?


 さっきと同じ『試練の道』?


「あ、あそこに聖獣がいる。こんにちは」


 ボクが姿を隠していた聖獣に向けて声をかけると、あちらも姿を現して手を振ってくれました。


 そのあとも森を進むたびを感じ、そちらに目を向けると聖獣たちが姿を見せて手を振ってくれたり、尻尾を振ってくれたり、時には話しかけてきたりなど、それぞれの方法であいさつをしてくれました。


 あれ?


 これが『試練の道』?


 途中、真上から視線を感じて上を見上げるとまたカーバンクルたちがいて、木の実を落としてくれたのでそれを受け取りそれをマジックバッグに……しまおうとしたらカーバンクルが降ってきたので食べながら奥へと進みます。


 結局、森の切れるところまで聖獣たちはあいさつをしてくれるだけで襲ってくることはなく、本当に散歩するだけで森を抜けてしまいました。


 森を抜けたところにいたのは、ボクと同じように木の実を食べているニーベちゃんです。


「あ、エリナちゃん」


「ニーベちゃん。ニーベちゃんも木の実をもらったの?」


「はいです。マジックバッグにしまおうとしたらカーバンクルさんも降ってくるし、口をつけようとしないと髪を引っ張っていたずらするので、お行儀が悪いのですが食べながらここまで来ました」


「そっか。ボクもだよ。ちなみに聖獣に襲われた?」


「いいえ、一度も襲われなかったのです。皆優しく見つめてくれているだけで、あいさつしたらあいさつし返してくれましたし見送ってくれました。エリシャさんの言ったとおり本当にお散歩だったのです」


「ボクも。それで、この花が贈り物なのかな?」


「多分そうです。二輪ありますし、果物は途中で食べろと急かされましたし」


「残して帰るのも悪いし、もらって帰ろうか」


「そうですね。綺麗なお花ですし」


 ボクたちはそれぞれ一輪ずつ花を手に持ち、帰り道へ。


 ここまで歩いてくるときは十分以上かかっていたはずなのですが、帰り道は一分かかりませんでした。


 あ、まだ木の実を食べ終わっていない。


「……どうやら本当に散歩道で終わったみたいだな」


「あの。本当にここも『試練の道』なのですか?」


「はい、とても不思議です。聖獣たちは優しく見守ってくれるだけであいさつをしたら姿を見せるし、途中でカーバンクルは木の実をくれるし。さっきの『試練の道』とはまったく別物です」


「ああ。だ。だからこそ、『初心者向け』なのだよ」


「あ、そういうことですか」


「ここって聖獣たちがの道なんですね」


「そういうことだ。『超々初心者向け』は聖獣たちにしてみればあいさつするかじゃれつく程度の内容。ミライ様でもクリアできる難易度だし、森に馴染むことができれば聖獣の気配がすぐにわかる。こちらからあいさつをすれば襲いかかるようなこともなく、姿を見せて応えてくれるだけのだ」


 ボクたちの話し声はかなりの人が聞いているようで困惑が広がっていますが……事実、散歩道だったのですから仕方がありません。


 冒険者の皆さんが苦労されている原因は殺気だっているからでしょう。


「……それにしてもおいしそうな果実だな。次の場所では私の分も譲ってもらえないか頼んでくれないか?」


「わかりました。頼んでみるのです」


「次もまだ散歩道ですか?」


「中級レベルに入るまでは先に発見できれば襲ってこない。ふたりならそこまでは散歩道だろう」


「よくわかったのです。あと、このお花はどうすればいいのでしょう?」


「『妖精の花』だな。商業ギルドで需要が高まっていて今なら交渉次第で金貨八十枚までなら引き出せるぞ?」


「ただのお金ですか……」


「せっかくの記念品なのに残念です」


 こんなに綺麗なお花ですが売るしかないのでしょうか。


 でも枯らすよりは役に立つ?


「ああ、そうか。ふたりにとっては今更金貨など必要ないか」


「お金には困ってないのです」


「むしろ保存する方法が知りたいです」


「なにもしなくとも枯れないぞ?」


「え?」


「本当ですか?」


「嘘はつかない。貴重な薬の素材でもあるが、適切な方法で摘み取られていれば火に焼べでもしない限り枯れない。聖獣の森で聖獣が摘んだ妖精の花だ、適切な方法で摘まれていないはずもない。売るつもりがないならそのまま部屋の飾りにするといい」


「それは嬉しいです!」


「大切に飾ります!」


「ああ。それからスヴェイン様のお屋敷の裏庭には聖獣の泉もあったな。あそこの水を花瓶に入れて妖精の花を生けておけば、うっすらと輝くそうだ。大切にしてやるといい」


「「はい!」」


「いい返事だ。次、『超初心者向け』だが挑んでみるか?」


「はいです!」


「綺麗なお部屋飾り、ほしいです!」


「……まあ、ふたりでは準備運動にすらならないか。では移動しよう」


 そのあと向かった『超初心者向け』と『初心者向け』も、聖獣たちの優しい視線を受け果実を食べながら森を歩くだけの散歩道です。


 二番目の『超初心者向け』ではフラワーコサージュとお花の壁掛けが、三番目の『初心者向け』では妖精の花を生けるための花瓶をいただけました。


 しかも花瓶は聖獣の説明付きで妖精の花と聖獣の泉の水を入れて魔力を流すとランプ代わりの照明になるそうです。


 夜に勉強するときにも役立ちますし本当に助かりますね。


 優しい聖獣たちに感謝です!

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