227.シュミット錬金術講師の熱血指導
「おい、ギルド評議会の掲示板見たか?」
「見た見た。いままで錬金術師ギルドマスターの講習会を受けたメンバーの中からシュミット錬金術講師の講習を受けられるってやつだろう?」
「ああ。ただし、ギルドマスターの講習会みたいにぬるくないそうだが」
「俺の知り合いが鍛冶ギルドにいるから知ってる。シュミットの講師陣って鬼のように厳しいって」
「それじゃあ、俺たちみたいな半人前じゃ無理か……」
「その代わり、どんなに腕が劣っていてもやる気さえあれば見捨てないとも言ってたぞ」
「そうか! じゃあ、応募してみるか!」
「ダメで元々だ。応募して通ったら運がよかったって考えようぜ」
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「……あの募集内容を見ても6000以上の応募者ですか」
「はい。私も舐めてました」
「これ、どうやって選別します? シャルに頼んで更に追加の人員を派遣してもらいますか?」
「いえ、公太女様でもあの人数で押さえ込むのがぎりぎりだったと。お試し、ということで給金が発生しないのに錬金術講師が全員手を上げて殴り合いに、最終的には公王様自ら乗り込んでくじ引きというかたちで収めたと」
「お父様まで出ていったのですか」
「なので、これ以上は本当にお貸しできないと。これ以上を望むと、本気で錬金術講師が全員こぞってこの街に押しよせてしまうと」
「今度シャルに差し入れをします」
「そうして上げてください。で、書類選考どうします?」
「やるしかないでしょう」
「はい。今回は熱意がすごそうです……」
「いままでとは逆パターンになりそうです」
「私が一次審査、ギルドマスターが二次審査ですね」
「頑張りましょう」
「はい」
結局、書類選考ではどうしても3500名あまりまでしか絞り込めず、僕とミライさんでランダムにくじ引きに。
その選考で漏れてしまった方にはミライさんがつなぎ止めをしてくれるそうです。
これ、どうなるんでしょう。
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「やべぇ。本当に書類選考、通っちまった」
「俺もだよ。っていうか、周りのやつらも皆キョロキョロしてる。書類選考を通るなんて誰も信じてなかったんだろうぜ」
「だな。これからどんな授業が始まるんだろう……」
「かなり厳しいのだけは確かだろうな」
そんときひとりのエルフの男性が部屋に入ってきた。
あの方が講師かな?
「おはよう諸君。今日から十日間お前らの講師を務めさせてもらうウエルナだ。職業は『錬金士』。これでも錬金術スキルは40を超えている。この街では職業優位論だかなんだか知らんがそんなもんが流行っていたそうだな。俺の教えを受けたくないものは構わねぇから出ていけ」
すげぇ!
錬金士なのに錬金術スキルが40以上だなんて!
「……ふむ、誰もいねぇか。さすがはスヴェイン様が大嵐を巻き起こしただけはある。十日間後の結果だけ教えてやろう。俺たち講師陣は諦めなかったもの全員にマジックポーションまで仕込むことになっている。途中で心が折れたら来るのをやめてもらっても一向に構わねぇ。だが、俺についてくれば十日間でその程度は仕込んでやる」
その宣言に会場がざわつく。
そりゃそうだ。
十日間でマジックポーションなんてできるはずが……。
「ああ、念のため断っておくが低級品なんて半端なもんじゃねぇぞ? きっちり一般品を安定、九割以上の確率で作れるように仕込んでやる」
おいおい、マジかよ!
そんなことができたら一生食いっぱぐれないぞ!?
「ああ、言い忘れてた。その分、指導はハードだ。スヴェイン様みたいに優しく、わかりやすく、そのくせ十日間で高品質ポーションまで仕込むとかは不可能だ。悔しいことにな」
その言葉に会場が更にざわついた。
あのギルドマスターってそんな事までできたのかよ!?
それで、それができないことが悔しい!?
「これでも俺はシュミット錬金術講師の中でもトップクラスのはずなんだが、この程度だ。厳しく教え込んでようやく十日間かけてマジックポーション程度。……笑えねぇよ」
いやいや!?
ものすごい事ですから!?
「……さて、前置きが長くなっちまった。テキストをいまから配るんで取りに来い。それから、今日の予定は錬金術で蒸留水を作ることをマスターすること。明日と明後日の予定はそれから魔力水を作ることをマスターすることだ。そんだけでもかなりハードだ。覚悟しろよ?」
……そこから十日間はマジで地獄だった。
蒸留水ひとつ作るだけでも難しいし、魔力水を作ることは更に輪をかけてキツい。
でも、おかげで魔力水の重要さは死ぬほど理解できたし、本当にマジックポーションを九割以上、ほぼ失敗なしで作れるようになっちまった。
これがシュミットの講師かよ!?
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「困りました。まさか1500人中1387名もの方が投げ出さずに完了するとは」
「こう言っては失礼ですが、スヴェイン様。どれくらいの人数を見越していたんですか?」
「半分以上は脱落すると。シュミット流についてついてこられる人間がここまでいるとは、想定外もいいところです」
「本当に失礼ですよ、スヴェイン様。私たちは講師だったので生徒たちのやる気を直に浴びてきましたが、ギラギラと輝いていました」
「まったくだぜ。気を抜いたらこっちが食われそうだ」
「だから言ったでしょう、お兄様。お兄様以上の講師はシュミットにいないと。こうなることがわかっていたので講師の派遣に反対していたのです」
「シャルの言うとおりですね。しかし困りましたよ。これでは、この冬に受け入れる予定の見習いたちと大きな差ができてしまいました。完了した者たちを放り出すのはもったいないですし……」
「見習いたちの指導も俺たちが担当しましょうか?」
「……多分、ついて来られません」
「生温い連中を雇うつもりで」
「それがこの街では普通だったのです。本気でシュミット流を入れてしまうとこうなるとは」
本当に困りました。
シュミット出身の僕がシュミット流を舐めていたとは。
「ギルドマスター、どうしましょう?」
「少なくとも、投げ出さなかった方々は錬金術師ギルドで雇用しましょう」
「でも、差が開きすぎてますよ?」
「僕がもらった土地の中に、もう一カ所ある程度の広さがあるところがあります。そこに第二支部を建てましょう」
「第一支部も埋まってない以上却下です」
「ですが、シュミット流を扱い続ければすぐにパンクしますよ?」
「う……」
「それに講師の皆さんも大人しく本国に帰ってはいただけませんよね?」
「当然だぜ」
「あれだけのやる気を見せられちゃったらちょっと」
「本当に『交霊の儀式』直後から鍛えられないのが悔やまれる」
「シャル、この方々の金額は?」
「ひとり白金貨二百枚で結構です」
「技術の安売りです」
「それしか受け取らないと宣言されました。そもそも、お兄様と一緒に働けるだけで誉れだと」
「ミライさん?」
「来年の予算からしてもまだ黒字です。そして、この講師の方々が鍛えるであろう受講生を考えると、再来年の予算は更に増えます」
「儲かりすぎるのも困りものなんですが」
「……仕方がありません。第二支部の計画を進めましょう」
「土地は商業ギルドにお願いすればすぐにわかります。まずは相談だけでもしてください」
「わかりました。では、これにて失礼します」
ミライさんが去って行ったことで、講師陣のお仕事モードも解けました。
ただ、なにかをお願いしたい様子ですね。
「なにかご要望があれば聞きますよ?」
「それでは今のスヴェイン様ができる無茶をしないレベルで本気を見せてください!!」
「あとはお弟子さんの腕前も確認したいです!」
「弟子はさすがにあなた方に劣ると思いますが……」
「スヴェイン様が直接指導をするとどうなるか確認したいです!」
「そうだよな! 腕前がどうこうよりも癖や手つき、魔力の流れとかを確認したいよな!」
「そこもあなた方には劣ります。僕の腕前は見せてあげますが、弟子の腕前は弟子たちがいいと言ってからの話です」
「よっしゃ! これで国元の連中に自慢できることがまたひとつ増える!」
「努力の鬼才がいまどうなっているかなんて想像つかないもんね!」
「ちなみに、無茶しない程度ってどの範囲ですか?」
「ミドルポーションの特級品かハイポーションの高品質です」
「じゃあ、ハイポーションお願いします!!」
やれやれ、仕方がない。
ギルドマスターのアトリエで修行をしていた弟子たちも含めて腕前を披露することに。
講師陣もハイポーションの高品質化には特殊な素材の追加が必要な事に気がついたようですね。
さすがはシュミット流、抜け目がない。
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